第2話 絶対神の困惑

互いに何が起こったのかわからなかった。

この世には魔法や魔術というのは存在するが、直接相手の動きを拘束する魔法は存在しない。

「いたたたた…何が起こったんだ?」

「うぅ…私のほうが聞きたいわよ」

混乱する頭を整理し何故かをこのようなことが起こったのか考える。―もしや、攻撃不可の拘束魔法が俺たちにかかっているのか?試しに魔王の額に向けてデコピンを放った。

「痛っ?!ちょっと!なにするのよ!」

しかし、予想とは異なり普通にデコピンできた。デコピンがうまく命中したのか魔王は額を抑えて涙目になっている。

「お返しよ!あなたも食らいなさい!」

と言って魔王は平手打ちをしようとしたが、何故かその手は頬のすぐ手前で止まっていた。

「嘘…これ以上前に行かない?!」

ますます謎が深まる。これ以上考えても無駄だとあきらめようとしたとき、天井にまばゆい光が発生してその中から老父がゆっくりと降りてきた。その老父は何かがおかしい、と言いそうな顔をしている。

「え?嘘…あのお方ってかの有名な絶対神の…」

「カミュラ?!」

この世の魔法から自然に至るまで万物をつかさどる神の頂点。

「まさか天界で何かあったのですか?!」

天界の人物は魔法に属性があるように、つかさどるものにも種類がある。ただ、カミュラはすべての属性をつかさどることで万物を変えることができる。

「いや、そうではない…何者かに私の能力の一部が盗まれたのだ」

「一体なぜ?」

「あくまで仮説であるが、その何者かが勇者と魔王を両方とも殺そうとしているかもしれないのだ」

カミュラの言いたいことは大幅理解した。人界と魔族の戦争に終止符を打とうとしているときに混乱を起こし、何者かが所属する第三勢力がその二つの勢力を力でねじ伏せる。そうすれば無駄な戦力を使わずに人界と魔族を支配できる。

「じゃあ、私たちはどうすればいいのですか?」

「うむ…我は天界で原因を探ってみよう。お前たちは結界魔法を付与するから何か原因となることや人物を二人で探しなさい」

「え?ふたりでですか!?」

「二人でいたほうがお前たちの行動を見守りやすいからな」

互いを見つめあう。そして顔をしかめる。やはり魔王も因縁の相手と原因探しの旅に出ることは嫌だろう。

「あの…私の信頼できる護衛と旅をするのはいけないのですか?」

その意見には大変賛成だが、それではいけないのだ。なぜなら

「…もし意識をコントロールされたときに護衛を殺してしまう恐れがある」

「…我も信頼できるものと一緒に行きたい気持ちは共感できるが、こればかりは仕方がないのだ」

魔王はどこか納得しないような、悲しいような顔をしていたが部下を失うわけにはいかないと言い納得した。

そして、拡声魔法を使い戦場に向かって宣言する。

「人界軍のみんな!」

「魔王軍よ!よく聞きなさい!」

火花や悲鳴、爆発音が響き渡る戦場が一瞬にして沈黙に包まれる。人間も魔物も皆手を止めて、魔王城のテラスにいる二人を見る。誰として他を見つめる者はいない。

「本日をもってこの人魔戦争に対し両軍はともに降伏し、終戦することを宣言する!」

これが千年に及んで続けられた戦争の終わりを告げる宣言であり、平和と混乱が入り混じる旅の始まりを告げる宣言となった。

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進行不可バグが起こったので魔王と一緒に原因究明の旅に出ます。 沖田 紫陽花 @ancherlooker

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