ゴールの先に

 ゴールには走り込むというより、体を投げ出すような状態だった。ゴールからどうにか数歩離れて、他のランナーの邪魔にならない場所で倒れ込む。腕を顔の前に運んで時計を見ると、最後の1キロは5分を切って走ってきたようだ。ペース自体はそんなに速いわけではないのだが、最後の300メートルで30秒縮めていて、今の俺にとっては上出来な結果だと思う。

 その出来を導いた古荘さんは俺の傍らでまだ余裕そうに立っており、いかに自分の体が鈍っているかを痛感させられる。1日練習を休むと3日練習した内容が戻ってしまうなんて話も聞くけど、リハビリは大変そうだ。

「今日は、佐々くんの気晴らしって言ったけど、ホントは頑張ってる佐々くんを見たかったのかも」

 古荘さんが俺に向かって右手を差し出す。

「それに、大学のこと聞けてよかった。あたしがどう思うのか、って言ってたけど……あたしは、佐々くんとまた走れるかもってわかったとき、嬉しかったよ」

 新鮮な酸素を求めて胸が大きく上下する。でも、鼓動が早いままなのは走ってきたことが理由だけではないのは明らかだった。

「待ってる。そしたら教えて、佐々くんの走りを」

 その言葉に、まだ全然回復しない体を動かして差し伸べられた手をつかむ。この夏の県総体、すべてを出し切っても入賞には届かず倒れ込んでいた時も、引っ張り上げてくれたのは古荘さんだった。

「待ってて。どれだけみっともなくても、絶対追いつくから」

 起き上がるために手に力を籠めると、ぎゅっと握り返す感触が返ってきた。古荘さんは微笑みを浮かべながら左手をその手に添える。それだけのことで既にオーバーヒート気味の心臓がまた一つ跳ねる。今は引っ張ってもらって後ろをついていっているけど、春にはもう少し近く――隣を走ることができているのだろうか。

「大丈夫だよ、佐々くんはすごい向いてるから」

 古荘さんの笑顔に、俺はいつものように力を振り絞って立ち上がる。

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ラストスパートの続きをともに 粟生真泥 @midoron97

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