第3話 幼馴染に今までのことを謝ってみた
翌朝の事。相変わらず歌穂は俺のことを避けている。
「
「僕も。
本当に得難い友達だ。
「実は思い当たる節が有り過ぎた」
歌穂の裏アカウントは伏せつつ事情を話す。
間が悪くてデートのお誘いを二回連続で断ったこと。
お家デートで意図せずそっけない言い方になったこと。
「吾郎は、昔からデリカシーがないけど……」
微妙そうな表情の浩史。
「今回ばかりはかんっぜんに俺が悪い」
「おめかしして来たのに、スルーされるのはきついわよね」
「いや、本当に言う通り」
「しかも、「早く帰った方が」だとねえ……」
「本当に俺の不徳の致すところで」
付き合いが長い分色々扱いが雑だったと。
正直そう思う。
「というわけで歌穂に今までのこと土下座しても謝る」
「土下座はともかくそれがいいわね」
「歌穂も避けてるだけで吾郎を嫌ったんじゃないよ。きっと」
「本当に恩に着るよ」
真面目にそう言ったら、二人は
「おおげさだって」
口を揃えて言うのだった。
俺は意を決して、歌穂のラインに
【放課後、色々謝りたいんだ。時間取ってくれないか?】
【……あんまり長いと無理だけど。下校の間くらいなら】
【助かる。ここの所ずっと気まずかったから】
【ううん。私が私の身勝手で避けてるだけ】
【とにかく。それも含めてきっちり話すから】
これで話し合いの場はもてた。
あとは話運びの方法だな。
謝るだけじゃなくてプレゼントも用意してある。
歌穂に嫌われていないのなら気持ちを伝えることも。
(授業中に色々考えておこう)
決心した俺は授業中にあれこれシミュレーションしまくったのだった。
◇◇◇◇
放課後。
「一緒に帰ろうぜ」
一瞬だけ表情を歪めた歌穂。
「うん……」
話し合いでこれがなんとかなりますように。
「この所、歌穂は俺の事避けてるだろ?」
単刀直入に要件を切り出す。
「避けてるっていうか……私がどうしていいかわからないだけ」
ダウナー気味なテンションでつぶやく歌穂。
大人しいけど明るい歌穂がこうなのはつらい。
「その話だけど。俺が全面的に悪かった!」
腰を深く曲げて精一杯謝る。
「え?え?別に吾郎ちゃんが謝罪する事はないよ?」
対して歌穂はやけに慌てている。
ああ。裏アカウントの話はしてないから。
「ここ数日、俺も原因を色々考えてたんだ。何がまずかったんだろうって」
「ううん。私が勝手に避けてただけだから」
「いや。俺が歌穂の立場なら同じようにしてたと思う」
一回ならいい。でも二週連続で断られた。
しかも、法事があるとちゃんと伝えずに用事などと言った。
既に一度断られた後だからデートに行きたくないのだと疑う事だってあるだろう。
最後のお家デートの時。早く帰った方が、というのは致命的だ。
「新作ゲームって急ぐ必要ないし。あの時にゲーム理由で断ったのはごめん」
「そこまでは。吾郎ちゃんだって、自分の好きな事はあるから」
「でも、二週連続で断られたら気にするだろ?」
間が悪いと言えばそれまで。ただ、色々言い方がよくなかった。
「うん。吾郎ちゃんはデートしたくないのかなって」
「ほんと悪い。二回目の時とか、理由誤魔化したから。不審に思うよな」
ちゃんと爺ちゃんの法事があると言えば良かった。
「本当はきっと重要な事があったんだよね」
「ああ。爺ちゃんの法事でさ。泊まっていけって言われたから」
「ちゃんと言ってくれれば良かったのに」
少しだけ険しい顔が和らいだ気がした。
「今度からは無理な時は説明するから」
「わかったよ」
それと。
「お部屋デートの時、歌穂は普段着ない服だったよな」
「う、うん。この機会に吾郎ちゃんにもっと見てもらいたかった」
「それを俺が完璧スルーしたわけで。ほんと傷つけて悪い」
「……五郎ちゃん、時々無神経な事あるよね」
ようやく、クスっと笑って言い返して来てくれた。
「好きな女の子とデートしてるのに、照れくさいからあんな返事だったんだ。悪い」
「す、好き?」
目を大きく見開いてびっくりしている。
「あ。フライングだった。本当はすげー可愛かったし、なんならハグしたかった」
「そ、そうなんだ。あの時、そんな風に思ってくれてたなんて……」
照れ照れし始めた。だいぶ機嫌が直ってきたらしい。
ただ、もう一つ謝らないといけない事がある。
「早く帰れみたいに取れること言ったのも良くなかった」
「私も普段なら冷静に受け止められたかも。でも、あの時は……」
「もっと一緒に居たいと思ってくれてたんだろ?」
「うん。あの日は元々お母さんが夕食の支度してくれる事になってたし」
ああ、それでか。色々納得だ。
「そういうの諸々含めて、俺は歌穂の気持ちに甘えてて、雑になってた」
「……」
「だから、はっきり言うよ。歌穂の事が好きだ。恋人になって欲しい」
歌穂の気持ちは裏アカウントで既に見ている。
ただ、結局俺から言わないと始まらないだろう。
「す、好き?ほんと?」
「俺が歌穂に嘘ついたことないだろ?」
「無神経なことはあるけど」
「悪かった。とにかく、今のギクシャクした関係が嫌だし」
「私も、嫌だった。どんどん自己嫌悪してっちゃうし」
「それに、恋人になって歌穂ともっとイチャイチャしたい」
言っててなんて恥ずかしいんだ、俺は。
そう思いそうになるけど今日は言えなかった想いを届けるんだ。
「い、イチャイチャって。どんなの?」
顔を赤くしてるけど何を想像しているんだろう。
「抱きしめ合うとか。キスするとか。お互いの肌に触るとか」
「エ、エッチなのはまだ早いよ!」
「早合点するな。髪とかほっぺに触るとかそういうの」
「はー。びっくりしたー」
前から歌穂は早合点する癖があった。
「他にも色々あるけど。俺は付き合いたい。歌穂はどうなんだ?」
裏アカウントを見る限りは想いを寄せてくれている。
でも、今の歌穂がそう思ってくれてるかはわからない。
「私も吾郎ちゃんが好きで、恋人になりたい!いっぱいイチャイチャしたい!」
大きな声で宣言した歌穂はいっぱいいっぱいで、可愛らしい。
「じゃあ、これ。プレゼントなんだけど」
リングは重いと言われる事が多いけど、それこそ相手が歌穂になら。
「これって……」
「開けてみろよ」
箱を開けると出てきたのは、一組の飾り気のないペアリング。
「ペ、ペアリング?」
「ひょっとして重かったか?」
「ううん。ずっと不安だったから。すっごく嬉しいよう……」
言い出してなぜだか泣き始めてしまった。
「よく、私の指輪のサイズ覚えてたね?」
「
「そっか。ところでこれ、吾郎ちゃんが嵌めてくれる?」
さっきまでが嘘のような上機嫌だ。
俺としても、幼馴染……今は恋人が喜んでくれるのなら嬉しい。
「それとな……」
背中に手を回して抱きしめる。
俺の気持ちの本気度が伝わるように。
「え?え?」
「俺の気持ち。嫌だったか?」
「ううん。でも、恥ずかしい」
しばらくそうしていると、ふと、歌穂が俺の方を見上げた。
目をつぶって何かを待つ仕草は……なるほど。
ゆっくりと唇をあわせて、お互いの口内の感触を味わったのだった。
キスの時に出る水音って少しエロいなんて思いながら。
「なんか、不安だったのが嘘みたい」
手をつなぎながら家路につく間。
歌穂はずっと上機嫌で嬉しそうだ。
「俺が歌穂の事、雑に扱ってたから。これからは大切にするから」
「ありがと。私も突っ走るんじゃなくて吾郎ちゃんに言うから」
「ああ。ようやく元鞘だな」
「恋人になったんだから、元鞘じゃないと思う」
「そうだな。歌穂が恋人にとか嬉しいな」
「わ、私だって吾郎ちゃんが恋人になってくれて嬉しいよう」
お互い目を見合わせて笑い合う。
「雨降って地固まるっていうのかな?」
「そうかもな」
元通りの、あるいはそれ以上に仲良くなった俺たち。
教訓。相手の気持ちに胡座をかいてはいけない。
無神経な発言にも気をつけよう。
そう誓った俺だった。
◇◇◇◇後日談◇◇◇◇
「なんか、ちょっと前がギクシャクしてたのが嘘みたいね」
「まあまあ。元々、僕たちもそれを応援してたんだし」
なんだか凜花と浩史が生暖かい視線で見つめてくる。
「別に歌穂と普通に雑談してるだけだろ!」
「そうだよう。楽しくお話してるだけだって!」
二人揃って反論する。
「その雑談の内容が問題なのよ」
「そうそう。「私のどこが好き?」「全部」とか」
「かと思ったらいつもデートの事話してるし」
「……く、否定出来ない」
まさに雨降って地固まる。
お互いに好きな気持ちをしっかり言葉に出そうと決めあった。
だから、一日に一回以上はお互いに好意を伝えあっている。
それが、凜花にしてみれば「胸焼けする」だそうだ。
ともあれ、めでたし、めでたし……だろうか?
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
今回は珍しく主人公とヒロインの間にトラブルが発生するお話です。
こういう「間が悪い」っていうのは現実でも時折ありますよね。
レビューや応援コメントいただけると嬉しいです。
☆☆☆☆☆☆☆☆
ギクシャクしている片想いの幼馴染の裏アカウントを見つけたら俺への不満が書かれていた件 久野真一 @kuno1234
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