この同意書パズルにサインできるかな?

ちびまるフォイ

あらゆる不確定を排除した完成までの最適ルート

超絶難関と言われている伝説大企業の最終試験会場には2名が残っていた。

2人は試験が始まるのを部屋の外で待っていた。


「やぁ、君も最終試験に残ったんだね」


「うん。お互いに頑張ろう」


「ところで君はどこの大学?」


「〇〇大学だよ」


「〇〇大学? へぇそうなんだ」

「君は?」


「ボクは"エリートクリプトンハイパーエグゼクティブ大学"の

 数理的法務学インクレディブル学科、スペシャルコースを主席で卒業したよ」


「お、おお……」


「学友にも恵まれていてね。今じゃCEOとなった▲▲氏は友達さ。

 それに芸能人の××や、ノーベル賞を受賞したAA氏ともコネクションがある。

 もし、君さえよければこの試験終わりに飲み会をセッティングしてもいいよ?」


「……いいよ。なんか知らない人と話すの苦手だし」


「もったいない。人間の寿命は限られている。

 君の乏しい人生経験では得られない大きな知識や情報を得られるチャンスだったのにね」


「あ、来たみたいだ」


試験官がやってくると、それぞれ別の部屋に通した。

部屋には受験者ひとりのみ。

試験官は外から声だけをスピーカーで伝えるだけだった。


「それでは最終試験を始めます。試験時間は30分、合格者は1名のみの先着順。

 そして、すでに合格通知書はテーブルにあります」


「「えっ!?」」


それぞれ別室の2人だったが同時に同じ反応をした。

もっと難しい試験や、難易度の高い面接などがあると構えていたからだ。


「先に同意書にサインして持ってきてください。

 なお、同意書には各種注意事項が書かれています。

 それでは試験開始」


別室の2人は一斉に机に向かった。

けれどあったのは同意"書"とは名ばかりで、バラバラに散らばったパズルだった。


「なんだこれは!?」


エリート大学での男は思わず困惑した。

一刻も早くこの同意書を完成させて提出しなくちゃいけないのに。


よく見るとパズルには文字が細かく書いてある。

合格同意書をジグソーパズルにしたもののようだ。


「なるほど、これをどちらが早く作って提出できるかってわけだな」


男は持ち前の頭の回転の早さを生かして事情を瞬時に理解した。

もう片方の受験者はというとまだパズルに困惑するばかり。


「ただパズルを組み上げるんじゃ、たまたま手にとったピースが合う合わないのバクチ。

 それではボクが負けてしまう可能性がある。考えろ。考えるんだ……!」


男の頭はスーパーコンピュータのように演算が走り散らす。

ありとあらゆる理論や分析がパズルをより早く構築するための手法を導き出していく。


「このパズルをNピースとし、フィボナッチ数列を虚数分解して

 フェルマーの最終定理をシュレーディンガー方程式に当てはめる。

 カオス理論展開による不完全性排除の定理で未定乗数を実施。

 マクスウェル方程式をダイバージェンスによるアルゴリズム実行。

 ナッシュ均衡値をダイクストラショーテストパスにノーツ結合。

 

 ……そうか、そういうことか!!」


常人離れした思考回路を使って、ピースの形状やそこに書かれている文字を把握。

あらゆる不確定さを排除した最短ルートをはじきだした。


そこからはまさにピースを構築する機械となった。


ピースを手に取り当てはめていく。

もし違った場合は頭の中で計算式を構成し直しつつもピースを組み上げる。


頭では次の最良の一手を計算し、目では次に取るべきピースを探し続ける。

ついに同意書ジグソーパズルは完成した。


「やったぞ! ようし、ここにサインだ!」


男はジグソーパズルのへりにある、同意サイン部分に名前を書いた。

完成したパズルをのりで固めてから部屋の外にまつ試験官へと向かう。


「同意書を完成させました! ちゃんとサインも書いていますよ!!」


その完成の早さに試験官は腰を抜かすだろうと思っていたが、

すでに試験官のそばにもうひとりの受験生が立っているのを見て逆にこちらが腰を抜かした。


「なっ……なっ……なんで!? なんでボクより早いんだ!?

 いったいどんな計算式を使った!?」


「計算式?」


「とぼけるな! ボクより早くパズルを完成できるなんてありえない!

 ボクはあらゆる可能性を考えて、そのうえで最良最速の方法を選んだ!

 どんなに幸運で、どんなに手に取るピースが運良くハマったとしても……ボクより早く完成できるわけないんだ!!」


エリート男は立ち上がり、もうひとりが提出したパズルを見た。


「か、完成してないじゃないか!?」


なんとパズルは完成しているどころか周りの枠部分だけ作った未完成状態のままだった。

もうひとりの受験生は恥ずかしそうに話した。



「あれ? 同意書にサインだけすればいいんでしょう?」



男のパズルは、端っこにある同意サインに名前だけ書かれていた。

大部分はすっかすかで、同意書に書かれている注意事項なんて読めやしなかった。


「合格おめでとうございます!」


こうして、〇〇大の男はみごと合格を勝ち取った。

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