第2話 ギクシャクしていた原因

 俺は歌穂かほが好きだ。自覚したのは高校に入ってからだろうか。

 それ以降、何度もデートに誘って来たし、誘われて来た。

 歌穂も二つ返事で応じてくれる事が大半。

 相手も憎からず思ってくれているのだろうという気持ちがあった。


 ただ、歌穂の気持ちに甘えてしまっていたと今はよくわかる。


◆◆◆◆


吾郎ごろうちゃん。今度の日曜なんだけど、予定空いてる?」


 木曜の放課後、歌穂がそんな事を言って来た。

 デートのお誘いかと反射的に思った。

 でも、今日は待ちに待った新作RPGの発売日。

 一刻も早く帰ってプレイしたい。


「悪い。今日、『アルティメットサーガ』の発売日でさ」

「あ、吾郎ちゃんが楽しみにしてたやつだよね」

「そうそう。週末もぶっ続けてプレイしてると思うんだ」

「……」

「その来週の土日だったら空いてるからさ」


 ゲームがあるからデートを断るというのはバツが悪い。

 次の週は埋め合わせをする。そういう意図だったのだが。


「いい。その日は予定入ってるから」

「そうか。悪いな」


 歌穂の言い方が少し不機嫌そうなのが気にかかった。

 ただ、この時はそれほど気にしてはいなかった。


 その次の次の週。放課後のこと。


「今度の土日のどっちかで水族館行かない?ペンギンショーやってるし……」


 おどおどした様子でそんなお誘いの言葉をかけてきた。

 気持ちは嬉しい。ペンギンショーに二人で行くとか楽しそうだ。

 嬉しいんだけど……。

 爺ちゃんの法事があるから出ない。泊まっていけって言われたし。


「悪い。用事があるんだ。次の週だったら空いてるぞ?お前さえ良ければ……」


 さすがに連続でお誘いを断ったことになるので、罪悪感があった。

 その次の週に埋め合わせをしようと思った。


「じゃあ。再来週の日曜日は吾郎ちゃんの家でデート、したいんだけど……」


 お家デートか。一緒にスプラトゥーン2でもやりたいのかな。


「いいな。歌穂の事だし、スプラトゥーン2思いっきり対戦したいんだろ?」

「う、うん。そういうこと」


 どうにも微妙な反応が気になったけど、深く原因を考えることはしなかった。

 

 再来週の日曜日。

 部屋で気楽にデートだと思っていた俺。

 一方、歌穂の奴はやけに気合の入った服装をしてきた。


 普段の歌穂は地味なデザインの服を好む。

 ただ、今日は全体的に明るい感じの色合いだ。

 胸元も少し開いている感じで、多少露出がある。

 下も膝上までしかないミニスカート。


 大人しい歌穂のイメージに似合わない服装だった。

 妙に色香のあるファッションで来られて俺としてはドキドキだ。

 容姿はそのままなのに服一つでこんなに変わるのか?

 でも、なんでまた急に?


「ど、どう、かな?吾郎ちゃん」


 上目遣いで感想を求めてくる歌穂。

 はっきり言って可愛いし色々たまらん。

 ただ、俺はこういう雰囲気になったことがない。

 だから、恥ずかしくて、ついそっけなく言ってしまった。


「まあ。いいんじゃないか?」


 さすがに失言かと思い直した。

 気合い入れてくれたのにこれは無い。


「そっか。じゃあ、ゲームしよ?」


 一瞬、悲しんだ表情を見せた気がした。

 でも、次の瞬間にもうそれは戻っていて。

 二人でスプラトゥーン2を和やかに対戦したのだった。


「いやー。今日も楽しかったなー」


 気がつけばもう夕方だった。

 歌穂はガチ勢なので手強いけど楽しい。

 好きな女の子と一緒なら楽しいのもある。


「私も。思わず白熱しちゃった」


 失言の事についてはもう忘れてくれたらしい。

 少し気にしていたので正直ほっとした。


「そういえば、歌穂は早く帰った方がいいんじゃないか?」


 歌穂の家は母子家庭だ。

 お母さんの家事、特に夕食をよく手伝っている。

 だから、率直に聞いたつもりだった。


「吾郎ちゃんは帰って欲しい?」


 飼い主に捨てられた犬のような顔。

 その顔を見て罪悪感で胸が締め付けられる。


「い、いや。歌穂は普段だともう夕食の支度してるだろ」


 慌ててそう返す。


「冗談だよ、冗談。確かにそろそろ帰らないとって思ってたし」


 次の瞬間にはにぱっとした笑顔になっていた。


「驚かせないでくれよー」


 言うなり立ち上がって玄関に行く歌穂を送る。

 ご近所なのだけど、ちょっとくらいはな。


「家まで送るよ」

「いいよ。私も早く帰って夕ご飯の支度しないとだし」

「そっか。頑張ってな」

「吾郎ちゃんも今日はありがとう」


 バイバイと手を振って別れる俺たち。

 別れる間際寂しそうな顔をしていたのが少し気になる。


(気の所為だよな)


 少し気がかりだったけど、寝る頃にはすっかり忘れていた。


 振り返ると「早く帰った方がいいんじゃ?」て言うのはよくなかった。

 歌穂にしてみれば「さっさと帰って欲しい」の意思表示だと思うだろう。

 だから、裏アカウントであんなに落ち込んでた。


「しかし、どう謝るべきか」


 無神経だった。二連続でデート断ったのは間が悪かっただけだと。

 本当に他意はなくて帰った方がいいんじゃないかと気遣っただけだと。

 そう弁解すべきだろうか。


「歌穂にしてみれば単なる言い訳だよな」


 歌穂を悲しませているのは事実だ。

 最初の一回は「新作ゲームがあるから」いうのもまずかった。

 逆の立場だったら「俺はゲーム以下なのか」と落ち込むかもしれない。


「よし!」


 きちんと歌穂に今までの事を謝ろう。

 でも、裏アカウントの事は触れられないよな。

 それにしても歌穂を傷つけたままなのは心が痛い。

 好きな子に避けられたままなのも辛い。


 許してもらえるまで俺が誠心誠意謝るしかないだろう。


「俺はまだまだガキだなあ」


 少しため息をついてしまった。

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