103号室 友未哲俊さん
2021年1月〜2月開催 2021年も良い年になると、作品たちが言っている。
【笑いのヒトキワ荘・第二回住人募集中】シュール&ナンセンス杯
https://kakuyomu.jp/user_events/1177354055597805191
103号室に選びましたのはこちらの作品です。
汐風ドレス/
https://kakuyomu.jp/works/16816410413918565399
【ヒトキワ荘・作品分類】
・ユーモア小説 (シュール系)
【作品概要】
神戸にあるスパーランドで、足の指の股が突然一つ増えていることに気づいた松森氏。不安を払拭するため心療内科の診察を受け、そこでも解決しなかった氏は、理学博士・生乙女童子が運営する「応用位相幾何クリニック」を訪れる。そこで、一週間以内の死の宣告と、それを避けて治療を受ければ「時空がひずむ」という衝撃の内容を告げられてしまう。
管理人室より
作品分類に関しまして、作者様のご紹介どおり「サイエンス・ファンタジー」が最も、という気がしました。ただ、私はSFの知識にあまり自信がなく、「サイエンス・フィクション」なのか、Sはスペースじゃないのか、Fはファンタジーでもいいのか、などがわからないために、ここでは「ユーモア小説」とゆるく表現しておきました。私が読ませていただいたかぎりでは驚くようなユーモア作品ですし、ちょっとホラーがかった現代ドラマのようでもあります。他の企画参加作品が色合いとしてはシンプルな印象のものが多かったために、この作品が持つ幻想万華鏡のような複雑怪奇な魅力に私は圧倒されました。一番激しい爪痕を心に残されたのはこの作品です。
たしかに、小説の手法として決して新しいとは思いませんでした。作者様がご紹介で「懐かしい」と言っておられるとおりで、私もこれを読んだとき、どこかでこういう雰囲気読んだことがありそうな……と思いつつ、具体的な作品名や作家名が浮かんでこない。あえて、私がわかる範囲で言えるとしたら、どことなく「80年代の香り」という感じです。
今回、101号室に選ばせていただいた紫さんもそうで、美を重じておられるこういう作風の作家さんというのは、最近はすごく少なくなっていると思います。文化についても一部分だけ取りあげているとしたらすみませんが、80年代の日本のポップスなどでは「繊細」な世界観が売りの歌詞が溢れ返っていたのに、90年代の目立つ舞台ではほとんどなくなってしまいました。バブルのせいなのか、すっかり飽食となってしまったからか。
話を戻します。とにかく、まず「汐風ドレス」というタイトルのあまりの美しさに、「これって本当に笑いの作品?」と疑ってしまい、一日半ほど読むのをためらっていました。読んだら読んだでホラー的な箇所(物語後半部分)が特に脳裏に残ってしまい、不覚にもレビューに「怖い」を連発。後で友未さんとコメントのやりとりをさせていただき、女性の読者にはなぜか怖いと言われる……と不本意であるように語られていたので、申し訳ないと思い少し書き直しました。いや、私も一応女性だったんですねぇ……。
ですが、文章から立ち昇る美、気品などは友未作品の全体的魅力であり、あくまで「汐風ドレス」の魅力は「圧巻とも言えるアンバランスさ」だと私は思います。
冒頭部分、この文章なら別に「松森」と呼び捨てでよさそうなのに「松森氏」という呼称の主人公が登場。首を傾げる間もなく、文学としてなめらかに喉を通っていく物語。「指の股が一つ多い」という、なんともおかしな話がはじまり、そのときは実にほのぼのとした気持ちで「なかなかおもしろそう」と期待を募らせ読んでいました。
あきらかにバランスを崩しはじめたのが「生乙女先生」が出てきた辺りから。「ゲーテルの不完全性定理」や「シュレーディンガーの猫」など実際に存在する専門用語を用いながら、煙に巻くつもりではなく「ついてこい」と言われている気がして、負けてなるかとついていってみれば突然「魔法少女」の「キラキラ施術」がお出まし。
「はあ?」とあっけにとられる脳みそに次々襲いかかってくる「妖精のキスをもう一度頼んであげましょうと言う奥さん」や「椅子の上に座っていた巨大な子泣き爺の縫いぐるみ」などなどのシュール素材。やがて歯止めが利かなくなった「それ」は外の世界までも大きく巻き込んで松森氏と読者を呑み込んでいきます。
この物語の後半部分は非常に音楽的ですね! まさにクライマックスへ向けて交響楽団の音がどんどん駆けあがっていくようでした。息苦しくなるほどの緊張。不穏の最高潮。
ところで、最後の一文。こういう異質をポンと置いて終わる手法をなんと呼ぶのか私にはわかりませんけれども、付説(ディグレッション)? ではないでしょうし、言葉のデペイズマンみたいなものでしょうか……。きっと好みが分かれるところだとは思います。私はおもしろいと思いました。
とにかく聡明で品があり、芸術的な顔をしながら足を崩しているというユニークさ。素敵な作品を読ませていただき、ありがとうございました。
友未哲俊さんへ
管理人がつけたあだ名 「アンティークグラスの語り部」
私も友未さんのお友達がおっしゃったという「貴公子」に惹かれましたが、他作品を読ませていただくと、どこか美しい童話を彷彿とさせる語りが魅力のような気がして、私にとってはこういうイメージです。今のところ、好きな作品は「忘れの里の仲間たち」「汐風ドレス」「野原で」。どうも「サイエンスファンタジー」がお気に入りのようです。色としては「青」が浮かんでくるのですが、琉球ガラスという感じではないし、アンティークグラスかなぁ、と思いました。その中で微かに振れている物語の軽やかな音色を味わう……というような、そんな作品と感じます。
私の拙作も、特にほとんど読まれていない長編「キッパータック〜」を読んでいただき、熱心なコメントもくださったこと、感謝しております。
友未さん自身、カクヨムに乗り込んでこられたのが今年の1月。登録後おそらくすぐに公開された作品がこれで、その足で私の企画にご参加くださったわけですよね? その他の投稿サイトでのご活動は知り得ていませんが、あくまでカクヨムで最初にコメントさせていただいたのが、このような笑いに塗れて遊び散らしている庶民的管理人で、申し訳ないようなうれしいような……。
しかも、これ「汐風ドレス」がはじめて書かれた小説ですって!? な、なんということ……。
一つだけ言えるのは、もし友未さんが今回この企画にご参加くださらなかったとしても、私がタイトルの美しさや一万字超えに怖じけづいて読むのを見送っていたとしても、いつかどこかで絶対に友未さんの作品には目を通すことになっていたと思います。
それくらい、私の心が引き寄せられてしまう美観が作品にあり、憧れの形のようなものをたくさんの詩や文章に観ることができます。
今後も時間が取れるかぎり読ませていただきます。私としては気品ある現代ドラマ、サイエンスファンタジー系を強く望みますので、これは、というものを見つけましたら、ぜひ寄らせていただきます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。103号室獲得おめでとうございました。
ヒトキワ荘・管理人 崇期
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