第4話 船務長の同期

第4話 船務長の同期


○日本国高知県沖約25海里 輸送艦しもきた艦橋操舵室 201X年8月某日 ミサイル被弾3分45秒前


 空自から輸送艦しもきたへ向かうそぶりを見せている領空侵犯機の存在を通告されていた頃に時間を戻して艦橋操舵室を見てみると、CIC同様に随時情報共有が行われていて、操舵室の各員も緊張の糸が張り詰めている。

「もどーせー」

 ここではCICにて詰めている艦長で1等海佐の幸島こうじま秀亀ひできに代わり、副長兼航海長で2等海佐の高崎たかさき元也もとやが幹部用作業衣に作業帽姿で航海長操艦を行っている。

「もどーせー」

 高崎の指示に操舵員は返答すると、自動車のハンドルのような舵を左に回して艦が直進するように戻す。

 それまで右に向かっていた輸送艦しもきたは、緩やかに傾きを徐々に戻しつつ直進をし始める。

 高崎はその様子を体感しながら少しかがむとレピータコンパス(羅針盤)の脇に左手を添え、右手の指四本を握って親指を軽く立てると手前の端に乗せる。

 そして、親指に顎をつけ艦首方向を数秒見据える。

 高崎から少しひだり舷側に目を向けると、青ストラップの双眼鏡を両手に持って覗きながら進行方向を見ている、1等海尉で航海士の市井しせい典子のりこの姿もある。

(予定外の動きには参ったわね……せっかく代休を裕之ひろゆきと合わせて来週後半に入れたっていうのに……遥名はるなと3人で遊びに行く約束、守れるかしら……)

 市井は確認を行いつつも、心の中で彼女の夫である市井裕之と、二人との間の子供である市井遥名を思い浮かべてしまっている。

(数週間ぶりに家に帰れるかと思っていたのに……幸島艦長の事だから、ちゃんと無事に全員を呉へ連れ帰ってくれるとは思うけど……)

 双眼鏡を下ろすと進行方向やや右側を見ている高崎の方へ数秒見やり、市井は進行方向やや左側へ視線を向ける。

『我に向かう飛翔体はミサイルと思われる。現在、速度830ktノットかず6。方位315サン、ヒト、ゴ。本艦へ真っ直ぐ突っ込んでくる。目標は本艦と思われる。到達まで3分30秒』

 CICの伝令から艦内放送が入り、高崎は目を細めて微動だにせず耳を澄ましている。

 市井はというと持っていた双眼鏡から手を離して左手を窓枠に置き、高崎から順番に艦橋要員達を一瞥していき、最後に左舷側にいる濃紺の作業衣に輸送艦しもきたの部隊識別帽を被った2等海尉と、第12通信隊の部隊識別帽を着用した1等陸尉を視界に収める

 ややあって体を正面に戻して進行方向のわずかに左側の海を注視しながら、市井は心の中で呟く。

(それに……よりにも寄って陸自を乗せている時に……航海科私達も出来るだけ頑張るから……ミサイルそっちは頼んだわよ、茉蒜まひる……)

 市井は、CICにいる同期で船務長の黛茉蒜を思いながら、今目の前の自分の任務へ専念するためもう一度双眼鏡を覗く。

『対空戦闘用意!』

 CICから対空戦闘が発令されると同時に、艦内だけでなく艦外にも一般警報が鳴り響き、ややあって休憩していた海士長も含めた航海要員達も大慌てでラッタルを駆け登って来て操舵室へと飛び込み、明るい灰色の88式鉄帽(通称:鉄帽、鉄鉢テッパチ)を被り“カポック”と呼ばれる明るいグレーの救命胴衣を着て配置についていく。

 高崎は一般警報が鳴り響く中、カポックを着ながら艦橋要員達へ聞こえるように大きめの声で指示を出す。

「両舷前進第1戦速いっせんそーかーじ中央!」

 それを受け、鉄帽を被りカポックを着終えていた市井が艦首方向を見たまま大きめの声で復唱する。

「両舷前進第1戦速、舵中央了解」

 そして、市井より0.5秒くらい遅れて操舵員が高崎の指示を復唱する。

「両舷前進第1戦速いちせんそー、舵中央ヨーソロー!」

 鉄帽を被り終えていた高崎は市井と操舵員が自分の指示を復唱したのを確認すると、今度は艦橋ひだり舷側後方の外へと通じている扉の方向を少し見やる。

 そこには壁に手を添えて体を支えている、陸上戦闘服3型の上にカポックを着用して海自の鉄帽を被っている1等陸尉の女性、新町しんまち百合香ゆりかが立っている。

 その横には女性同様に鉄帽とカポックを着用した2等海尉の男性が立っていて、何か話をしている様子も伺える。

(榛東しんとう……間違えた。新町は艦橋交話員見ながら通信士の桑野くわのと喋っているな。あいつらしい)

 防大同期で陸自12旅12通の指揮所通信小隊長に就いている新町(旧姓、榛東)百合香の視線の先に気付き、艦首方向へ向き直りながら呆れたような表情を浮かべる。

「……なるほどね。こっちの通信も常に気が張って大変そうだいね」

 新町が艦橋交話員を見ながら話をしていると、隣に立っている2等海尉で通信士の桑野くわのかけるが補足を入れる。

「ここは民間の航路から外れた海域ではありますが、国Vこくブイ 156.8イチゴーロクヤー等を、非常時に備えて常に耳を傾けていますから、気は抜けませんね」

 国Vとは“国際VHF”の略語で、特に桑野が言っているのは『チャンネル16(船舶・海岸局共に周波数は156.800MHz)』の事である。

 この周波数は遭難時や安全に関する通信と相手局の呼び出しを行うためのもので、日常では相手船舶をこの周波数と、小型船舶は専用に割り当てられた『チャンネル77(156.875MHz)』を使って呼び出した後に、例えば相手が船舶であれば船舶局用の“チャンネル6”や小型船舶局用の“チャンネル69”を最優先にチャンネル8や10(小型船舶はチャンネル72、73)等へ切り替えて交信を続けるのである。

 なお緊急通信以外で“チャンネル16”を占有して使用する行為は、法律で認められていない事をここに付け加えておく。

「それにしても、まっさか自分が乗ってる時にミサイルが飛んでくるなんて、全然思いもしなかったいね……」

 新町は深刻そうにつぶやくと、レピータコンパス前の高崎とその横の市井を視界に入れる

「何も対処しなければ、あと3分10秒ほどで弾着だんちゃくします」

 桑野が艦内時計を見て言うと、新町は自分の腕時計を見ながら呟きをこぼす

「3分10秒……カップラーメンなら二口くらいは食べられる時間かな?」

 冗談めかしたような口調の新町ではあるが、一瞬垣間見た彼女の鋭い視線に桑野は怯みそうになりながらも同じように冗談めかして返答する。

「そんなに急いで食べたら口の中を火傷やけどしますよ?」

「今こっちに来てるミサイルが爆発して火傷するよりは軽傷だと思うし、食べる事は何においても必要だと思うんよ。違う?桑野通信士?」

 新町なりの軽口を叩くと、桑野へ顔を向けて笑顔を浮かべる。

 桑野はというとそんな新町の笑顔を見て返答に困り、無意識に苦笑いを浮かべる。

『チャフ、デコイ発射始め。回避行動始め』

 CICの伝令からの艦内放送がかかると、高崎は周囲の状況を一度目視してから双眼鏡で確認しつつAIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)とOPS-20航海用レーダー等の情報の確認も入れる。

「副長、20NMマイル(≓37.04km)以内に航行中の船舶無し!」

「20NM以内に航行中の船舶無し、了解」

 高崎は即座に返答すると、耳を澄ませてチャフとデコイの発射の瞬間に神経を集中させる。

『両舷前進最大戦速せんそー面舵おもーかーじ一杯』

 CIC伝令からの艦内放送を聞いた市井は、高崎から指示を出ると思いそちらを見る。

 彼女の視界の端では操舵員も高崎を見ている様子が見え、市井以下艦橋要員達はすぐさま対応できるように身構えている。

(なるほど、ここではこういう風に指示が飛び交うんね?)

 新町がそう思った瞬間、艦橋内の空気が妙な雰囲気に包まれた気がして、不思議に思いながら見渡す。

(ん?……何?この変な空気は……?)

 誰もが高崎を注目しているのだが、どの艦橋要員達も焦りのような雰囲気をまとっているように新町には見えた。

 それは隣にいる桑野も同様で、新町の目には市井や桑野たちにうっすらと焦りの色が浮かんでいるように見える。

「副長?」

 市井の焦ったような声が聞こえ、新町と高崎が彼女を同時に見た直後にCICから艦内放送が入る。

『チャフ、デコイ発射用意よーい、てー!』

 新町が近くにあったスピーカーに視線を向けるために顔を上げている途中、高崎の「両舷前進最大戦速せんそー面舵おもーかーじ一杯!」との指示が聞こえ、市井の「了解!」と操舵員の「ヨーソロー!」という指示の復唱と了承の声も耳に入って来る。

(高崎君の横は市井典子ちゃん……だったいね?ちらって見えた顔がかなり焦ってるように見えたの、なんでなん?)

 疑問に思ってすぐ、しもきた の進行方向が直進から右へ変わるのと同時に速度も上がり、遠心力で左側へ体が引っ張られるような感覚に、新町は慌てて横の壁に手を当てて体を支える。

「うわぁ!船って、こ、こんなに傾くの!?」

「現在しもきたは約22ktノットで急ハンドルを切っています。それに艦橋ここは高い位置にあるので、余計にそう感じるのだと思います、新町小隊長」

「22ノット!?時速だと何キロなん!?」

 新町の質問に答えようとした桑野が口を開けようとした刹那、操舵室艦首側の方から女性の大きな声が聞こえてくる。

「22ktノットは時速約40kmキロです!申し訳ありませんが新町1等陸尉!驚くのも分かりますがもう少し静かにしていただけますか!?」

 一瞬肩を竦めた新町は、声の主の方へと瞬時に向ける。

 そこには進行方向となっている右舷側へ双眼鏡を両手で持ちながら向け、左へ傾いている床に対して膝を曲げながらバランスをとって立っている市井の姿があった。

 彼女の横顔を伺った新町は、彼女から苛立ちと焦りのようなものを感じ取る。

「典子ちゃん、こわっ……」

「申し訳ありません、新町小隊長。今はご覧の通り特別な状況でして……市井航海士も、普段は優しいのですが……」

「桑野君、いいのよ。今のは私が怒られて当然なんだいね。ここがこんなにピリピリしてるのに私がのんきに大声出したんだから、典子ちゃんがイラつくのも当り前な話なんよ」

 そう言って壁に掴まりながら話していると、新町は高崎も市井と同様に膝を使いながら器用にバランスを取って進行方向へ双眼鏡を向けているのに気付く。

「それにしても高崎君も典子ちゃんも、どこにも捕まらずに立ってるなんてバランス感覚がすごいんね……驚いたんよ」

 高崎は新町と桑野が小声で話している様子をちらりと見やると、直ぐに進行方向である右舷側へ視線を戻す。

「もどーせー!」

 高崎の指示の声に続き復唱があちこちで聞こえ、新町が体感していた艦の傾斜も緩やかになっていく。

『目標、針路修正しつつ本艦へ向かって来る。本艦到達まで1分10秒』

 CICからの艦内放送を行っている伝令の声に、新町はこちらにも先ほどまでとは違う声音の雰囲気に、何かを感じ取る。

(もしかして……フェーズが変わったん?)

 市井の様子も、先程より緊張したような雰囲気を漂わせ始めている。

(それも……悪い方向に……)

 新町は未だ目に見えぬミサイルがしもきたの妨害を無視して向かって来ている、それもあと1分程で見えるところに来るという事を頭に描いてしまい、小さく体を身震いさせてしまう。

「市井!」

 突然、高崎が進行方向を見たまま大声を出し、操舵室の全員が高崎を注目する。

「はい!」

「肩に力が入ってるぞ!余計な事を考えてるだろ!?俺たちがこれからやるべき事はなんだ!?」

 高崎の声は大きいものの強い口調ではないため叱責や追及といったふうはなく、彼は純粋な質問として市井へ投げかけたと新町と桑野は感じる。

「目標群の進路に対してわれ右舷みぎげん正横につけ、21フタジュウヒト番と22フタジュウフタCIWSシウスがミサイルを迎撃しやすい位置に艦を向ける事です!」

 市井の返答に高崎は視線を彼女に少しだけ向け、直ぐに無言で双眼鏡を覗くのだが、そのレンズの先は進行方向よりやや右舷側へ向けられている。

「速力そのまま!面舵10度!」

「速力そのまま!面舵10度ヨーソロー!」

 市井は高崎から答えが返ってくると思っていたために一瞬だけ反応が遅れてしまい、操舵員の直後に慌てて復唱する。

「速力そのまま!面舵10度、了解!」

 市井が慌てた様子は感じとれなかったものの、彼女の横顔に冷や汗が垂れたように新町は幻視してしまう。

『対空戦闘、近づく目標!CIWS攻撃始め!』

 市井が復唱し終わると同時にCIC伝令より、ミサイルに対しての迎撃開始を告げる放送が入る。

「もどーせー!」

同時に高崎の一際大きい声が操舵室内を響かせ、新町は市井に向いていた意識を高崎の方へ向かされてしまう

「両舷前進一杯!舵中央!!」

「両舷前進一杯!舵中央、了解!」

 市井はさりげなく高崎を見るが、すぐさま復唱しミサイルが向かって来ているであろう右舷やや後方の外を伺っている。

『目標、間もなくCIWSの射程に入る』

 攻撃直前の艦内放送と同時に、右舷見張り員より報告が入る

「右100度ミサイル視認!数、6!!」

 その報告を聞くや否や、操舵室伝令は艦内放送でそれを告げる。

 新町は桑野が右舷みぎげんを見た隙に正面の窓へ真っ直ぐ歩いていき、市井の左側に大きくあいだを空けて立つ。

「新町1尉。これからさらに忙しくなるので、邪魔にならないよう出来る限りお静かに願います」

「了解、市井航海士」

 市井の突き放すような言い方に、新町は目を細めて操舵室の窓から見える21番CIWSを見やる。

 その21番CIWSは、1つに束ねられた6本の砲身を右舷100度の上空へ向けたまま、目標であるミサイル達に対し猫のように威嚇するでもなく、犬のように吠えたてるでもなく、ただ淡々と静かに狙いを澄ませて迎撃の時をひたすら待っている。

『各員、衝撃に備え!』

「両舷後進強速きょうそー!舵そのまま!」

 CICからの万が一被弾した際に対しての備えを促す艦内放送とほぼ同時に、高崎は前進させていた推進装置を後進にするよう指示を出し、その速度を強速(=15kt≒時速27.78km)としたのである。

「両舷後進強速きょうそー!舵そのまま、了解!」

 市井は高崎の声に反応して、直ぐに返答しつつ体の重心を少し下げて舷窓下の壁に腕を当てて体が前に投げ出されないよう支える。

(うわわっ!荒っぽい!!輸送艦ってこんなにガクンってスピードが落とせるん!?うちの車両達は落ちてないよね!?大丈夫なん!?)

  一方、予想だにしないしもきたの動きに焦りながらも咄嗟に窓枠下にある棚のような出っ張りを掴んで転倒を免れた新町は、すぐさま舷窓からのぞき込むように露天甲板に固縛されている“衛星単一通信可搬装置 JMRC-C4”を視線で探しだす。

 幸いにしてJMRC-C4も周囲の車両も動いた形跡はなく、しもきた運用員達の仕事の確かさが証明された瞬間でもある。

「右100度、爆発閃光視認!数、複数!」

 備えつけの灰色の双眼鏡を覗いたままの右見張り員の叫ぶような大声を聞き取り、白ストラップのついた双眼鏡を持った操舵室伝令もヘッドセットのマイクを手で近づけながら、艦内放送で情報伝達を行う。

『ターゲットキル4、サーバイブ2!』

 CIC伝令からの正確な報告が艦内放送で共有され、生き残っサーバイブしたミサイル2基の迎撃に全力が注がれる事になる。

「右100度、再び爆発閃光視認!数2!」

 右見張り員の報告に艦橋内が安堵に包まれ、新町も思わず笑顔を零してしまう。

 そんな新町のそばに、桑野がクリアファイルを持って近づいてくる。

 市井も桑野の気配を感じ取り、彼と新町を横目に見ていると操舵室にいる高崎と桑野以外の全員が思ってもいなかった事を告げる艦内放送が入る。


『艦橋至近で衝撃が発生した』


 市井がその放送を聞いて視線を大慌てで高崎の方へ向けると、彼はレピータコンパスで航行の方向を確認しているところだった。


『ミサイルの爆発、みぎ舷至近。艦橋員、甲板員と連絡途絶、生死不明』


 市井は目を見開いて高崎にどういうことかと、声を荒らげるわけではないが、やや焦った風に質問を投げかける。

「今回はミサイルをターゲットキルで訓練が終了だと聞いていますが、これはどういう事でしょう、副長」

 それに対して高崎はレピータコンパスから顔を離すと、やれやれといった雰囲気を出しながら肩をすくめる。

 そして3秒ほど沈黙が漂った後に高崎が口を開きかけると、そこへ艦内放送にて続報が入る。


『先程の衝撃で幸島艦長、高崎副長、日野ひの機関長、神明しんめい運用長、大村おおむら補給長、北山きたやまエアクッション艇運用整備長、川守かわもり衛生長は重傷を負った』


 この艦内放送に気をとられ混乱した市井の目には、彼女の方へ顔を向け、羅針盤レピータコンパスを指さしながら一歩後ろに下がる高崎の姿が写る。

(……なるほど。ようやく理解出来たわ……艦長達はまだ『対空戦闘用具収め』をさせるつもりはない……そして、この教練の本当の狙いターゲットは練度向上なんかじゃなく……)

 市井は緊張の度合いを一段上げ、軽く視線を下げて握っていた拳に力をめる。

 そして、意を決したように顔を上げると、高崎が先ほどまで立っていたレピータコンパスへ視線を向ける。

(……さっき艦内放送で名前の出なかった船務長の茉蒜と、私達さむらい配置たちの技量テストといったところかしらね……艦長も副長も外連味けれんみたっぷりとは思っていたけど、まさかここまでやるなんて……)

 操舵室各員の強張った雰囲気とは対照的に、表情には出ていないものの楽しそうな雰囲気を浮かべている副長兼航海長の姿に、市井は何か得体の知れないうすら寒いものを感じてしまったのである。

「浅田。溺者できしゃ人形ブラボーチャーリーをスタンバイしろ」

 高崎に指名された海士の浅田はすぐにもう一人の海士と共に、人の背丈とほぼ同じくらいの布製の人形を2体運び入れる。

 1体には陸上戦闘服3型の上衣(上着)が、もう1体の方には海自幹部用である紺色の作業上衣が着せられている

 それぞれ3型の方には【12通 新町百合香】、紺の作業上衣には【しもきた副長 高崎】と布製の名札が着けられている。

 そして、市井はここである事に気付いて高崎に尋ねる。

「溺者人形のアルファは、幸島艦長の代役ですか?」

 高崎は海図台へ向かいながら、市井に肯定の返答をした上で補足を説明する


「既に艦長や俺達、それからそこにいる新町1等陸尉は重傷を負った。これから艦橋にも衛生が迎えに来て溺者人形ブラボーチャーリーが俺達の身代わりになって医務区画へ向かう事になっている。市井、後はどうすればいいか分かるな?」


 高崎の問いに対して市井は小さくうなずくと、艦橋中央に設置されているレピータコンパスの前に進み出て半身で立ち、艦橋内を軽く見回して小さく息を吸う。


「先程の爆発により、高崎副長兼航海長が重傷を負い指揮不能となった!よって、現時点をもって航海士の市井典子が航海長となり艦橋の指揮を執る!」


 この宣言を行った直後、市井の脳裏にはCICにいる同期に対する懸念を思い浮かべて軽くため息を漏らしたあと、呟きを小さくこぼす。


茉蒜あの子、パニック起こしてロシア語しか喋れない……なんて事になってなければいいんだけど……とにかく、しもきたを頼んだわよ……黛艦長……」




第4話の登場人物紹介(順不同、敬称略)

 ※注意:各登場人物たちの階級・役職等は、当作品と出演作品では異なっている場合があります。


市井しせい典子のりこ:1等海尉で輸送艦しもきた航海士。船務長のまゆずみ茉蒜まひるとは防大・幹侯校にて同期である。英語は得意だがロシア語は不得意で、時々黛の喋るロシア語が理解できず困惑する場面も見られる。「この広き蒼穹の下で」に出演


高崎たかさき元也もとや:2等海佐で輸送艦しもきた副長兼航海長。1陸尉の新町とは防大同期。同じく防大と幹部候補生学校幹候校の同期でもある2等海佐の三条と共に「防人達の邂逅」に出演


○新町百合香:1等陸尉で陸自の指揮所通信小隊長。前述の高崎2海佐と防大同期で、後に防大理工学研究科博士後期課程へ進学した。夫(2等陸尉)と共に無線・有線通信や電波関連のマニアでもある。旧姓は榛東しんとう。「防人達の邂逅~外伝~」に出演


桑野くわのかける:2等海尉で輸送艦しもきた通信士。幕は違うものの同じ通信という事で、陸自の新町から気にかけられているらしい。月夜野出雲の二次創作「艦魂と艦娘の出会い」に出演。

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この広き海原に集う防人達 月夜野出雲 @izumo-tukiyono

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