47――女神

「元気にしていましたか?」


気付くとよく分からない場所にいた。

一面真っ白の世界。

とにかく見渡す限り、白一色の空間だ。


――だが俺はこの場所を知っている。


目の前には、白い布を巻いただけの女性が立っていた。

神は金髪で、背中からは周囲の色に溶け込んでしまいそうな真っ白な羽が生えている。

その顔はぼやけ、上手く確認する事が出来ない。


「えーっと、女神様ですよね?」


初めて会った時も顔は認識できなかった。

だが声で何となくわかる。


「俺ってまた死んだんですか?」


一度死んだ際、俺の魂はこの場所へとやって来ている。

そして再びやって来たと言う事は――


「安心してください。精神を此方に呼び出しただけで、肉体は健在です」


どうやらまだ生きている様だ。

返事を聞いて、俺はほっとする。


「そうですか。所で一つ聞いていいですか」


「ええ」


「ひょっとして、俺って厄災を倒す為に転生させられてます?」


100年前。

帝国を築いた初代皇帝が厄災を倒している。

そして厄災が復活するタイミングで俺は転生させられ、かつて皇帝が手にしていた剣を、幻獣という謎生物から手渡されている。


これが偶然とは到底思えない。


「バレちゃいましたか……てへっ」


女神様は首を傾げて、頭をこつんと叩く。

見えないけど、たぶん舌も出しているだろうと思われる。

それを見て、そういやこんな感じの軽い性格した神様だった事を思い出す。


「何で最初に言ってくれなかったんですか?」


「与えられた使命ではなく、自分の意思で世界を守りたいと思って欲しかったからです」


俺の質問に対し、今度はおちゃらけずに女神様は真面に答えてくれる。

だが、その言葉の意味は何となくだが分かった。


「苦痛に耐えられないからですね」


「ええ、そうです」


業魔の剣は厄災から力を奪う剣だ。

だがその力は呪われた物だった。

それは身をもって体験した俺が、一番よく分かっている。


たぶん、本体との戦いで取り込む呪いの量はあんなものでは済まないはずだ。

その苦痛に耐えるには、強い意志と、それを支える覚悟が必要になる。

神から与えられただけの使命じゃ、それに耐えうるだけの覚悟を得る事は出来ないだろう。


それどころか、使命なんてクッソ重い物を背をわされていたら、きっと俺は逃げ出していたはず。

決して今の様に覚悟は決まって……ん?


俺……覚悟なんて決めたっけ?


そんな覚えは更々ないのだが……


なんか話の流れ的に、俺が覚悟を決めたみたいになってない?


「えーっと、俺。別に厄災を倒す覚悟とかは、特にしてないんですけど」


「共にいたエルフ達を守る。その為なら命すらかける気概を、私は貴方から感じました……彼女達を守りたいんですよね?」


「それは……まあ」


別にサラ達を、家族の様だなどとは思ってはいない。

でも、俺の為に命をかけてくれようとする人――ではなくエルフか。

まあそれはどっちでもいい。

とにかく、俺は彼らを死なせたくなかった。


「それが覚悟です」


女神様が笑顔で――見えないけど多分――そう告げる。


「厄災を討ち滅ぼさなければ、いずれ彼女達の命も脅かされる事になるでしょう。何故なら、厄災は業魔の剣を持つ転生者でなければ倒す事の出来ない存在だからです」


「他の人じゃ駄目なんですか?」


「不可能です。厄災とは――」


女神様曰く。

厄災は世界に渦巻く負の感情が一定量を超えると、生まれて来る存在だそうだ。

生き物の様に活動こそするが、その本質は生命ではく負の感情の塊であるため、決して殺す事は出来ない。


厄災を消滅させる唯一の方法。

それは浄化だけ。


だがこの世界の人間では、自分達が生み出した負の力を浄化する事は出来ない。

それをやろうとすると、逆に取り込まれてしまうそうだ。

だからそれを可能とする異世界人が、100年単位で――厄災が生まれて来る周期――この世界に召喚される。


異世界を救うために。


「良く言えば救世主。悪く言えば、使い捨てのフィルターって事ですか」


「悪く言えば、確かにそうなるかもしれません」


我ながらちょっと意地の悪い表現をしてしまった。

初めっから利用する気満々だった事に少し腹は立ったが、そのおかげで俺は二度目の人生を謳歌?出来ているんだ。

そこは些細な事だと水に流すとしよう。


「わかりました。やれるだけの事は――いえ、必ず厄災を浄化して見せます」


「感謝します」


放っておいたら、どっちみち俺もその内やられるんだ。

やるしかないだろう。

なにより……今は守るべき仲間も出来てしまったからな。


「あ、そうだ。少し聞きたいんですけど」


「なんです?」


「闇の使徒って何者なんですか?後、何であいつらは黄金の宝玉を集めてるんです?」


どうやったのか知らないが、闇の使徒は厄災の一部を顕現させて見せた。

何故奴らにせそんな事が出来るのか?

それと、奴らが光る宝玉を集めている理由も知っておきたい。


「ギャラルホルン。それが彼らの信奉する神――幻獣の名です」


「えっ!?」


さっきの説明の中で、幻獣とは女神が作った世界の管理を司る生物だと聞かされている。

闇の使徒は特定の幻獣に信奉する集団なのか?


「彼ら――いえ、ギャラルホルンの目的は世界を滅ぼす事。そして、そのために黄金の宝玉を集めているのです」


世界を滅ぼすとかとんでもねーな。

でも、何で管理者が世界を滅ぼそうとしてるんだ?


「えーっと、幻獣って世界の管理者なんですよね?」


「あの子は物凄く潔癖な子で。それに……彼の……影響を……強く……」


急に女神様の声が聞こえにくくなる。

同時に白一面の世界がぐにゃりと歪み、女神様の体が光の粒子となって消えていく。


一体何が起こってるんだ!?


「すい……時間ぎ……どう……がんばっ……ザ……ザザ……」


え?何?

どういう事?

時間切れ?


世界がどんどん歪んで行き、見てて気持ち悪くなって来たので俺は目をつぶる。

すると、スーッと意識が遠のいていくのが分かった。


結局闇の使徒の事は大して聞けずじまいだったが、まあいいだろう。

きっとその内、また話を聞く機会が来るはずだ。


しかし……何で時間切れなんて……あるんだ?

謎……だ……

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マスタリースロット1の無能第333王子、王家から放逐される~だが王子は転生チート持ち。スキル合成による無限強化で最強無敵に~「え?お前は王家の誇りだって?なんの話です?僕は天涯孤独の身ですけど?」 まんじ @11922960

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