こんな異世界生活は間違っている!!
ーーゆっくりと目を開ける。差し込んでくる光が非常に鬱陶しい。辺りからは大勢の人間の声が煩いくらい響いている。快晴な青空の真下には多くの店が連なり、賑わっている。
……いや、賑わっているのは俺が原因だ。なぜか?理由は簡単。それは俺が道のど真ん中で寝転がっていたからだ。
「何あの人?不審者?」「きっとそうよぉ!通報しましょ!」「大丈夫ですもうしました」「嫌だわぁ、こんな真っ昼間から2日酔いかしら?邪魔だわぁ」「何かだろあの服?見たことないな?」
俺を中心にして野次馬ができていた。先ほど2日酔いと聞こえたがまさにそんな感じで頭が痛い。
「痛っ……あぁくそ!ここどこーーあ、その前にどかねぇと!ーーすいません邪魔ですよね?今どきま……は?」
急いで立ち上がりその野次馬達を視界に入れた時、俺は思わず脱けた声を出してしまった。なぜなら俺の目の前には、赤や青などのカラフルな髪色の人間に、なぜか獣のような耳を生やした人間、これだけならコスプレと思えなくもないが、なんと蜥蜴が擬人化したかのような生き物がまるで人間のように服を着て人の言葉を喋っているのだ。
「鱗、だよな?……ほんとに、異世界とやらに来たらしい……こんなもん日本、いや地球じゃありえねぇ。……ちょっと試すか?」
俺がぶつぶつと呟いていると、その蜥蜴人間が話しかけてきた。風態や声質から男のようだ。
「おいお前、何ずっと睨んでんだ?なんかついてっか?」
「……つかぬことをお聞きしますが、その肌は自前で?」
「は、何言ってんだお前?《リザードマン》のこと知らねぇって言うんじゃないだろうな?ワタシ達はーー」
「ちょいと失礼」
「ーー肌を触られるとーーヒャう!……敏感だから触らないでくれと言いたかったのに……こいつ……変態だ!!」
ほうほう……リザードマン?の体はほんとにざらざらしていた。と言うことはここは本当に異世界ーーん?今なんて?
「変……態?俺が?」
ちょっと待て、確かに急に触ったことは悪かったが変態と言われるようなことか?ちょっと手を触っただけだぞ?もしかしてこの世界では体に触れるのは犯罪だったりするのだろうか?
そう思い辺りを見渡すと、怯え、そして嫌悪感満載の人々数人が隣同士で手を触れ合っていた。俺はなんとなくだがこの状況を理解し、自分でもはっきり分かるくらい青ざめた。
「…………もしかしてなんですが、貴方……性別は?」
「ーー女よっ!!」
……や……や……ヤバぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!!!!
これってつまりあれだよな?さっき俺は見知らぬ女性の肌、しかも……その、敏感な部分を触ってしまったのか?そりゃ騒ぎもするしあんな犯罪者を見るような視線を送るだろう。
「あ、あの……俺リザードマンってのを知らなくて……それと貴方が女性だって気づかなくてーーってあ、完全にチョイスミスった」
ーーそこからは酷かった。リザードマン本気のグーパンを顔に受け、周囲の人達からは蔑む視線と言葉を浴びせられ、子供からは石を投げつけられ、最終的にはとある店にあったロープで縛りつけられ投げ捨てられた。
「けっ!この程度で済ませてやってるのをありがたく思いなさい!この変態が!」
「……はい、すいませんでした。反省してます」
ボロボロにされ縛りつけられ、正座をさせられている。これではどちらが被害者かわかったものではない。
なんだこれ?なんだこの仕打ち……いや確かに俺が悪かった、この件に関してはそれでいいさ。問題はそこじゃない……おい神、なんだこれ?殺されてやってきたこの世界でなんでこんな目に会わにゃならんのだ?
お前がよこしたスローライフも使い方わかんねぇし、大体お前が悪いんだからもうちょっとアフターサービス充実させとけよ!なんか俺を助けてくれるゲームでいう案内役的なやつ遣わせろよお前神だろうが!!
始めはありがたかった言語理解もなんだったら無い方が良かった。だって浴びせられる言葉の刃が痛いんだもの、辛いんだもの。こんなことなら何言ってんのか意味わからん方が傷付かずに済んだのに。
そんな時だ。下をむき今にも泣き出しそうな俺のもとに1つの足が近づいた。もしやこれは助け舟ーー
「え〜っと、通報受けてきたんだけど……不審者って、君のこと?」
助け舟かと思ったその足は、長い槍を持った兵士のような男。日本で言うところの交番のおまわりさん的な役だろうか?とにかく今言えること、それは……詰んだと言うことである。もういい、もうめんどくさい。
「そうです……私が、変態な不審者さんです……」
こうして俺はこの男に連れられ牢獄に入り、すぐさま裁判が始まった。
道端の真ん中で寝転がっていたことがそこまで問題だったわけではない。あれだけなら注意で済んだのだ。だが、俺には余罪があった。
白昼堂々の変態行為、女性に対しての侮辱的発言、そしてこの
「は、はは……意味わかんね」
そして俺は有罪となり、1年間の禁固刑となった。ここまで1週間、未だまともに景色すら見ていない。
唖然とし、意味がわからなすぎてもはや笑えてきた俺は、連れられるがまま独房へと入りそしてーー
ーー1年が経った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーこれに懲りたらもうするなよ!」
「……はい、すいませんした……」
刑期を終えた俺はもともと着ていたスーツに1年ぶりに袖を通し、ゆっくりと歩き出した。
因みにこの1年間、独房では暇すぎて筋トレばかりしていた。おかげで気分は最悪なのに調子は最高だ。寧ろ捕まる前より健康体だと言える。
俺はとぼとぼと歩く。しかし目的なく歩いているわけではない。服役最終日に看守から言われたのだ。出所したらまず『ギルド』を目指せ、と。そこで冒険者登録なるものをすることで身分証代わりものが手に入るらしい。残酷な宣告として、俺のような住所不定無職の出来る仕事は冒険者だけだそうな。どこも雇ってくれないらしい。
ちなみにその時言われたのが、冒険者同士では敬語を使うな!とのことだ。なんでも敬語だとものすごく舐められるらしい。……なんだよ敬語使ったら舐められる職業って。
ーーなどと考えつつ、俺はとにかくもらった地図を頼りに足を運ぶ。道中数人に嫌な視線を送られた。ついでにギリギリ聞こえるヒソヒソ話も。
どうやらこのスーツが原因らしい。確かにこの世界ではこのような服はないようで、悪目立ち+「あ!あの時の変態だ」と言う紐付けに使われてしまっている。
「服、変えるしかないか……つってもこの世界の金なんて持ってねぇよクソが」
仕方がないのでそのままギルドへと直行する。それにしても職なし金なし食事なし住処なしという思い描いていたスローライフとは真反対の生活を強いられるとは……あのクソ神今度もし会えたら顔の形が変形するまで殴ってやる。
歩き始めて40分、ようやくギルドに到着した。なんというか、ヨーロッパ感がすごい。ガラスではなく木の扉というのがまた一段と雰囲気を底上げしている。
扉を押し中に入った瞬間飛び込んできたもの、それはそれだけで気分が悪くなりそうなレベルの酒臭さだった。
「うっ……最悪な匂いだなここ……」
正直今すぐにでも帰りたかったがもう逮捕されないためだ。我慢して中に足を踏み入れた。そして抱いた感想はーー
「登録とかどうこう言ってたから、役所的なのを想像していたが……まるで酒場だな」
真っ昼間だと言うのに酒を飲み酔っ払っている男達。ガタイが良く、背中や腰に剣を携えていることから戦士であることは理解できた。冒険者というのをいまいち理解していないが、力仕事なのだろうか?
しかしこんな場所で本当に登録なんてやってるのか?もしかしてあれか、暗号的なのがいるのか?だとしたら分からんのだが。
訳もわからず辺りをキョロキョロしているとーー
「ーーそこのお兄さん、今日はどんな用だい?」
女性の声だ。俺は言われた通りタメ口で返事をする。感覚で言うと後輩に話す感じだ。
「冒険者登録をしにーーっておいなんだその服!胸元そんなあけて恥ずかしくないのか?!」
話しかけてきた女性はものすごく露出した服を着ており、胸なんて走ったら零れるんじゃないかと言うほどに飛び出している。完全に痴女だ。
しかしこの痴女に反応を示しているのは俺だけで、周りの連中は寧ろ俺に対し怪訝な目を向けている。
なんでだ?!俺が捕まってこいつが捕まらない?どう見たってこっちの方が変態だろうに。
「あのさ……お兄さんに服のこと言われたくないんですけど。何その服?見たことないんだけど」
痴女は呆れ返ったような表情で俺を見る。視線が痛い。コイツだけでなく周りもなんだか「変な奴がきた」と言いたげだ。これは早々に立ち去らねば。
「悪かったよ。それよりここで冒険者登録ってのができるって聞いたんだが、ほんとにここで合ってるのか?」
「ん?お兄さん冒険者になりたいの?」
「正確にはなりたいんじゃない、ならざるを得ないんだ」
「あ〜、なるほどね。貧民か。それならその変てこな服や私に変なことを言ってきたのも頷けるね」
勝手に不名誉な納得をされたがまぁいいか。ここを早く出る方が先決だ。
「とにかく冒険者登録をしたい。どこでやれんのか知ってるか?」
「当たり前じゃんだって私ここで働いてるんだし」
……なるほど今のでいくつか分かった。まずここは話の通り冒険者ギルドであること、そしてこの女がここの従業員であること、最後にこの痴女の服はこの世界だと普通だと言うことだ。出ないと採用されるわけがない。大体店員なら敬語使えよな紛らわしい。まぁ今はそんなことよりもーー
「なるほどな、それで俺に話しかけてきたのか。じゃあ悪いが早速案内してくれ、一刻も早く登録したいんだ」
従業員と分かったことから、敬語に戻そうかとも思ったが、他の冒険者たちが俺のことをガン見しているのでそれができない。
「OK分かったよ。ついてきて」
こうして案内されたところには、確かに受付があり、看板に『クエストの受注、報酬の受け取り、冒険者登録に更新はこちらです』と書いてあった。
「ここで冒険者登録をすることができるよ!じゃあお兄さん、
「あぁ、助かった」
こうして去っていった痴女を見送った後、俺は受付へと向かう。それにしてもいい数値とはなんのことだろうか?まず身体測定でもするのか?
「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件で?」
受付の女性もとてもはだけた格好をしていたが、先程のこともある。指摘はなんとか飲み込んだ。あとこの人は敬語だ、やっぱあいつが仕事できないんだな。
「冒険者登録をしたいんだが……ここでいいんだよな?」
「はい間違いありませんよ!それでは新しく冒険者ということですのでーー1500レントの登録料をお願いします」
1500レント……初めて聞く単語だが、登録料という単語で完全に理解した。つまり金を払えということである。しかしこの世界に来たばかりの俺。鞄も車に持っていかれ手元にない。つまり、1レントどころか1円すら持ってはいなかった。
断言しようーーこんなスローライフは間違っている!! 依澄つきみ @juukihuji426
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