庭の奧

 このさき自分がどう衰えていくかは知れない。もし寿江のように壊れるとして、自分をつくる全部がどうしようもなくポロポロ剥がれていくとして、最後に留まる小さな欠片かけらは、戸口にうずくまるまれびとをもてなすだろうか。寿江のようにあれるだろうか。


 つづいた雨があがって良く晴れた十月の末、誠司は庭にしゃがんで雑草を抜きながら、寿江がたった一度、そうした何かを良くないように言ったのを思い出した。

 あれも秋の晴れた日のこと。誠司はやはり草取りをしていた。身をかがめたまま庭の奧へ進もうとしたところへ、縁側で見ていた寿江がいきなり声をあげた。

「ダメよっ……そこ、女の人が横になって浮かんでる」

 そう、ちょうどこのあたり、ヤマモモとツツジのあいだの薄暗がりだった。

 上に動く気配がした。誠司は頭をもたげないように、ゆっくり首をめぐらせて、それを見た。

「もしかして、あなたでしたか?」

 ジョロウグモの巣が秋風に小さく揺れた。


    了

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異実〈パラリアル〉 真雁越冬 @maghan

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