人質にされたけど犯人が好みすぎた

ネルシア

人質にされたけど犯人が好みすぎた

私は所謂お嬢様だ。

いい土地に広いお屋敷にメイド。


でも生活自体は退屈だった。

パーティを開いてはペコペコして腹の探り合い。

加えて時代錯誤の政略結婚のためのお見合い。

でもどの人もときめかない。


男ってつまんない。

話しても自慢話ばかりで私の興味のある話題を振ってこない。

両親も別に私が私じゃなくても良いみたいで、私という資産価値にしか興味が無い。


「あーあ。

なんか突飛なこと起きないかなぁ〜。」


寝る時間になりベッドで愚痴をこぼす。


「強盗とか入ったら面白いのになぁ、なんて。」


考えても仕方ないかと電気を消して寝ることにした。


「誰だお前は!?!?」


叫び声で目を覚ます。

父親の声だ。

でもすぐに静かになった。


何事かとバタバタと母親やメイドが駆ける足音が聞こえる。

次いで悲鳴。

からの静寂。


え、なになになに。


死ぬ危険があるのにも関わらず心臓が高鳴る。

怖いもの見たさで部屋を出て階段を下る。


目に入ってきたのはたくさんの死体。

目を開けたまま驚いた表情。

苦悶の果てに死んだような体。

ありとあらゆる死体がそこにあった。


その中心に疲れたようにあぐらをかいてる赤いフードを被った誰か。


ふとこちらを見てくる。


「まだ……いたのか……でも丁度いい……人質にしよう。」


フラフラとこちらに向かってくる。

恐怖で足がすくんで動けない。


別に両親が殺されて悲しいとかはない。

でも、こんな何も無い人生で死ぬのだけは嫌だ。


私の目の前まで来た時に風でフードが降りる。


「結婚してください。」


私の一言目だった。


「……は?」


「いや、結婚してください。ほんとに。」


「あんたさ、状況分かってる?

あんたの命を生かすも殺すも私次第なんだけど?」


「あなたのために死ねるなら本望です。」


一目惚れだった。

綺麗な顔立ちで背が高く筋肉質。

何より全てを諦めたような冷たい目に惹かれた。


「あたしはお金さえ手に入ればいいの。」


屋敷の外からサイレンが聞こえてくる。


「もうきやがった。

あたしが助けてと電話をかけた時は誰一人として来なかっくせに……。」


外の方を見ながら憎しみを込めて歯ぎしりする彼女。


「まぁいいや。あんたっていう人質いるし。」


「思う存分こき使ってください。」


「……なんか調子狂うなぁ。」



外から到着した警官の声が響く。


「お前は包囲されている!!

観念して出てこい!!」


「あーあ、つまんないベタなセリフ。

ちょっとあんた来いよ。」


力任せに引き寄せられる。


うひょぉぉぉ!!!!

たまんねぇぜ!!!!!

いい匂い……ぶへへへへ……。


「うっわ、匂い嗅ぐな気持ち悪い。」


「引き寄せたのはあなたじゃん。」


「入る家間違えたかなぁ……。」


「でも私には利用価値があるんでしょ?

協力してあげる。」


「いや、それってどういう……。

まぁいいや……。」


私を盾にしナイフを首に当ててくる。

そのまま外に出るとこれでもかと言うほどライトで照らされる。


「今すぐ離しなさい!!」


警官の声が響く。


「やだね!!

コイツを解放して欲しいなら現金で3億用意すること。

あと私が逃げるための時間、24時間は捜査しないと誓え。」


「そんなこと出来ない!!」


「だろうな!!!」


そう言ってまた屋敷の中に戻る。


「ねぇ。」


「んだよ。」


「あなたを3億円で買う。」


「……はぁ?」


「別に私の言いなりになれなんて言わない。

ただこの屋敷に住んでくれればそれでいい。

料理しなくていいし好きな時に出かけていいし、好きな物買っていい。

でも、ちゃんと帰ってきて。」


「外いるサツはどうすんだよ。」


「買収すれば問題ないでしょ?」


「あんた狂ってんな。」


「あなたほどじゃないけどね〜。」


〜数年後〜


「ただいま。」


「おかえり!!あなた!!」


「あなたじゃねぇ!!

恋人じゃねぇようちらは!!」


「えぇ!?それなら夫婦???きゃー!!!」


「……はぁ、お前のそのロマンティック脳をどうにかしてやりてぇわ。」


「だって大好きなんだもん。」


「……もだよ。」


「なぁに?」


「私……も……。」


「んふふふふ……ぶふふふふ……うへへへ……。」


「うわ、キモイキモイこっち来んな。

その手の動きしながら寄るな。」


そんなこんなで仲良しです。

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