第24話

「カレーパン……」

 真由美のひとりごとが聞こえた。なお、パン屋はこの先にはない。

「カレーパン?」

 孝光は聞かなかったことにするべきかと、迷ったが興味が勝った。パン屋のカレーパンでなくとも、コンビニエンスストアなら駅までにあるからだ。

「え? 聞こえてた?」

「結構はっきり言ってたからね」

「うわぁ……」

 真由美は両手で顔を覆った。「うわぁ……。かなり恥ずかしい……」

 カレーパンが? と思ったが、聞き返さない。恥ずかしいらしい。それもかなり。

「考えてたことがそのまま言葉になっちゃうの、恥ずかしくない?」

「ああ、それは、わかるかな」

「あと、あと、ちゃんと、孝光くんのことも考えてたからね!」

 いや、カレーパンとはりあってなかったけど、と思うものの、これは孝光がかなり恥ずかしかった。なぜか。

「ありがとう?」

「お礼を言われると、これまた恥ずかしい……よ……」

 なんだか、よくわからない帰り道だな……。

「カ、カレーパン食べたいの?」

「あ、それは違って、カレーパンって作るとなると大変だなと思って」

「自宅で作ろると、カレーないパンでも大変だしなぁ」

 たまに母親がパンを焼くのだが、その作業は好きじゃないとやってられない、パンを作るのが楽しくないと無理に見えた。

「そうなのよね、パンを作る途中でカレーを経由するだけだから、パンが大変なんだよね」

「カレーはカレーパンのためには作らないからなぁ」

「カレーパン用のカレーはあんこみたいに固まってないとだめなんだよ」

「カレーパン用のカレーを作るのかぁ……。ますます大変だなぁ」

「でしょう? じゃあ、おにぎりの中にカレーを入れればいいかとも思ったんだけど」

「それなら素直にカレーを食べたいなぁ」

 孝光はおなかがすいてきた。具体的にはカレーが食べたくなってきた。

「でしょう?」

「もともと、なんでそんなにカレーパンについて考えてたの?」

「あ、それは……」

 みるみる顔がまっかになる真由美。元がすこし血の気が少ないと見える肌なので、赤面するとわかりやすいのだ、と彼女と過ごしているうちに気づいた特徴の一つだ。

「そろそろね」

 そろそろ?

「……チョコレートを作ろうかなと思って。結構むつかしいし、もともと売ってる素材のチョコレートを使うし、いつもいつも不思議におもうんだよ……」

 そこまで聞いて孝光は思い至った。

 来週はバレンタインデーだと。

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がっこうがえり! 山下太一郎 @hazukashiinodehimitu

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