ツルギミサキ

安良巻祐介

「命はないぞ、命はないぞ」

 こんなことを言いながら、頭巾と筵とを被って往来を行進する不明者の群れがあったから、誰かが早々に通報したらしく、程なく除疫所員が数名駆けつけて来た。

 けれど、梟頭と揶揄される硝子の大目玉と尖り耳の帽子が特徴的な彼ら、敷島神州のうちでも怪異に特化して活動する政府エージェントであるはずの彼らは、不思議なことにその奇怪な行進の前へ出て遮った辺りで急に揃ってつま先立ちになり、示し合わせたようにくるくると皆綺麗に独楽になったかと思うとそのままばったり倒れ、はかなくなってしまった。

 それを見ていたやじ馬たちのうち、誰かが「ミサキだあっ」と叫んだものだから、その場は一辺に大恐慌に陥り、辻に少しでも足を踏み出していた者たちは恐怖と怯懦で口から泡を吐きながら次々倒れ、その他の者も我先にと押し合いへし合い他人を突きのけその場から逃げ出して、メエン・ストリイトはあっという間に静かになってしまった。

「命はないぞ、命はないぞ」

 行く手に折り重なった除疫職員たちの灰色服の骸を何でもなさそうに踏みたくりながら、そして気絶していたやじ馬たちを踏んで青白い骸へ変えていきながら、変わらぬ調子で進んでいくそれらは、頭巾の中に真っ黒い、恐ろしい隠形を覗かせたまま、やがて日が暮れていくと、黄昏の光の中へ溶けるように消え去って行った。

 骸の他には誰の姿もなくなった往来に、びょうびょうと風が吹き抜け、恐ろしい頭巾の群れの行進した後には、剣に似た形をした、鳥の足跡が無数にくっつけられていた。……

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ツルギミサキ 安良巻祐介 @aramaki88

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