おまちください
星ぶどう
第1話
「30代の男性会社員が行方不明になりました。」
ある朝、俺が起きるとテレビでニュースキャスターが報道していた。
「あら、おはよう。」
「ああ、おはよう。」
母親が挨拶をしてきたので俺も挨拶をした。
「朝から嫌なニュースね、この2週間で3人目よ。まあ、1週間前に1人は見つかったけど。」
母親の言う通り最近行方不明になる事件が相次いでいた。しかも行方不明になった人はみんな俺と同じ市に住んでいる。1人見つかったが話を聞いても何も覚えていないと言う。何かテロ組織でも動いているのだろうか。
「さ、早く学校に行きなさい。」
今日は月曜日。週の頭はだるいものだ。俺は母親にせかされ急いで準備をして学校に行った。
俺の名前は蓮。近所の公立高校に通っている。歩いて20分ぐらいの所に学校がある。
「よう、蓮。お前最近彼女できたらしいな。」
教室に入ると翔太が話しかけてきた。彼は俺の幼馴染だ。すぐに俺をからかってくるからあまり好きではないけれど、一応友達だ。翔太の言う通り俺には彼女がいる。
先週の木曜日、俺が下校中に財布を落としてしまった時、1人の女の人が俺に声をかけて拾ってくれた。制服はその時は着ていなかったので学校はわからなかったが、俺と同い年か一個上に見えた。だがそんなことはどうでもいい。なぜ俺がその子を気に入ったかと言うと、優しさもそうだがなんといっても顔が良かった。モデルをやっててもおかしくないぐらい可愛かった。俺はその時に連絡先を聞こうと思ったが、彼女はその時に携帯電話を持っていなかったので土曜日に近くのファミレスで会おうと約束をした。そして見事に土曜日に彼女は来てくれた。その後また日曜日にデートに誘いだし、その時に告白をし付き合うことになった。
「なあ、名前はなんて言うんだよ。」翔太が聞いてきた。
「赤井朱音って言うんだ。」
「へえ朱音ちゃんか、可愛い名前だな。で、どんな子なんだ。」
「えーと、優しくて…美人。」
「何!美人だと!」
翔太は興味津々だった。
「写真見せろよ。」
「いいよ、ほら。」
俺は翔太に日曜日に撮った写真を見せた。
「うわあ可愛いな、お前ずるいぞ。俺も友達になりたい。なあ、連絡先教えろよ。」
「だめだよ、第一連絡先知らないし。」
「え、携帯電話持ってないの!」
「なんか両親が厳しい人らしくて、携帯電話持たせたら頭が悪くなるとか何とか。」
「なんだよそれ、偏見がすごいな。」
翔太は少しがっかりした。
「でもまた会う約束したから。次会うのは再来週の日曜日。」
「そうか、また大変な彼女をつくったもんだな。」
キーンコーン、カーンコーン。俺が翔太と話している時、学校のチャイムが鳴った。それと同時に担任の先生が教室に入ってきた。
「さあ、席について。今日は転校生を紹介する。」
教室がざわめきだした。
「静かに!じゃあ中に入って。」
そう呼ばれて転校生は教室に入ってきた。男だった。クラスの半分くらいの男子がため息をもらした。
「自己紹介をして。」先生がそう言った。
「僕の名前は青山真吾です。よろしくお願いします。」
礼儀正しい、大人しそうな少年だった。
「席は前から3列目の一番左端だ。みんな仲良くしてやってくれ。」
「はーい。」俺らは返事して朝の会は終わった。
その直後から真吾はみんなから質問攻めにあっていた。
「ねえ、前はどこに住んでたの?」
「えっと、どこだったかな。」
「え、自分の住んでたところ知らないの!」
「いやその、緊張でど忘れしちゃって。」
「ははは、面白いね、君。」
それから真吾はたちまち人気者になった。俺は真吾が目立っているのを見て少しうらやましかった。でも根はすごく優しく、真面目でいいやつだったので嫌いにはなれなかった。
真吾が転校してきてから2週間後の日曜日が来た。今日は朱音とデートの日だ。俺は約束したファミレスに行った。もうすでに朱音は来ていた。俺は朱音と窓際の席に座り、ドリンクバーを頼んだ。そして俺はおもむろに話し始めた。
「2週間前、俺の学校に転校生が来たんだよね。」
「へえ、そうなんだ。」朱音は興味が無さそうだった。
「青山真吾っていう名前なんだけど、いいやつなんだ。」
「青山真吾?」朱音が不思議そうに聞いた。
「そうだよ、知っているの?」
「いや、別に。変わった名前だなって。」
「そうかな。あ、あのさ。今日この後買い物に行かない?朱音に似合いそうな服見つけたんだ。」
「いいわね、行きましょ。」朱音は嬉しそうに笑った。
俺たちは軽くファミレスでランチした後、近所にある服屋に向かった。色々な服を試着してはお互いに見せ合った。夢中になりすぎたのか店を出る頃にはもう夜になっていた。時間を見ると7時10分だった。
「ごめんね、だいぶ遅くなっちゃって。」俺は朱音に謝った。
「いいよ気にしなくて、おかげでいい服買えたし。」
俺たちは家路を急いだ。
「じゃあ私、こっちだから。」朱音の家は知らないが、どうやらここを曲がるらしい。後をつけて家を知りたかったが、夜も遅いし迷惑だろうと思ったので、今回はやめておくことにした。
「うん、俺まっすぐだから。じゃあまた2週間後の日曜ね。」
俺は朱音と別れた。この道は普段から人通りは少く気味が悪いが、もう7時を過ぎていたので更に薄気味悪く感じた。
家に帰っている途中、俺は翔太に会った。
「よう蓮、今帰りか。どこに行ってた?」
「よう、ちょっとショッピングにな。」さっきまで朱音とデートしていたなんて言えるわけがない。そんなことを言ったらきっと翔太は残念がるだろうから。
「そういう翔太は何してるんだよ。どっか行くのか、家こっちじゃなかったろ?」俺は話題を変えた。
「あー、今から塾でな。あそこの信号を渡ってちょっと行ったところにあるんだ。」
「そうか、頑張れよ。」
「おう!」
俺は翔太と別れた。
「…近所から苦情もきているので、ホームレスの人を見かけたら警察に通報してください。では次のニュースです。先日から行方不明になっていた…」
次の日の朝、テレビの音で目が覚めると母親がニュースを見ていた。どうやら行方不明になっていた人がまた見つかったらしい。だがこの間の人と同じように何も覚えていないらしい。もう少し見ていたかったが、学校があったのですぐに準備をした。
俺が学校に行くと珍しく翔太が欠席だった。あの後風邪をひいたのだろうか。そう思った時、担任の先生が教室に入ってきた。教壇の前に先生が立って言った。
「翔太を昨日どこかで見かけた奴はいないか?」
クラスがどよめき出した。
「ほら静かに。誰かいないか?」
俺は恐る恐る手を挙げた。
「お、蓮。翔太を見かけたのか。」
「…はい。」俺は力なく返事をした。どうしたのだろう。翔太に何かあったのだろうか?いや、それとも何か犯罪を犯したとか。
「後で職員室に来てくれ。」そう言うと先生は教室を出て行った。
俺は不安だった。外は暗かったし、犯罪に巻き込まれる可能性はある。朱音は無事に帰れたのだろうか。そんな不安を抱えながら俺は職員室に行った。
ガラガラガラ。「失礼します。」俺は恐る恐る職員室に入った。
「おう蓮、待ってたぞ。実は話したいことがあって。」
「何ですか?」俺は勇気を出して聞いた。
「あのな、実は…。昨日の夜から翔太が行方不明なんだ。」
「え…。」俺は呆然とした。
「昨日の夜に塾に出かけたきり帰っていないらしいんだ。昨日はどこで何時に見かけたの?」
「夜の7時ぐらいで、場所は暗かったので意識していなかったんですけど。あ!なんか、信号を渡ってすぐ塾がある所にいました。」
「なるほど。では夜の7時ぐらいにはまだ塾に向かっていて、しかも塾付近にはもう来ていたと。」
「はい。」俺は昨日塾の場所を聞いておいて良かったと思った。
「そうか。ということは信号付近で何かあったのかもしれないな。4週間前ぐらいから近所でホームレスも出たみたいだし、物騒な世の中だからな。」
「え、ホームレスが出たんですか。」俺は思わず聞き返した。
「あー、今朝のニュースでもやってたぞ。でもまあとりあえず教えてくれてありがとう。あと、このことはクラスのみんなには秘密にしておいてくれ。騒ぎになるといけないからな。」
「わかりました。失礼しました。」ガラガラガラ。
そう言うと俺は職員室を出た。教室に戻ると俺は質問攻めにあった。だが俺は何も言わなかった。しつこく聞いてきた奴もいたが、俺は必死にしかとした。そして帰る頃には諦めたのかもう誰も聞いてこなかった。その夜、俺は眠れなかった。
次の日、俺が学校に行くと真吾の周りに人が集まっていた。
「どうしたの?」俺が聞くと、
「あのな、実は真吾はホームレスらしいんだ。」
「え、そんなバカな。」俺は微笑した。
「いや本当なんだ。俺見たんだ。夜8時ごろに公園のベンチでカップ麺を食べていたのを。」
「でもそれだけだとホームレスかどうかはわからないだろ?」
「真吾を夜に見かけたのは俺だけじゃない。田中も鈴木も見たって言ってる。しかも真吾が転校してきた時、前どこに住んでたかも言わなかった。それはきっと昔からホームレスだったからどこにいたかわからなかったんだ。」
「でも今はちが…」
「もういいよ。」
俺が反論しようとした時、真吾が俺を止めた。
「もう大丈夫。ありがとう。」
「真吾…。」
次の日から真吾はいじめの対象になった。俺はどうすることも出来なかった。
翔太が行方不明になってからちょうど1週間経った月曜日、また行方不明になっていた人が1人見つかった。その人の顔は俺は知っていた。5週間前に行方不明になった30代男性だ。相変わらず何も覚えていなかった。そしてまた新しい人が行方不明になった。ここで俺はあることに気づいた。それは1人が行方不明になると1人が見つかるということだ。それに行方不明になっていた人も特に何かされたわけでもなさそうだ。ということは翔太もいつかは帰ってくるかもしれない。俺はそう思った。
一方学校では真吾に対するいじめがだんだん酷くなってきた。俺は真吾が気の毒に思えた。だが俺にはいじめを止められる勇気がなかった。
日曜日、2週間ぶりの朱音とデートの日だ。俺はそのデートに真吾を誘った。弱虫な俺のせめてもの償いで、休みの日くらい楽しんでもらおうと思ったのだ。真吾は喜んで承諾してくれた。
朱音とはいつものファミレスで待ち合わせをしていた。俺たちが行くと朱音はすでに来ていた。俺は朱音に事情を話し、3人で遊ぶことになった。
「あなたが転校生の真吾君ね。蓮から話は聞いているわ。」朱音が真吾に話しかけた。
「き、君が朱音さんだね。よ、よろしく。」真吾は緊張していた。
「何だよ真吾、硬くなっちゃって。あ、もしかして朱音に惚れたか?あげねえぞ、俺の彼女なんだから。」
「わ、わかっているよ。」真吾がそう言うと俺は笑った。すると真吾も笑った。良かった、ようやく笑ってくれた。俺は心の中でガッツポーズをした。
その後俺たちは食事をして、カラオケに行って、ちょっとゲームセンターでクレーンゲームをした後、最後にまたあの服屋に行った。
店を出た時、真吾はとても嬉しそうだった。
「蓮君、僕を誘ってくれて本当にありがとう。」それは心の底からのありがとうのように俺は聞こえた。
「いいよ、お礼なんて。」俺がふと時計を見るともう夜の7時半だった。
「じゃあそろそろ帰るか。」
俺たちは歩き始めた。そして俺は歩きながらあの日のことを思い出した。翔太がいなくなった日もこんな夜だった。
「なあ朱音、この前のデートの帰りは何もなかったか?」
「何もなかったわよ。どうして?」朱音が聞いてきたので、俺は打ち明けることにした。
「あのさ、ちょっといいかな。確かめたいことがあって。」
俺は2人に翔太のことを話した。
「わかった、いいよ。一緒に確かめよう。でもまさか、翔太君が行方不明だったなんて。」
「ごめんな、隠してて。」
「いいよ全然。よし、じゃあ行こう。」2人とも一緒についてきてくれることになった。
俺たちは歩いて信号のところまで来た。
「翔太はここを渡った先に塾があるって言ってたんだ。だからきっとこの先で何かあったんだ。」俺がそう言うと朱音と真吾は顔を合わせた。
「ここは…。」真吾がボソッと言った。
「ん、どうした真吾。」俺はそう言いながら歩行者信号のボタンを押そうとした。
「待って、そのボタンを押しちゃダメ!」朱音が俺を止めた。だがもう遅かった。
おまちください
俺はボタンを押してしまい、信号はすぐに青になった。すると足が勝手に動き出し、信号を渡り始めた。
「何だ!どうなっているんだ!」俺があわてていると、前から何かが近づいて来るのが見えた。よく見るとそれは翔太だった。俺は声をかけようとしたが、様子がおかしかった。なぜかずっと下を向いている。
「おい、どうしたんだよ翔太。お前どこに行ってたんだよ。」
「あー…、ずっと…ここに、いた…。次は…お前が、ここに…立ってろ!」
翔太は顔を上げ俺たちに襲いかかってきた。俺はやばいと思った。このままだと3人とも捕まってしまう。俺は必死に足を動かした。頑張れば少しだが歩くことはできた。後ろを見ると朱音と真吾は震えていた。俺は必死に歩き、力を振り絞って何とか朱音と真吾を横断歩道の上から突き出した。
「いてて、あ、蓮君!」真吾が叫んだ。
俺も逃げようとした。だがもう手遅れだった。俺は翔太に追いつかれた。
「つかま…えた…。」
翔太が不気味にそう言うと俺を抱いてズルズルとどこかに引き摺り込もうとした。後ろを見ると歩行者信号が大きな口を開けていた。
「危なかったわね。」
「あー、またあの生活に戻るとこだった。」
何やら話し声がする。だがその瞬間俺は翔太にその信号の中に放り込まれた。俺はだんだん信号に取り込まれるのを感じた。朦朧とする意識の中、俺は不思議な会話を耳にした。
「何だよお前、赤井朱音って。赤信号丸出しじゃないか。」
「そう言うあなたこそ。青山真吾って、青信号まんまじゃないのよ。」
この声は…、朱音と…真吾…?
「まあとりあえずもうこの街にはいられないな。ホームレスって騒がられてるし。」
「そうね、まずは家と携帯電話を買わなきゃ。」
これが俺の聞いた最後の声だった。
次の日、「ニュースです。先日から行方不明になっていた10代男性が発見されました。取材したところまた何も覚えていなとのことです。そして再び行方不明者が出ました。10代男性で…」
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