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そこは、うら寂しい商店街だった。
その入り口では、塗装のはげたサンタクロースが、僕を迎えにきてくれていた。そのとなりにあるクリスマスツリーに飾られた赤色と青色の鈴は、陽の当たらないところに隠れた果実のようだった。
しかし僕は、この商店街を愛さないわけにはいかなかった。
どこを見ても、ひとの姿は見えなかった。それは不気味さよりむしろ、浅瀬に足をひたすような、感覚のゆらめきを起こすものだった。
商店街のまんなかに、ようやく本屋の看板を見つけることができた。
ただその本屋は、もう開いていなかった。なにより、シャッターの向こうに、本が並んでいるのかどうかさえ、あやしかった。
あたりは、どんどん暗くなってきていた。
僕は、夜のとばりにのみこまれていく商店街の、さらに深い方へと歩みを進めていった。家に帰るより、そこから遠のいていくことでしか、いまの自分の満たされなさをまぎらわすことはできなかったのだ。
本屋だけではなく、ほとんどの店が閉まっていた
なによりこのシャッターの向こうに、ひとの生活の営みがあるとは、とうてい思えなかった。むしろそこには、十年ほど前の空気が、行き場もなく漂っているように感じられた。
ただでさえうら寂しいこの商店街は、奥に行けば行くほど、悲しさとむなしさを抱え込んでいるようだった。それはまるで、僕のいまのこころのようだった。
いくつかの街灯のあかりは、もう足もとを照らしていない。――
雪がぱらぱらとふりはじめた。
そして、僕はようやく、あたたかなひかりが道に落ちているのを見つけた。
それは、
なかをのぞいてみると、まるで、あらゆるおとなの記憶をつぎはぎしてできたような、褪せてしまいそうなはかなさがあった。
なかからかすかに聞こえてくる曲は、ほんとうは存在しないだれかが作ったかのようなものだった。
夏の記憶をむりやり冬の音符にとじこめたような、名づけようのない曲だった。
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