立ち食い蕎麦屋にて安い人生を想う

白川津 中々

 朝晩の冷えがまこと厳しく出勤の憂鬱度が急上昇中の昨今においてますます無職への羨望が色濃く描かれては霧散し憎々しく夢幻を諦め溜息を吐く。ともかく寒い。

 白い息を追いかけては会社に向かう自分に対してそれでいいのかと問いかけるも飯の種を離すわけにもいかない。嫌だろうが苦しかろうがやらねばならぬのだ。そうまでして生きなければならない理由はなんだと聞かれると返答に詰まるが生きている以上は生きるしかない。悲しいかなそれが現実。歴史は人の涙でできている。


 駅に着く。列車到着時刻までしばし待つ。風冷たく、変わらず寒い。


 コーヒーでも飲むかなと思ったがそういう気分でもなく、さりとて寒波は堪え難く、どうしましょうかと思案を巡らせると空腹に気がつく。


 蕎麦でも食べるか。


 そう思うと途端にワクワクし始め駆け足となり、前のめりで立ち食い蕎麦屋の暖簾を潜り「蕎麦、かけ」と注文を伝える。前払いで三百円。一分もしない間に着丼。一味を四振りし、丼に触ると熱さに手が痺れる。いい塩梅だ。

 一口手繰り、二口手繰り、胃が熱くなるのが嬉しく、また手繰り、啜る音が気持ち良く、また手繰る。蕎麦がなくなりツユをいただくと、冷え切っていた身体が完全に暖まり、肌に汗が張っていく。隙間風が心地よい。


「ごちそうさん」


 完食し外に出る。先までとは違い、少し気が晴れる。生きる意味は分からぬが、意味はなくとも喜びがある。今はそれで、満足しよう。

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