終わりの始まり
あれから幾星霜・・・・経って、オレは国民向けに演説をした。
えー、ゴホゴホ、オレ、じゃない、吾輩が、いや、・・・・私が、総理大臣に就任して、はや三十年、いまだに、マッド・マフラー軍団、いや、すでに異星人と判明した、かれら、マフラー星人との戦いは続いております・・・・
すでにロシアは壊滅、中国も大連、マカオ、香港の一部だけになりました。欧州は、空いっぱいにマッド・マフラーが埋め尽くされていて、電波が遮断され、正確な状況はつかめていません。アメリカが誇る宇宙軍も全滅、もはや、我々にとっては、為すすべもありせん。
・・・・三十年前、調査探訪のため、自発的にマッド・マフラーにさらわれた自衛隊員の生命反応が途切れていなかったことから、また、生命反応の電波分析から、どこか別の宇宙域へ連れ去られたのではないかと、なかば、楽観視する傾向が強かったのでありますが、それは誤った認識というものでありました。かれらは連れ去られたのではなく、マッド・マフラーそのもの、すなわち、マフラー星人になったのであります。
もとより、それが判明したのは、十年前のことでしたが、自ら進んでマフラー星人になろうという団体、いや、新興宗教が、地球上のいたるところに広がりました。マフラー星人ではなく、マフラー聖人なのだと、かれらは主張し、マッド・マフラーに巻かれることが、さながらファッションのごとく流行したのであります。わが日本国においても同様でありました。
・・・・人類には、生まれながらにして持つ至高の権利というものがあります。
自己決定権であります。自分で選択し、決定する、これは、
ですから、いま、生き残った皆さんが、どのような選択をするのか、それは、政府が、関知することではありません。
ここに、最長にして最後の日本国総理大臣として、国民の皆さんに、高らかに宣言するものであります。『あとは野となれマフラーとなれ!』
○
総理大臣として、生き残った八千人余りの最後の日本国民に対して演説を終えたオレは、妻の待つ我が家に戻ることにした。そう、あの、元SPの彼女だ。
四人の子に恵まれた。
オレはやっと長年の使命を果たし終えた達成感に恍惚としていた。
三十年前。
地球侵略司令官として着任以来、このオレは、人間との間に
おや、肌寒くなった。
風邪でもひいたのかもしれない。オレは顔馴染みの官房長官に言った。
「・・・寒いな。マフラーでも、持ってきてくれ!」
〈了〉
負けられない戦い 嵯峨嶋 掌 @yume2aliens
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