スキル覚醒⑦
「あ、ああ……」
僕は両膝をついて、左腕のあった場所を見詰めた。
痛みはそれほどなかったが、体の一部を失ったという絶望感から僕の頭は真っ白になってしまった。
酷い寒気を感じて、僕の体は子犬のようにぶるぶると震え出した。
そんな惨めな僕に対して、ミノタウロスは無慈悲に手斧を振り上げた。
「――お兄ちゃんから離れろ!」
レイラの怒号と共に、僕とミノタウロスの間に石壁が突き出した。
バラカがカヤリを通して、レイラの危機を伝えていたのである。
「お兄ちゃんとバラカお姉さまを傷付けた、レイラ許さないんだから!」
レイラの戦い方は物質を変化させて、それを武器とするものだった。
攻撃手段は多彩で読まれにくいが、やはり補助向きで、ミノタウロスを屠れるだけの威力はなかった。
「ファハド様、お気を確かに!」
レイラがミノタウロスの注意を引き付けたことで、バラカが僕の元へと来ることができた。
ムルも血戦の渦中から逃れてきた。
「バラカ……」
僕は虚ろな目でいった。
「ひとまず止血しませんと、このままでは命に係わります! ちょっと、ファハド様!?」
僕は右手でバラカを抱き寄せていた。
不意の出来事に、バラカはあたふたとしていた。
「生き物が生命の危機に瀕した際、子孫を残すために性欲が高まるというのは聞いたことがありますが、流石に今はそういうことをしている場合ではありません!」
バラカは耳を赤くしていった。
「ユニークスキル『リアルワース』解除」
僕はほとんど無意識にいった。
「ユニークスキル?」
バラカはきょとんとした表情でオウム返しした。
「に゛ゃー!」
ムルがお化けでも見たような悲鳴を上げた。
それもそのはず、僕の千切れた左腕がずずずと独りでに動いていたからだ。
やがてその腕はあるべき場所に、完全に元通りになった。
そして、僕の意識も受け答えができる程度には回復した。
「す、素晴らしいです! これは時間の逆行、因果律の改竄あたりでしょうか!」
「因果律の、何かな?」
ぼんやりした頭に難しい単語はすんなり入ってこなかった。
「ファハド様は神へ通じる力、神通力を扱えたのですね」
「いやいや、これはユニークスキル『リアルワース』の力で……、僕はいつからこの力を使えたんだろう……?」
リアルワースは着用しているオーパーツの能力を強化するというものだった。
僕の左腕が独りでに治ったのも、リアルワースにより呪い装備カタリナの「常に傷を負う」と呪い装備ラミアの「自傷ダメージで治癒する」の部分が強化されたことによるものだった。
さらには、マックスの威力は単純に強化されているだろうし、アストラの「相手への物理攻撃と属性攻撃が倍増する」も強化されているので、先刻までの僕とは比べ物にならない威力の銃弾を放つことができるはずである。
とにかく、細かいことは後で考えることにしよう。
「レイラの加勢にいってくる。バラカ、足は大丈夫かな?」
「気を治療に当てれば、すぐにでも戦えます!」
気の治療速度がどの程度のものなのか知らないが、すぐに戦えるような怪我でないことは確かだった。
「バラカは治療に専念していて欲しい、その方が僕も戦いに集中できるからね」
「ファハド様お一人で挑まれるのですか!?」
バラカの脳裏では、先ほどの悲惨な光景が再生されているに違いなかった。
「心配しなくても、僕はもう負けないよ」
強がりではなく、体の奥底から力が漲っていた。
「畏まりました」
僕の自信に満ちた佇まいを見て、バラカも何かを察したようだった。
僕が思い描いたのは、ミノタウロスすら容易く貫くことのできる魔弾だった。
先刻までは漠然としか浮かんでこなかった魔弾のイメージが、不思議とはっきり思い描くことができた。
(やれるぞ!)
僕の放った弾丸は一直線にミノタウロスの膝を撃ち抜いた。
ミノタウロスの巨躯がぐらりと揺らいだ。
「ムオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!」
ミノタウロスは即座に手斧を投擲しようと体勢を変えるが、僕が予め放っていた三発の魔弾は、ミノタウロスの肘から先を吹き飛ばした。
あれほど大きいミノタウロスが小さく感じた。動きも止まって見えた。
最早ミノタウロスは、ユニークスキルの覚醒した僕の敵ではなくなっていた。
押し付けられた呪い装備がデメリットを打ち消し合って、ただの最強装備になりました。~さらにユニークスキルが開花して無敵となった僕は、全ての冒険者を従えるファラオとなる!!~ しんみつ @sinmitu64
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