実に興味深く面白い話でした。
インテリ文学部の大学生と人妻の不倫。
それだけならアリガチだと読み流したでしょう。
ところが、この主人公は不倫を正当化し「それを悪しく罵る世間の方がおかしいのだ」と、まるで太宰治風に開き直ってしまうのです。なぜなら、弱い自分を支えてくれる彼女は素晴らしい女性であり、二人の関係はお互いにとって必要不可欠なものだと固く信じているから。
旦那に放っておかれた人妻と、友達の居ないボッチが慰め合ってどこがイケナイというのか? 何も知らないくせに世間は勝手な批判ばかりだ!
インテリらしい屁理屈を交えながら、そう訴える彼の気持ちも判らなくはないのですが…世間様がそれを認めてくれないことも自明の理であるが故に、否が応でも読者は結末への好奇心をそそられる構成になっているのです。
仕事嫌いな彼が、人妻への愛を原動力として働き始めるあたり、確かに愛は人の成長を促すものなのでしょう。成程、確かに「愛の力」は儚くも素晴らしい。だがしかし……知識として愛と欲望の違いを理解しながらも、インテリ学生がそれを自分の生き様に活かせるかは別問題なのでした。
世間という常識に目を背け、自己正当化を繰り返す先に待っているのは、破滅か? それとも…。
これこそまさにアバンチュール。悩める若者の衝動と静かな怒り、それを客観的に眺める滑稽さと悲哀が上手く両立していました。
不倫文学をお求めの貴方へ、おススメです!