102号室 つくおさん

 2021年1月〜2月開催 全44作品(管理人の拙作を除く)が贅沢にも読める!

【笑いのヒトキワ荘・第二回住人募集中】シュール&ナンセンス杯

 https://kakuyomu.jp/user_events/1177354055597805191


 102号室を獲得されたのはこちらの作品です。


 自由律俳句集「これからいいところ」/つくお

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054935829817


【ヒトキワ荘・作品分類】

 ・俳句集 (ダークコメディ系)


【作品概要】

 五・七・五の定型にこだわらない自由なリズムで編まれた川柳風自由俳句。ねた視線で描く日常の中に、一度聴くと忘れられなくなる作者渾身の痛烈な毒が散りばめられている。



 管理人室より


 今大会、全体感想に挙げさせていただいた三作品が「それほど新作というわけでもない」ということで、もしかすると、それらを選考から外して新作だけで住人を選ぶ、ということも考えなければならない、と思っていました。


 実は途中まで、こちらの作品は候補に入れておらず、他の候補作も好きなんだけど、101号室か? と言われたら「もう少しなにかが足りない」という気がしていました。


 そんな中で、四十作近くある作品をいろいろ見返しているうち、急浮上したのがつくおさんの「これからいいところ」でした。


 私は当初、この句の持ち味である「ダークな笑い」のうち数種類に強く惹かれていて、それと同時に数種類に「どうかなぁ」とも思っていて、それを天秤にかけているような状態でした。


 短編集で何話かあったら、これは好きだけどこれはちょっと……という場合、どういう評価になるか、と全体感想でも述べました。句集であれば、たった一句際立っているだけでも選べるのか、またたった一句「好きじゃないな」と思ったらもうランク外になってしまうのか、という判断の難しさ。


 コメントにも書かせていただいたとおり、たまたまこの作品を読んだ私の姪っ子(小学校高学年)がいたく気に入ってしまい、私はそのとき「いや、たしかにこの作品すごいけど」と言ったことを憶えています。それ以降はすっかり忘れてしまっていましたが、再度読み直してみたときに、その「すごいな」と思った感覚がじわじわと胸に甦ってきて、「つくお句集」の「忘れがたい毒」がスフィアとなって一つにまとまり、最初にご投稿いただいていた31句がどういう世界であるか、作品であるか、しっかと把握できたというわけです。


 なので──今回は101号室は「漢字ん帳」を選びましたが──新作の中では一番と言っていいと、私は決断できました。無理やり大会ジャンルに押し込めることが正しいことかわかりませんが、シュールな雰囲気もあります。逃れられない現実を私たちに突きつけています。


 特に思いましたのは、前回の101号室の鮭さん作品にも感じたのですが、とにかく「おれはこれで食っていく」とでもいうような、強い作品オーラというか、エネルギーですね。私は残念ながら、身近にアーティストとして、それだけで生活されている知り合いもいないですし、芸能人などを直接見た人がよく言う「オーラがすごかったです!」という体験をあまりしたことがありません。それでも、もしなにか感じることがあるとしたら、間違いなく、つくおさんの作品には作家魂とでも言うような、強い意志の光を感じました。


 なにか、突然大仰な話をしはじめているようでスミマセン。どの作家さんももちろん、作品には並ならぬ想いを込めておられることだと思います。でも作品と我が身をうまく切り離して生活している人と、一体化している人、という違いはあるかもしれません。つくおさんも現実には作品と距離は置かれているのかもしれませんが、この句集を拝見していると、まるですぐ後ろに「つくおさんのエネルギー」が張りついているような、そういう「息づき」が読み取れました。


 全部の句が実話なのか創作なのかはさておき、雰囲気としては「エッセイ」のような自虐ネタ。とにかく「笑い」は満載で、この句の登場人物が抱える「業」のような負のエネルギーはすごい。自分だけでなく、他者へも嗤いを遠慮なく浴びせています。



 特にこの一句

 

  これからもみんなが好きなものを積極的に嫌っていく新しい生活



 これはこの句集のテーマを代表して述べているような、すごい句です。キャッチフレーズみたいなものですね。他の句でも「新しい生活」を歌っているものがあります。きっとこの主人公は「新しい生活」が憎々しいのでしょう。その輝いている世界を謳歌している人たちが憎いのかもしれません。おれはおれなりに楽しむ「新しい生活」があるんだから、と言っているような気も。



  郵便屋がドアの前で呼んだので隣人の名を知り得した気分



 この句はホラーですけど、あるあるですよ。こういうの、ネット民がすぐ「サイコパス」とか言いそうですよね。私は「狂気」という言葉はまだ懐が深い気がして好きです。いい意味で「突出している」とも取れるし。サイコパスはいかんですよね。言った人が「おれはまともな人間」とマウント取れちゃうのは。それからネット民よ、「サザエさん」に出てくる堀川くんのこともサイコパスって言うのやめてあげて! 違うでしょ。ただの空気が読めない天然な子です。この句も違います。



  ココアに生クリームのせる年収150万円



 これもいいです。どんな暮らしをしようが自由なのですが、ちょっと自嘲じちょうを込めていて、想像させ、クスッとさせる。余裕があるのかないのか……。

  


 あと、すみません、noteまで追いかけていってしまって(すっかりファンですね……笑)、この句集には含まれていない句ですが、俳句をはじめたと告げるつくおさんに「妻嗤う お前が?」にも笑ってしまいました。


 またリズムもいいです。倒置法が多いよう。短歌くらいに長いことは長いんですが、不思議となめらかです。私は俳句や短歌にはさほどくわしくないので、専門的なことをどうこうは言えない立場です。ただ、笑いの作品を愛する一読者として、作者が見舞ってくれたこの「ダーティー・ジョーク」、言葉のパンチは、最上と言いたいです。こういうパンチにならいくらでも撃たれたい。たしかに人を幸せな気持ちに持っていく作品ではないかもしれませんが、この世界で味わう様々な種類の感情の一端がたしかにあります。この作品が担ってくれています。そしてこの独特な世界はきっと、つくおさんでなければ作れない──。



 最後に私が一番好きだった句


  

  パン屋の匂いが苦手な人と別れて正解だった



 これは私の中でも正解と言えます。素敵な句たちをありがとうございました。




 つくおさんへ


 管理人がつけたあだ名  「マッドでブラックな文学アウトボクサー」


 こちらもプロフィールにあった「マッド」を拝借しまして、なんとなくイメージとして、冷静に世界との距離を取って、それでも言葉で熱く戦う人、という感じにしてみました。


 これからも新作、気づきましたら読ませていただこうかと思っております。「a man with NO mission」もくせになるおもしろさですね。noteのハートを見るかぎり、つくお作品のファンがいっぱいいるようです。


 私の姪っ子に「つくおさんの作品を住人に選んだよ」と報告しましたら、「つくおさん=神やから」という、なんとも驚くようなLINEが来ました。そろそろ反抗期も目前。なんでもかんでも「好き」と言ったり評価したりする子じゃないんですけどね。なぜにつくおさんの作品がそこまでこの小学生の心を捉えたのか……。おそらく、ストレートでわかりやすい表現とその世界、ということではないでしょうか。周りの大人たちは自分たちの一方的な想いと体裁ばかり当然ながら気にしている。子どもらにしてみれば、ありきたりで生真面目な作品ばかり薦めてくるんだけど……という感じかと。それだけを好む子ばかりじゃないでしょうからね。まさか、私と同じでゲテモニストの卵だったら……不安と期待、感じますね。


  これからもあなたが嫌いな世界を読んでいきたい私の生活


 私のへたくそな句で申し訳ないですが、この句と102号室の鍵をお渡しします。次の大会で住人が決まるまで、ご自由にお使いください。お隣に聞き耳は立てないように、お願いします……。


 ヒトキワ荘・管理人 崇期より。






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