終章

第67話

 あれから一週間が経過した。

 俺たち〈七色の夜明け〉は悪魔撃破の功績を認められて、なんとS級パーティーへと飛び級でランクアップした。

 俺とネルが二人でちまちま頑張っていたころはE級で、ユカノとアルシャが加わってD級。そこから一気に四階級アップしたのだ。

 これはとてつもないことで、四階級飛び級アップなんて前代未聞。〈七色の夜明け〉の名前はアイレス中に響き渡った。


「いやあ、あのクソ悪魔のおかげであたしたちの名が上がったな」アルシャは言った。「といっても、犠牲者がたくさん出たから素直に喜べねえんだけどな……」

「そうですね……」


 犠牲者がいなければ、この状況をネルはもっともっと喜んで、浮かれていたはずだ。それは俺もユカノもアルシャも同じことで……。


「まあ、その、犠牲者がたくさん出たことと、私たちのS級昇格――この二つは切り離して考えるべきなんじゃないかな?」ユカノは言った。

「そうなんだろうけれど、なかなかそう考えるのは難しいな」俺は言った。

「しばらくは、アイレス全体が喪に服すのかもしれないね」ユカノは言った。

「それはどーだろーな」アルシャは言った。「この街だけでも、人は毎日山ほど死んでるからな。きっと、すぐに悪魔のことなんてみんな忘れるだろ」


 そうかもしれない。

 アイレスの住人は悪魔のことをすぐに忘れ、前を向いて人生を歩んでいくのかもしれない。もちろん、人にもよるだろうが、俺たちもきっとそうだろう。だけど、たまに『そういえば昔、みんなで悪魔を倒したよな』なんて思い出すのかもしれない。それくらいが、ちょうどいい。

 だが、セドリックのことを、俺ははたして忘れられるだろうか? それは難しいだろう。しかし、彼に対する感情は次第に変化していき、次第に薄れていくに違いない。


 四人で喋っていると、〈七色の夜明け〉パーティーハウスに、何人か客がやってきた。

 まずやってきたのはキャス。


「S級昇格おめでとうにゃ。これでみんなはアイレスを代表するパーティーだにゃ。これからもうち――キャスのことをよろしくにゃ」


 次にやってきたのはエイリ。


「S級昇格おめでとう。ああ、それと〈限られた弱体化:リミテッド・デバフ〉は、どうやらかなり強力なスキルのようだな。ネルのシックスセンスとやらも、なかなかどうして馬鹿にできないな」


 その次にやってきたのはサイラスさん。


「〈七色の夜明け〉S級昇格おめでとうございます。アルシャがS級パーティーの一員であることを、カナルス神殿の司教として――いや、一個人として嬉しく思います」


 そして、最後にやってきたのはブルーノだった。彼の両脇には見知らぬ女が二人。相変わらずのプレイボーイだ。


「いよお、レン。それにお姉さん方。いやあ、みんなのおかげで助かった。命拾いしたぜ。ありがとなー」


 客人が帰った後、四人でささやかなパーティーをした。『〈七色の夜明け〉S級昇格おめでとうパーティー』だ。

 四人で作った料理を四人で消費し、存分に楽しんだ後、俺たちはぐっすりと眠った。朝、起床すると、いつものように朝食を食べ、クエストをこなすための準備をする。

 悪魔を倒そうと、S級パーティーになろうとも、俺たちの日常は劇的には変わらない。これからも、俺たちは〈七色の夜明け〉として、冒険者としての活動を続ける。


 レン、ネル、ユカノ、アルシャ。

 〈七色の夜明け〉のメンバーはこれから増えるかもしれないし、減るのかもしれない。けれど、今のところはこの四人。


「さてと、それじゃ、冒険者ギルドに行くか」と俺。

「私たちはS級パーティーなのですから、それ相応のすごいクエストを受注しましょう」とネル。

「私はドラゴン退治なんてしてみたいね」とユカノ。

「いいな。ドラゴンぶっ殺して豪遊だっ!」とアルシャ。


 四人で仲良く、冒険者ギルドへと向かう。街を行き交う人々の、俺たちを見る目が前とは異なっている。俺たち自体は何も変化していないのに。

 まあ、いいや。


 しばらくして、冒険者ギルドの前に到着する。四人で古く厳かな扉を開けて、同時に建物の中へと足を踏み入れる――。


「俺たちの冒険は始まったばかりだ」

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ただそこにいるだけで、最強 青水 @Aomizu

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