この玩具屋おもちゃやに置いてあるおもちゃのほとんどが、いまどきの子供には見向きもされないようなものばかりだった。


 僕は、左右を交互に見やりながら、さらに奥の方へと入っていった。見かけによらず、せまくるしいことはなかった。むしろ、ひとの一生のように、たえずそのかたちを変えているのではないかとさえ思われた。


 どう遊ぶのかもわからないおもちゃが、いくつもあった。一度どこかで目にしたことのあるようなものもあったが、それは気のせいかもしれなかった。


 店のいちばん奥の棚――僕は、身も心も釘付けになった。


 そこにあったのは、大きなスペースシャトルだった。が、本物から縮尺をすると、気の遠くなるような数字がはじきだされそうだった。


 たくさん星座の名前を暗記しては、それを自慢していた、子どものころの僕。しかし、いつ夜空を見上げても、頭に入れた星座を、ひとつも見つけることはできなかった。――




「お子さんへのプレゼントですか?」


 その声は、僕の背中にかたりかけてきた。


 振り返るとそこには、白い眉をした男性がいた。


「このスペースシャトルは、どういうおもちゃですか?」

「これは……車輪がついているでしょう」


 車輪――僕はこのスペースシャトルを手に取ってみた。たしかにそのうらに、四つの車輪がついていた。


 店主は、僕から渡されたスペースシャトルを、机のうえにおいて、そのはらのあたりを、しわだらけの手でにぎりこんだ。


「これを後ろに思いっきり引っ張ると――ほら、前に進むんです」


 軽やかに、たてにではなく、よこに進んでいく、スペースシャトル。


「どうです。買いますか?」


 僕もためしにうしろに引っ張って、不意うちのように離してみた。それでもこのスペースシャトルは、さきほどと同じ動きをした。


 それは僕のこころのなかに、いいもしれない、なにかあたたかいものを運んできてくれた。いずれ僕も、日々の生活をありきたりなものにしてしまう、足かせのようなものから解放されて、前へ前へと進めるのかもしれない。

 

 僕はこのスペースシャトルを買うことにした。


 そして、緑色の袋に包んでもらい、赤色のリボンで結んでもらった。

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スペースシャトル 紫鳥コウ @Smilitary

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