第7話 クラスで俺はやらかしたんだが!?
所詮は人間、いかに優れた者でも時には我を忘れます。
これはかの有名な劇作家シェイクスピアの名言である。別に自分が優れた人間であると言いたい訳ではないが、この状況は誰だって我を忘れる。
死んだ幼馴染が幽霊となってまで俺の元へやってきて、しかもその理由が遊びたかったから……こんなもの俺だけじゃなくシェイクスピアだって口をあんぐりするだろう。某海女さんも『○じぇじぇ!』すら言えず押し黙るだろう。
それほどまでに衝撃的な内容なのにも関わらず、当の幽霊少女はというと──
「ねぇなっくん、もうちょっとちゃんとしたご飯食べたほうがいいよ。というか野菜がもやし以外存在しないのはなんで?」
当の幽霊少女はというと、なんか普通に馴染んでいる。そしてたった1日で違和感が減ってきている俺もどうかしている。
「あのな、もやしってのはすごいんだぞ? 野菜嫌いを豪語する人間でも大半は食べられる食材だ」
「あ〜、確かに野菜嫌いって言ってる子も焼きそばのもやしとかは普通に食べてたなぁ」
「そう、もやしは魔法の野菜だ。安い、かさ増し出来る、炒めまくれば味も食感もなくなる、故にどんな料理に入れても邪魔しない。これほど便利な野菜、いや食材がこの世にあるだろうかいやないっ!! そろそろ日本はもやし記念日を正式に制定すべきだと思う」
このような理由から俺はもやし最強説を推している。因みに2位はじゃが芋だ。
「なっくんが総理大臣になったら日本休日だらけになりそうだね」
「というかお前は俺の家族かよ? 妹ですらこんなに心配しねぇよ。大体、今更だがなんで居付いてんの? 俺別に一緒に居ていいよなんて言ってないんだが」
そう、言っていないのだ。なんか溶け込みすぎて突っ込むのを忘れかけていたが、とにかく帰って欲しい。幽霊とは言え同い年の女子と一つ屋根の下など、年頃の男子生徒には荷が重い。
「覚えてないのなっくん? 昨日私が遊びにきたんだ! って言ったら頭抱えて「もう面倒くさい、勝手にしろ……」って言ってたじゃん」
「言った……かも知れんが、昨日は昨日今日は今日だ! 俺は気分で発言を変えるからな。今の気持ちは出てって欲しい、だ」
俺は頭を掻きながら片手でシッシッと八重洲を払うように手を振った。
正直ずっと俺のことを覚えていてくれて、死んでからも俺に会うためわざわざ自分の足でこんな場所までやって来て、一応俺を助けてくれた。
だから雑に追い返すのは心が痛まないでもないが、このままでは俺の理性が危ない。見た目が良いのもさらに危ない点だ。
恐らくお願いするだけでは通用しないだろう。だからこそ少し乱暴な言い方で追い返すことにした。恐らくこれで俺に幻滅しただろう。彼女が知っていて、会いに来たのは過去の俺だ。正義感溢れていた眩しくて恥ずかしい俺だ。
であれば逆の俺を見せてやれば良い。そうすれば未練も何もなく成仏できんだろ?
「……そっか、やっぱ変わってないね、なっくんは」
……えっ、何? 俺昔からこんな奴でしたっけ? 自分で言うのもおかしな話だが昔の俺って良い奴だったと思うんだが? もしかして人からはそう見えてたのかしら?
「あの……若干傷つくんだが……俺ってそんないやな奴でした?」
彼女は大きく首を横に振る。
「ううん、そうじゃないよ! なっくんはすっごく優しいよ! 昔も……今も」
「優しい? 今が? まぁでも確かに誰にも迷惑をかけないよう誰にも話しかけないという配慮ができる人間ではあるが」
他にも休み時間はついつい目が合ってしまわないよう寝ていたり、体育の時間では出来るだけ邪魔をしないように端でうろうろすると言う配慮もできる。
「ははっ! だってなっくん昔から──なっくん、富山の学校って始業何時?」
「ん? 大体どこも変わらんだろ? 8:40分か……おかしいな、幽霊に憑かれたことで時計が正確に読めなくなったのかも知れん」
「あたしにそんな力ないよ! なっくん早くしないと! もう8:20分だよ!」
その事実に顔面蒼白になる余裕すらなく大急ぎで支度をする。いつも自転車をゆっくり漕いで30分ほどなので、死ぬ気で走らせれば間に合うかも知れない。
「やばいやばいやばい! あんなことがあって城端先生に迷惑かけたばっかだろうが! それで遅刻したら今度こそ見放される!」
こんな時に制服がブレザーというのがネックになる。慌てるとネクタイを上手く縛れない。
「なっくん頑張──キャー!! ここで着替えないでよ!」
「うるさいわ幽霊! お前のせいだろ黙ってろ!」
寝巻きから制服に着替え今日の授業で使う教科書を探す。だがそんな時間もないので仕方ないが全ての教科書を鞄に詰め込んだ。そして軽く口を濯ぎ外に出る。ここまでおよそ2分。
そして大急ぎで自転車を漕ぎまくる。いつも30分かけている道を18分で行こうと言うのだ。相当なスピードで漕がねばならない。
「なっくん頑張れ! なっくん頑張れ!」
八重洲は俺の自転車の後ろに乗っていた。幽霊のため重さは無い。だからなんの影響もないはずなのだが、後ろに乗っていると言う事実が不思議と歩みを鈍重にさせる。
「ファイト〜、いっぱ……いっぱ……だめだ、きつぃ! 休みたい……!」
およそ半分ほど進んだくらいで後ろに誰かいるとか関係なく遅くなった。車体はぐらついており、スピードも擬音で表すならサーではなくギコギコだ。まだ半分も残っている。
しかもここまでで8分使っている。この体力で残り10分切りは無理だ。絶対無理。100億かけても……300円かけても良い。
「なっくん大丈夫! もう半分だよ! 同じこともう一回やるだけだよ!」
黙ってろこの体育会系が! 同じことをもう一度やろうにも前提条件が違うじゃねぇか!なんで体育会系ってHP無限なんですかね? なんで持久走終わりまでしょわしない(落ち着きがない)んだ? そんな体力あんならもっと全力で走れよ! 全力で走って1500m8分台のやつに失礼だろうが!
「うる……さいな……だったらお前が……漕……よ!」
「えっ? 良いの? 体借りることになるけど」
「良いから……やんなら……早くぅ!」
「じゃあ……失礼します!」
その瞬間、俺の意識は途切れた──
8:39分教室にて──
「(
「やっべもうそんな時間かよ!」
「早く座れ座れ!」
「この人マジでやるからなぁ」
先ほどまで騒がしかった生徒たちは一斉に席につき、静かに残り数秒後のホームルームを待っていた。
「《──やばいやばい間に合うかな?》」
息を切らしながら廊下を走り抜ける男子生徒。
「ん? あれは……こら〜、早く教室入りなさ〜い」
見回りをしていた女教師に注意を受けるその生徒は、その教師に向かって手を振り上げ挨拶をする。
「《あはようございます先生! 走ってるけど今日だけは見逃してねぇ! それじゃっ!》」
「……あの子、あんな元気のいい生徒だったかしら?」
その男子生徒は階段を2段飛ばししながら走り、そして教室の扉に手をかけた。
「じゃあちょっとだけ早いが始めるか。委員長号令をかけ──」
「かけてぃ! ……痛っつぁい……え? 何? なんの音?」
驚きのあまり背後の黒板に頭をぶつけた城端。痛めた後頭部をさすりながらその音の根源に目を向けると見慣れた男子生徒が息を切らしながら立っていた。
「……黒……薙?」
「《はぁ…… はぁ…… はぁ…… はぁあ……先生!》」
「は、はい……?」
「《おはよう……ございます! ギリギリセぇ……セーフ……だよね?!》」
まるでアイドルのようにピースから片目を覗かせるポーズをとる目に前の生徒に、教室の面々はこの一言のみを発した──
「「「「「「は?」」」」」」
死んだはずの幼馴染みがぼっちの俺のもとに遊びにきたんだが?! 依澄つきみ @juukihuji426
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