★その三.


 ――月夜である。


 男の幽霊が薄暗い路地で佇んでいる。そこに別の幽霊が通りかかった。


「あれっ? どうしたこんなところでぼんやりしちゃって」


「はあ……」


「はあじゃないよ。みんなは今夜はいい幽霊日和だと言って、はりきって化けて出てるよ。あんたも誰かに恨みあるんでしょ?」


「ええ、まあ」


「じゃ、さっさと化けて出てやんなよ」


「それが……」


「どうした?」


「わたし幽霊になった途端どういうわけか記憶をなくしちゃったんです」


「おや、そりゃ気の毒にねえ、でもあんた頭に包丁刺さってるから、間違いなく殺されたね」


「――そうですか」


「早く犯人捜して化けて出なよ」


「は、はい。?!……」




                 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幽霊たちのララバイ(コメディ) 松長良樹 @yoshiki2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ