1-7

 

それから怪我が治るまで、医療院の病室でじっと何もせず、過ごした。


じっと過ごしていると、いつの間にか、医療院で誕生日を迎えた。そして、十歳になったその日に、退院することに決まった。


・・・去年の今頃は、クダン隊長からプレゼントをもらい、センさんたちからバースデーソンングとバースデーケーキをもらった。・・・ジハード家では、豪華なバースデーパーティー開いてもらった。でも、クダン隊のみんなから祝ってもらったバースデーパーティーの方が楽しく、嬉しかった。


あまり時間は経ってないにも関わらず、凄く遠い記憶の様な気がする。訓練も、任務も辛かったが、あのくだらない時間が幸せだった。そう言えるのは、その時間が来ない、ということが分かった瞬間だ。


瞳から少し水が零れ落ちた気がした。流れるそれが、涙、だと気付いた時、病室の扉が開いた。誰かが入ってきたことは分かっていたが、人物を認識するより前に、その人物の自分が魔力を使った時に出る赤い瞳に同じ赤が印象的だった。


「シアン、退院おめでとう。今日から私の隊で働いてもらう。これは、決定事項でもある。・・・ですので、このまま宿舎へ移動しますが、準備は出来てますね?」


「・・・はい、すぐに出れます。」


 威圧的な態度の赤い瞳の彼は、ニコリという音の笑顔を貼り付け、瞳は笑みを浮かべてはいなかったが、嫌悪や憎悪というマイナスの感情は見えない。それを不思議に思いながら、準備していた荷物を持ち、赤い瞳の彼に歩み寄る。


「・・・お名前、お伺いしても、よろしいでしょうか?」


「嗚呼。私たちに名前はありません。貴方は今回の件で、シアンという名前が広がっていますので、そのままシアンです。・・・ですが、ジハードは名乗らない様にしてください。それから、私は、部下から1(ワン)と呼ばれていますので、その様に呼んでください。」


「では、ワンと呼ばせていただきます。」


「ええ、よろしくお願い致します。私の隊は少数精鋭ですので、メンバーも少なく覚えれないということはないかと思いますよ。」


 ワンと名乗った彼は、僕へチラリと視線を遣った後、そのまま病室を出た。僕は彼の後を大人しく着いて行く。


 ・・・次の部隊はどんなところだろうか?クダン隊の様に歓迎はされないだろう、と少し寂しい気持ちを感じつつ、だんまりのまま後に続き、ワンは空間魔法が使えるようで、僕らの空間を切り取り、目的地へ移したらしかった。


 


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ポルト・ボヌール 狐月 @syu

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