2
外はだいぶ冷えこんでいた。
が、雪は降っていないし、積もってもいなかった。
どこかまぶしい感じがした。それは、ずっと部屋にこもっている僕だけの感覚らしかった。うす曇りだというのに、少し頭を下げて歩かなければならなかった。
外へ出てみたものの、どこにもクリスマスの気配はなかった。ただ、ありきたりな暦上の冬がそこにはあった。
「いまは何時?」
「ええと……三時です」
大山は腕時計を見てそう答えた。
「きみは、五時までには帰社しなければならないのだろう?」
「そうです。だから、遠出はできませんね」
僕たちは行く当てがないまま、家の周りをうろうろするしかなかった。
冷やかな強い風が何度も吹く。
それは、僕たちの口をとざしてしまうのに充分すぎるものであった。――
約束の時間は過ぎようとしていた。が、僕はまだ、家に帰る気にはならなかった。帰る必要さえ、感じていなかった。
「よし、僕もきみの会社の方へ行こう」
その提案に、大山は難色を示した。
「先生には、原稿をやってもらわないと困ります」
「そんなことを言うものではないよ。もっと歩いて気分転換をした方が、僕の筆は乗るかもしれない」
しばらくの押し問答のすえ、僕たちは電車に乗った。――
「帰りの電車はもっと混んでいますよ」
そう言って、大山は、会社の方へと消えていった。残された僕は、クリスマスの気配を探すことにした。
が、この出版社の周りもまた、くたびれていた。ときおり車は通るものの、ひとの姿はまばらだった。なにより、道行くひとびとは一様に、どんよりとした影をひきずっていた。この町もまた、クリスマスとは縁がないように見えた。
僕は宛先のない手紙だった。
まばゆくきらめくことのないクリスマスツリーは、ただの木にすぎなかった。クリスマスというものは、夜とともに訪れるものなのかもしれない。
僕はもう、クリスマスの気配を探すのを止めた。そして、本を何冊か買って帰ろうと思いついた。
が、本屋もまた、すぐには見つからなかった。僕という手紙は、どこにもたどりつかず、このまま家に返されてしまうのかもしれない。
見知らない道をさまよう。
すると、僕の目の前に、なだらかな下り坂が見えてきた。
そしてその先に、静かによこたわる商店街があった。
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