★その二.



「ご臨終です」


 医師は静かに家族にそう告げ、ベッドの老人は眠るように安らかに息を引き取った。今生の別れである。


「ちぇっ!」


 誰かが舌打ちした。しかしその声は遺族には聞こえない。なぜなら舌打ちの主は老人の先祖の幽霊達であるから……。


「伸二郎。ようこそ霊界にと歓迎したいところだがそうはいかないんだ」


 霊になった伸二郎が驚いた。


「なぜです。御先祖様?」


「なぜって幽霊は死なないんだよ、だからもう霊界は飽和状態なんだ。今じゃ畳一畳のスペースが各個人に与えられた僅かな空間だよ、おまえが来たんでまた狭くなった」


「……」


「最近の霊は中々成仏しなくてね、霊が増えすぎなんだよ」


「そ、そうなんですか」


 ふと伸二郎がまわりを眺めると恨めしそうな幽霊の大群が居て、誰かが後ろの方で


 「押すな! ソーシャルディスタンスを守れ」と怒鳴った。


      



                 おしまい

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