幽霊たちのララバイ(コメディ)

松長良樹

★その一.


 橋を渡り柳の下を通りかかると、生暖かい風が着物の女の襟元えりもとに吹き付けた。なんだか湿った、重苦しい空気を感じる。

 彼女が幾分早足になり、柳の下を一気に通り抜けようとした瞬間、それはそこに忽然と現れた。


 髪を振り乱し、青白い陰気な顔に白装束という出で立ちだ。


「恨めしや、おお恨めしい」


 驚いた女は


「あーれーっ!」


 と叫び、気絶でもしたかと思った途端に女の首が伸びた。


「おまえさん。いきなり出てきてびっくりするじゃないの!!」


 女は怒っていた。


「幽霊が霊界に出てどうすんのさ。幽霊は人間界に出なさいよ」


「そうだよね……」


「あたいが轆轤首ろくろくびだから良かったけど、鬼にでも見つかったら地獄に連れて行かれるよ」


「ああ、でもなあ」


「どうしたの? 」


「おいら人間に殺されたから人前に出るのが怖いんだ」


「しょうがないねえ。だから恨めしいんじゃないのかい? しっかりおし!」


 その幽霊は落ち込んだ様子で橋の下に消えていった。





             おしまい


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る