羽ばたき
大樹の森の暗さは、落ち着いたものへと変わっていた。
洞から覗いている時は暗闇の先に怯えたこの森も、いざ身を投げてみれば静かで綺麗な森なのだ。闇に目を凝らせば雨粒がきらめいている。
土の、緑の、雨の香りが開いた嗅覚をくすぐる。
不意に、大樹の洞が目に入る。
暗い場所から見る景色は暗く染まるのだろう。
青い鳥は、翼の湿気を僅かに重く感じた。
そんな青い鳥を見た灰色の鳥は、物憂げな顔すら愛おしいと微笑む。
「木の隙間抜けるのも楽しいけどさ、ほら、こっち」
灰色の鳥はそう言うとグングン上昇していく。
眼下を眺めていた青い鳥は、慌てて追いかける。
湿気った風を追い抜いて、強く、軽く羽ばたいた。
枝葉の先へ飛んで行く灰色の翼を目失わぬよう、必死に追いかけてゆく。
灰色の鳥は、強い光のその先へ飛び込んだ。
青い鳥もあとを追い、最後の葉を振り切る。
しかし光は眩く、直視した青い鳥は目がくらみバランスをくずした。
心の芯が冷えるような浮遊感が襲った。必死に羽ばたくも風を掴めない。
青い鳥は目を瞑る。
しかし、青い鳥の小さな体は何かに押し上げられて乗っかった。
「大丈夫?急に強い風がきてびっくりしたねぇ」
灰色の鳥の背の上で目を回していた青い鳥は、その声に目を覚ますと、温もりを求めて羽毛の中に沈む。
灰色の鳥は風を全身に受けてグンと高度を上げる。
「見てご覧」
青い鳥は灰色の羽毛から顔を出して外を覗く。
風はまだ強く冷たいが、それでも目を開けた。
空は晴天では無い。
景色も明るく照らされてはいない。
それでも地平線の向こうまで空があった
眼下には緑の森が広がっている。
緑の下にある暗い景色など見えなかった。
深い森の中では、明るい緑の葉があるなど知らなかった。
灰色が流れる空に、目が眩むような光はもう見えない。
でも、流れる雲はいつか途切れ、また光が顔を出すのだろう。
「きれいだねぇ。そのうち見に行ってみようか」
遠くに見える、森の終わりに続く白い山脈を見て、灰色の鳥は言った。
山からの乾いた風が、羽に染み付く湿気を飛ばしていく。
まだ乾いていなくても、今なら飛べそうだ。
青い鳥は翼をピンと張った。
瑠璃色の鳥と灰色の鳥 あ @Ohamaguri
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