第2話 後悔の記憶

※ この話は、とあるキャラクターが仲間にいることを想定して書かれています。ネタバレはございませんが、未所持の方は違和感があるかもしれません。会話文が多いため、少し読みにくいかも知れません。

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 ヴィンデ達と別れたアルド一行は、死者が集う煉獄界に来ていた。死者といっても、顔のない者や形の定まらない者などその在り方は様々である。


アルド「これが、アマリリスの花か。 いつもここに来るときに目には入っていたけど、名前は知らなかったな。」


 興味深そうに煉獄界に咲く花の1輪に触れるアルド。花には赤と青の2色で構成されており、暗い煉獄界を彩るかのように、あたり一面に咲き誇っていた。


エイミ「よく見ると綺麗な花ね…。こんなに綺麗なのにどうして気づかなかったのかしら。」

サイラス「そうでござるな。花守殿が持ってきて欲しいというのも頷けるでござるよ。」


 今までにない魅力を持つアマリリスの花に引き付けられるアルド達。その美しさは見るものを呼び寄せ、その心を引き込んでいく。花に触れたアルドたちも、その美しさに心を奪われていた。



リィカ「やはり、この花の成分は未来のデータベースに存在していまセン! それに、何か不思議なパワーを感じマス! エルジオンに持ち帰って私の名前の花をつけるチャンスデス!」


 データにない植物を前に興奮するリィカ。 いつものように少しふざけていたが、エイミからの突っ込みが来ないことに違和感を感じ、ふと後ろを振り返った。


リィカ「皆さんどうしたんデスカ?先程から黙り込んでいますガ? アルドさん?」

 

 刹那の出来事であった。花に見惚れ、導かれるように花に近付いた3人は花の茎に触れた途端、ピクリとも動かなくなったのだ。まるで、花に魅入られてしまったかのように…。

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 そこは、どこかの村の近くにある海辺だった。

アルド (ここは…?確か、みんなと煉獄界にいたはずだけど…)

 周りにいたはずのエイミ達は誰もおらず、ただ聞こえるのは絶え間なく脈打つような波の音だけ。波が砕ける音に耳を傾けているとき、ふとアルドは違和感を感じた。


アルド (あれ? 視線がなんか低いような?)


 地面をいつもより近くに、周りの全てがより大きく見えることに気付いたとき、自身が少年の姿であることを理解する。しかしその現状を悟っても尚、焦りや不安などはなく、ただ自分が『リオン』という名前の少年であること、今日が母親の誕生日だということを自覚させられるだけだった。次第に、『アルド』としての意識は薄れていく…。


??「おい、リオン!何やってんだ!早く帰らないと、母さんに怒られちゃうだろ!」

??? (あぁ、懐かしいマリス兄ちゃんの声だ。早くいかないと。)

リオン「もう少し待って! あと少しだけ!!」


 兄の声に、懐かさがこみ上げてくる。その感情を通り抜けて、自分がここに居る理由を想い出した。

アルド (そうだ、あと少しでお母さんのプレゼントの首飾りに使う貝殻が集まるんだ!近くにあるのはもう拾ったし、もう少し海に近いところで探してみよう!)

 

残りの貝殻を見つけるために、さらに海の方へと近づくリオン。海へ向けての一歩目を踏み出したとき…突如頭の中で大きな声が響いた。

??? (駄目、そっちに行っちゃ駄目!)

アルド (あれ? なんで、僕の頭の中に声が…いやまて、俺は一体なにを見ているんだ?)


 その悲痛な声が意識を『アルド』へ引き戻した。自分が目にしている光景が何なのかはわからなかったが、今は頭に響く声に耳を澄ませる。

??? (早く、マリス兄ちゃんと一緒に家に帰らないと。早く、早く!あいつが来ちゃう!)

 

 急かすように、そしてより強くその声は脳内を響き渡る。

アルド (あいつが…来る? でも、動きたくても体が勝手に…)


 頭に響く声に従おうにも、体はまっすぐに海へ近づいていく。そしてアルドが海に意識を向けたとき、白く波を打つ海にある赤い目が見えた。

マリス「おいおい、海に近付くと魔物に引きこまれるぞ。それに、早く帰らないと本当に母さんに怒られ…っ!? 危ない、リオン!」


 海に隠れたその魔物は、波に乗じてリオンの足をつかみ海へ引きずりこむ。異変に気付いたマリスは、必死でリオンの手を掴み、引き上げようとするも共に海に飲み込まれていく。最後に、赤い目を持つおぞましい緑の魔物の姿を見えたときを境に、視界は徐々に暗闇に覆われていった。



意識が途切れる最後の時まで感じた、右手を掴む兄の手の感触が今でも残っている。


 途切れたリオンの意識の中で、アルドは再び声を聞く。

??? (僕のせいで…マリス兄ちゃんまで巻き込んで…。あの日は母さんの誕生日だったのに…僕のせいで僕のせいで僕のせいで……)

 そこからは同じ言葉を何度も、何度も繰り返していた。

 ずっと聞こえていた波の音はもう、聞こえなくなっていた。


アルド (そうか、君は…)


 暗い意識の中で現れた魂にそっと手を触れようとしたとき、突如まばゆい光がアルドを照らした。

??「やっと見つけたよぉ~!」

 新たに聞こえた声を区切りに、アルドの意識は光へ吸い込まれていった….

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??「えい♥」

アルド「うわぁ! 何だ!」

リィカ「アルドさん!ご無事でしたカ!」


 何が起きたか分からないアルド。頭に出来たたんこぶをさすりながら、ゆっくりと辺りを見渡して現状を把握しようとした。


アルド「あれ? ここは煉獄界? 確か俺はさっきまで…。」

(あの魔物に海へ引きずり込まれていたはずだ…あの少年として。)


 しかし、眼前にあるのは暗い海の底でも、沈むような暗い意識でもなく、アルドのよく知る煉獄界の景色だ。


??「全く、アッくんたちはおっちょこちょいなんだから!」

 自身のおかれている状況に困惑していると、光の中で聞いたあの声がした。

アルド「え? この声は…」


 声の方向へ向くと、そこには赤いフードを被った銀髪の少女が立っていた。アルドは彼女の姿を見ると、パッと顔を明るくさせて声をかける。


アルド「イルルゥじゃないか!」

イルルゥ「えへへ、久しぶりだねー!!」

 

 アルドとの再開に喜ぶ少女の名前はイルルゥ。煉獄の鎌使いであり、アルド達の仲間である少女だ。


アルド「どうしてこんなところに?」

イルルゥ「えーっとね。この辺でお散歩してたら変な魂がある、ってそこの子に教えて貰ったんだー。」

アルド「この子? って、お前は…オタマンダー!」


 イルルゥが指し示した先には、1匹のオタマンダーがいた。

オタマンダー「メラメラ~。また会ったな~、兄ちゃん達。」

アルド「あぁ、そうだな!…ん?そういえば、さっき変な魂ってのはどういうことだ?」

オタマンダー「それはな~、後ろを見たら分かるぜ~。」

アルド「後ろ?」


 オタマンダーに言われたとおりに後ろを振り返ると、エイミとサイラスがアマリリスの花に触れたまま動かなっているのが目に飛び込んできた。

アルド「どうしたんだ、二人とも!?」

 動かない二人の様子を見て困惑したアルドは、とっさに二人へ手を伸そうとするが…。

イルルゥ「まだ触っちゃ駄目!」


 二人に手を触れようとしたときに、イルルゥに制止される。触れる寸前であったがその声で伸ばした手を引っ込めることができた。すると、後ろからリィカが一歩前に出てきてアルドが目覚めるまでの顛末を説明し始めた。


リィカ「アルドさん達はその花に触れたときにそんな風になってしまったんデス。そこで、近くに居たオタマンダーさんに助けを求めて、見て貰っていたのデス。」


 リィカの発言に続くように二人がうんうんと頷きながら口を開く。

オタマンダー「そういうこと~。だけど、僕たちでもどうしようも無くてね~。だから、近くに居た鎌使いのお嬢ちゃんに声をかけたのさ!」

イルルゥ「正確にはちょっと違うんだけど、二人の魂は花が見せる夢に閉じ込められてるの。私も昔、いろいろあったときに先輩にこの花のこと聞いてたんだ~! アッくんを助けたのも私だよ!」

アルド「そうだったのか。ありがとう、イルルゥ!」


 自分がおかれていた状況を把握したアルドは、自分を助けてくれたイルルゥへ感謝の意を述べた。

イルルゥ「えへへ、どういたしまして!…ってそんなことやってる場合じゃないんだった!」


 一瞬、感謝の言葉に顔をほころばせるが、事態が終息していないことを思い出すとブンブンと頭を振りながらアルドに大きく近付く。

アルド「あ、あぁ、そうだな。それで、二人を助けるにはどうすればいい?」

イルルゥ「それはねぇ…。」


 目を閉じて呼吸を整えるイルルゥ。そして、目を開いて口を開いた。

イルルゥ「二人の夢の中に入って、起こせばいいんだよ!」

アルド「…そ、それだけか?」

イルルゥ「そうだよ~。夢に入るのも、二人が触れてる花にアッくんが触れればいいだけでいいんだ~!」

アルド「なる…ほど?」

イルルゥ「まぁ、夢の中では聞こえてくる声を頼りに魂が閉じ込められている体を探すの。アッくんも夢の中で聞いたでしょ?」

アルド「あぁ…。あの夢の中で聞いたやつだな。」


 アルドは先ほどまでいた夢の中で聞こえた声を思い出す。聞いていると心を締め付けられるようなあの声を。

イルルゥ「そうそれそれ! あんまりゆっくり聞き過ぎちゃうと、夢に取り込まれちゃうから気を付けてね!」

アルド「わかったよ。」


 イルルゥの警告を心に留めて、未だ夢に囚われているエイミとサイラスの方を見て決意を固める。

イルルゥ「私がカエルさん、女の子の方をアッくんにお願いするよ! 死んじゃうことは無いんだけど、早くしないとアレと魂が混ざっちゃって、下手したら心が壊れちゃうの。 それに~、私は綺麗な魂が好きだからね~!」

アルド「そ、そうか。」

リィカ「申し訳ありません。私はアンドロイドなので、夢の中に入れないようです、ノデ。お二人にお任せします。」

イルルゥ「うん!じゃあ、行こうか!」

 

こうして、それぞれの夢へと入っていった…。

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 目を開けた先には、溢れんばかりの緑があった。木々を揺らすかぜ、葉の隙間から差す日の光、そしてそこで暮らす人々の姿。

アルド「ここは…サルーパか。」

かつて見た記憶のある光景から、アルドはここがサルーパの村であることを悟る。


アルド「ここが、エイミが見ている夢の中か。声は…まだ聞こえてこないな。」

 イルルゥの言葉を思い出しながら周りを見渡すが、ヒントになるようなものは特にない。道行く人はアルドをすり抜けて行き、こちらからの声も届くことはないため声が聞こえてくるのを待つしか無かった。

アルド「うーん、どうすればいいんだ…これは?」

 八方塞がりな状況に何をすればいいか分からず頭を悩ませていたときだった。アルドの背後からまだ幼い少女の声が聞こえてきた。


少女「おかあさん! まって!」

アルド「ん?」

母親「ちょっと速歩になってたみたいね。ごめんね、手をつなぎましょうか!」

 そこには、食材を手に抱えた親子の姿があった。


アルド「仲がいい親子か。俺も小さい頃、あんな風にフィーネと一緒にじいちゃんの買い物を手伝ってたな。」

 ほのぼのとした光景に、つい見とれてしまったが再びイルルゥの言葉を思い出し、首を振って意識を集中する。

アルド (俺も取り込まれたら駄目なんだったな。それに、ここから何が起こるか分からないからな。気を引き締めて行こう。)


 そのとき、頭に声が響いてきた。

??? (私のかわいいアイリス…あんなにはしゃいじゃって…。)

アルド「この声は、あの母親の…!ということは、エイミはあの中か!」


 声の主が先ほどの母親であることに気付いたアルドは、二人に向かって走り出した。走っている中でも、声は聞こえ続ける。

??? (あなたが成長する姿を見たかった…夫を失ったときに、私だけでもあなたを守るって心に決めていたのに…。)


アルド (…そうか、この人はもう…。やっぱり、この夢は…死んだ人の記憶か。)

 アルドは暗く俯き、この夢がなんなのかを理解していった。これはきっと死者にとって、最も重要な記憶の一部。それ故に、聞こえてくる声に込められた感情の一つ一つが重くアルドの心にのしかかる。


??? (ここに居るあなたが私の全て…。私が命を賭して守った大切な娘…。それでも…あなたと一緒にこれからを生きたかった…。)


 その言葉に、涙がこみ上げてくるアルド。母親に近付くにつれてその声は鮮明になり、アルドの歩みを鈍らせていく。


アルド (ここで俺が飲み込まれちゃ駄目だ! 足を止めるな、俺がエイミを助けないと!!)


 死者の言葉に飲み込まれそうになりつつも涙を拭き、自らの役目を繰り返し唱え、歩みを進めるアルド。そして、ついに母親の体に触れることが出来、アルドの魂はその体へと吸い込まれて行った…。

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アルド「ここは…母親の中か。エイミは…あれか!」

 真っ暗な空間でエイミを見つけるアルド。暗闇に立ち尽くすエイミに近付くとエイミの話し声が聞こえてきた。


エイミ「あぁ、私のかわいいアイリス。ずっと、ずっと一緒にいるからね。絶対放さないわ。ずっと私が守ってあげる…。」


 アルドの時と同様に、死者の記憶を通してエイミの意識は混濁していた。

アルド「エイミ!駄目だ、目を覚ますんだ!」

エイミ「…え?アルド。私は…なんで?…うっ!?」


 アルドの声で一瞬我に返ったエイミだったが、再び苦悶の表情を浮かべ膝をついてしまう。


エイミ「私は…アイリスを…守らないと…。違う、私はエイミ…。でも離れたくない…この子母親でいたい…。この子から母親を失わせたくない…。」

アルド「しっかりしろ、エイミ!」


 自我を保とうとするも、目の前の光景と死者の記憶によってさらに苦しんでいくエイミ。必死に呼びかけようとするアルドも、掛ける声が見つからない。


アルド (こんなのって…エイミにとってこの記憶は酷すぎる…! 子を残して死んでしまった母親。そんなのまるで…エイミの…)


 母親を失ったエイミにとって、子が母を失う苦しみ、そして子を残していく母親の気持ちが辛いものであることは容易に想像できる。例え、無理矢理に目を覚まさせたとしても、それでエイミの心が壊れてしまっては意味が無い。


アルド (イルルゥは目を覚まさせればいい、って言ってたけど…本当にそれでいいのか? 俺は、奪っていいのか…?あの光景を…。)


 もし、目を覚ました瞬間に子を残して死んでいく母親の記憶が流れ込んだら? もし、その時の感情が流れ込んだら?

 幾度となく葛藤を繰り返し、記憶に込められた感情が影となり、アルドを引き込んで行く。それでも、エイミを助けたい気持ちを奮い立たせ、目一杯の声を出した。


アルド「エイミ…俺はお前を一人になんかさせない…絶対に!!」


 その声はかすれた小さなものだった。もちろん、嘆き苦しんでいるエイミには届くことはなく、ただ暗闇に溶けていく…。しかし、記憶に響いた小さな波紋はある者の心を震わせた。


??? (一人…?私は、また誰かを一人にしてしまうの? これ以上、誰かを悲しませるの…?)


 声と共に、アルドにまとわりついていた影は徐々に薄れていく。

アルド「なにが…起こっているんだ…?」


??? (もうこれ以上、誰かが傷つけるのは……嫌なの!)

 

 その瞬間、暗闇に光の裂け目が生じる。そこから、淡い光に包まれた一人の女性が現れた。

アルド「あなたは…一体?」

 かすれた声のアルドに、女性は微笑んで答える。


???「ごめんなさい。私のせいであなたたちを苦しめてしまった。 あなた達が見ているのは私の後悔と罪。あなた達がそれを背負って苦しむ必要はないの。」

アルド 「…そうか、あなたはこの記憶の…。」


 そう話した後、女性はアルドに背を向け、エイミの方へとゆっくり近付いていった。そしてエイミの頭を優しく撫で、自らの額とエイミの額を重ねる。


???「あなたの感情や記憶も、私に伝わってきたわ。ごめんなさい。私のせいで、あなたに誰かを失う経験を二度もさせてしまうことになってしまった…本当にごめんなさい。」


 女性が触れてから、徐々に緊張と記憶との同調が解け始めたエイミ。未だ混乱する意識の中でふと声をこぼした。

エイミ「お母…さん?」

??? 「…!?」


 一瞬、瞳の中で我が子の姿とエイミとが重なる。エイミの唐突な言葉に動揺するが、涙を流すエイミと向き合い、少し寂しそうな笑みを浮かべて再び口を開いた。


???「残念だけど、私はあなたのお母さんにはなれないわ。 それに、あなたの中にはちゃんとお母さんが居るんだもの!涙を拭いて、あなたを待ってくれている人のところへ行きなさい。 かわいい顔が台無しよ!」

エイミ「私…私は…!」


 エイミは涙を流しながらも立ち上がり、視線を女性に合わせる。

???「うんうん、いい顔になったじゃない! もう大丈夫、あなたは強い子よ。さぁ、あなた達にはやらなきゃ行けないことがあるんでしょ?」


 そういった瞬間、暗闇に亀裂が入りまばゆい光がエイミ達を照らした。女性はその光を指さし、今度はアルドとエイミの二人に向けて言葉を発した。


???「行きなさい。あなたを待っている人がこの先にいるわ。そして進みなさい。例え、その先に悲しみがあっても、『希望』を持って進み続けなさい…!」


 その言葉を聞いて、涙を拭うエイミ。そして、最後に笑顔で女性にこういった。

エイミ「ありがとう…マリーさん!」

マリー「それは私の名前…!? ふふふ、こちらこそありがとう…。さようなら、エイミ…」


 そういうと、記憶の主の女性 マリーは光を残して消えていった。エイミは最後に残った小さな光を胸に抱きしめ、小さくこう呟いた。

エイミ「ありがとう…ゆっくり眠ってね。」


 その様子を見届けたアルドは、肩に手を置き優しく微笑んだ。

アルド「さぁ、帰ろう。皆の所へ。」

エイミ「ええ。これ以上泣いてたら、マリーさんに怒れるわね! 行きましょう!」


 こうして、二人は光の方へ歩いて行った。

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アルド「ここは…煉獄界! エイミは?」

エイミ「うーん…ここは? そう、私たち戻ってこれたのね!」


 見渡す景色は薄暗く冷たい景色。しかし、アルド達はその景色をみて、安堵の表情を浮かべる。


サイラス「おぉ、二人ともようやく目を覚ましたようでござるな!」

アルド「サイラス!無事だったんだな!」

サイラス「拙者の夢の主はあまり執念がなかったでござるからな! イルルゥ殿に叩かれたらすぐ起きられたでござるよ!」

イルルゥ「良かった~!二人とも遅いから覚まさないのかと思っちゃった!」

アルド「イルルゥ! あぁ、何とか帰ってこれたよ。」

エイミ「心配かけてごめんなさい。」


 二人を出迎えたのは、先に目を覚ましたサイラスとイルルゥ達だった。少しの間、話をした後に本題についての話を始める。


アルド「イルルゥ、この花って一体なんなんだ?」

イルルゥ「う~ん、アッくんは大体気づいてるんでしょ~?」

アルド「あぁ。この花の中で見たのは…死者の記憶…だろ?」

イルルゥ「正解~!まぁ、2回も見ていたら分かるよねぇ~。」

サイラス「では、この花は死者の記憶と魂を閉じ込めるものでござるか?」

イルルゥ「ちょっと違うかな~。」


 イルルゥの言葉に疑問符を浮かべるアルド一同。少しの間を開けて、アマリリスの花畑の方へ向いて再び話始めるイルルゥ。


イルルゥ「この花はね、感情とか思念とかを吸って成長するの。」

アルド「感情を?」

イルルゥ「そう。本来は生きている人からわずかにこぼれるものを吸っているから、吸った人の記憶とかをちらっと見せるだけで、さっきみたいに意識を奪われることは無いんだけど…。」

エイミ「体から離れた魂はそのまま花に吸収されちゃう…ってこと?」

イルルゥ「そういうこと~! 魂はね、簡単に言うと思念の塊みたいなものなの。それが生きている人なんかと比べ物にならないくらい強い感情をもっているからね。花の吸い込む力が強くなっちゃって、触れた者の魂を無理やり吸い込んじゃうの…。」

サイラス「そういうことでござったか! うーむ、しかしそれは困ったことになったでござるなぁ。」

イルルゥ「困る?どうして~?」

 そう言うと、後ろからリィカが前に出てきて、ことの始まりについて説明を始めた。


リィカ「実は、ヴィンデさんという方からアマリリスの花を持って帰るように頼まれているのデスガ…これでは、ヴィンデさんが煉獄界に行ってしまいマス、ノデ!」

イルルゥ「なるほどね~。でも、どちらにせよこの花は持っていけないよ~。」

アルド「そうなのか?」

イルルゥ「この花は、煉獄界で咲いた花だからね~。生きたときの縁がある魂と違って、あっちの世界での形を持たないの~。だから、もし持ち出せたとしても姿形がなくなって消えちゃうんだよ!」

アルド「そんな…それじゃあ、ヴィンデとの約束が…。」


 イルルゥの言葉に落胆の表情を見せるアルド。そんなアルドに向けて、満面の笑みを浮かべてイルルゥは話の続きを伝え始めた。


イルルゥ「まぁまぁ、落ち着いてよ~。さっきも言ったけど、この花はもともとは生きた人の思念とかを吸っている花だからね~、向こうの世界にも同じものがあるんだよ~! 」

エイミ「本当!」

イルルゥ「うん! 私もどーっかで見たことがあるんだけど…。」

サイラス「んん?いかがなされた、イルルゥ殿?」

 

 言葉を濁したイルルゥは、体の前で指と指をくるくる絡めながら回す動きをし始める。

リィカ「もしかして、どこで見たか覚えていないのデスか?」

イルルゥ「えへへ~、当ったり~!」


アルド「そうなのか…まぁ、寧ろここまで教えてくれただけでも大助かりだ!何から何まで本当にありがとうな、イルルゥ!」

イルルゥ「どういたしまして~!」

エイミ「ちょっと、近づきすぎよ!」


 そう言って、アルド達に近づいてきたイルルゥ。あまりの近さに、エイミが止めに入る…そのとき、イルルゥの表情が渋くなった。

イルルゥ「んんん~? かすかに匂うこの香りは…!スンスンスン。」

 

 そういって、臭いをかぎ始めたイルルゥ。周囲の者たちは何が起きているかわからないがとりあえずイルルゥの行動を静かに見つめる。

イルルゥ「う~ん、この辺から匂うな~。スンスンスン。」

エイミ「イルルゥ?え、ちょっと、なに?」


 イルルゥはエイミへとさらに近づいて、さらにエイミの手へと顔を近づけていった。

イルルゥ「香りはここからしてる! ちょっとごめんね~。」

エイミ「ヒャッ!?いきなり何!」


 唐突にエイミの指先をなめるイルルゥ。その直後、イルルゥは眉間にしわを寄せ、口元にしわを寄せてこう告げた。


イルルゥ「間違いない、あの花の茎の汁だ~! この何とも言えない渋さ、苦みは今でも覚えてるよ~!」

エイミ「え? それって、私たちがさっき触っていたやつじゃなくて?」


イルルゥ「この花はあっちの世界のものとは違うからね~。間違いなく、あっちの世界でなめたあの花の茎の味だよ! 衝撃的だったから、味だけは覚えてるの!」

アルド「味だけって…ん?でも、どうしてエイミの手からそんなものが?」


イルルゥ「う~ん、それはちょっとわかんないな~。 直接触っているなら、もっと強い香りがするはずなんだけどね~。それに割と最近、少なくとも今日中に触れたもののはずなのに乾いていたのも気になるね!」

エイミ「今日触った花には心当たり無いわね…。触ったものといえば、ヴィンデから見せてもらったあの絵が描かれた紙くらいかしら…?」


 エイミのその言葉にリィカが反応する。


リィカ「もしかしたら、ヴィンデさんが持つあの紙に何か秘密があるのかもしれませんね。もし、明確な成分を判定できるサンプルが採取できれば未来のデータベースで花の生息域を調べることができるかもしれません!」

イルルゥ「ん~、何かよくわからないけど良いことがあってよかったね~!」

アルド「あぁ! 本当に助かったよ、イルルゥ!!」


イルルゥ「どういたしまして~! また煉獄界にも遊びに来てね~!」

アルド「また来るよ!」






 こうして、アルド達は煉獄界を後にし、再び現代へと向かって行く。アルド達が去って行く背をみて、イルルゥが呟く。


イルルゥ「ん~? そういえばあの子の魂…まぁ、問題なさそうだからいっかぁ~!」

 

 少し不穏な雰囲気を醸す言葉を呟くイルルゥ。そして、最後に一言を残してその場を後にした…


イルルゥ「この花に、名前なんてあったかな?」


 まだ見えぬ物語の行く結末。アルド達はたどり着くことが出来るのか…。

(2話 終わり)


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追記事項

・ 今回、イルルゥがアマリリスの花の茎の味について語っていましたが、あれは作者の実体験を忠実に再現した味です。イルルゥにエイミの指をなめさせたかっただけではないので、ご了承ください。

・ アマリリスの花のイメージはおわかりと思いますが、彼岸花です。毒があるので作者のまねは絶対にしないで下さい。

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今は亡き私から、未だなきあなたへ @asgariyu21

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