第29話 完結
「まず最初に言った通り、オレはお前の肉体が欲しかった。理由はこっちの世界、つまりお前達の言う現世に来たかったからだ。
もちろん、死神のように意識体だけでも此方に来られるが、長居出来なくてな。繋ぎ止める器が必要だった。だから肉体が欲しかったんだ」
なぜ おれ なんだ
「さっきも言ったが、肉体を乗っ取るというのは簡単に出来る。だがそこの死神はなかなか強いし、杓子定規でな。追いかけ回される面倒を避けたかったんだ」
「一番最初に言いましたよね、そのあたりの事は」
「魂は要らないが寿命が欲しいと言ったのは、それがあると肉体に馴染みやすいからだ。ほれこの通り上手く動かせるだろう」
ダカラ ナゼ オレ ナンダ
「死神から聞いていないのか?[長生きよりも労の少ない人生の方がいい]そういう奴に交渉してくれと言っといたんだが」
「ちゃんと説明しましたよ。全部話した上で納得してもらって契約を結びました」
「なら問題ないな。そういう奴を選んだ理由は、それが理由さ」
肉体が指差したので、そちらの方に意識を向けると、白い煙か散っているのがみえた。
「お前さんの魂がほどけつつあるのさ。もうすぐ意識を保てなくなる、それがお前達の言う[死]ってやつさ」
俺はさらに意識が薄れていくのを感じてきた……
「意識体っていうのは、器がないと保つ事だけでも大変なんだよ。分裂したり、他の大きな意識に取り込まれたり、薄れて無くなったりしてな」
オレが上に指を差す。
「雲みたいなもんだ、大きな塊になったり、薄く伸びたり、小さく別れたりして、しょっちゅうカタチを変えている。強い思念が無いと留まれないんだ。さっき死神に憑いてたヤツがいたろう、アイツはお前に復讐したいという執念があったから、今まで保てたんだ」
「あなたが死んだおかげで、ようやく満足してほどけたというわけです」
…… …… ……
「もう返事もできないようだな。楽して生きようなんて奴は思念が希薄なんだよ、だからそういう奴を選んだんだ。さらにお前は[娘を助けた]という理由で死んだ、つまり満足して死んだんだ。すぐほどけると思った。その通りだろ」
「もういませんよ。完全にほどけました」
「なんだよ、まだ喋りたかったのにな」
オレは残念な思いをしたが、すぐに気を取り直し、小型冷蔵庫からオレのアイデアで作らせた商品を、いくつか取り出した。
「何をなさるんです」
「これはな、ひとつひとつは只のドリンクなんだが、濃度と比率をうまく調合すると、こうなるんだ」
調合したモノを飲み干す。するとみるみるうちに肉体が若返った。
そしてそれだけではなく、体毛が増え、牙が生え、爪が鋭くなる。
「獣人化ですか。これはやられましたね、そんな仕込みをしていたとは」
「これだけの肉体操作をするには、かなりの栄養がいるからな。こっちに来てから、それをやるには手間がかかるが、奴がそれ関係の仕事でよかったよ」
「それは偶々でしたね。あなたの運がよかったんでしょう」
「死神が運命をいうかよ」
オレはつい大笑いしてしまった。
死神はにこりともせずに、上を向き空に向かって話しかける。
「聴こえてないでしょうけど、いちおう伝えておきますね。私があなたの魂を刈った時、あれがあなたの丁度寿命だったんですよ」
律儀な奴だとオレは思った。
まあこれで目的通り入れ替わり、これからこの世で楽しませてもらうか。
もう一度栄養ドリンクを飲んで、元の姿に戻る。さてこれから病院に行って、奇跡的に助かった娘とそれを喜ぶ妻に会いに行かなければな。それからの事は、その後だ。
「では私はこれで失礼します」
死神が部屋から出ようとして、ふと足を止める。
「これからどうなさるんです」
「さあな、分かる訳ないだろ。なんせ未来なんか予想できないからな」
オレは愉悦に満ちた声と表情でこたえた。
ーー 了 ーー
未来予想 藤井ことなり @kotonarifujii
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