28

「確かこの辺りに……おぉ、あったあった。」

そういいながら巌が部屋の物置から持ち出したのは、巻物のようなものだった。

「何だその巻物。」

「こいつは泊家の家系図だ。」

机の上に広げられたそれを眺めていく。

「やっぱここに俺の名前はねえんだな。」

泊家には自分と父親らしき存在がないということを実感する亮太。

「え?これって……。」

「どしたちとせ。」「何だ?」

驚くちとせの視線を辿ると、そこには“巌 旧姓:桜樹”の文字が。

「え、祖父さんは泊家の血引いてねえってことか?」

「ああ。儂はこの家に婿入りした身だ。だから儂の権限は血を引く人間より弱い。」

「……何が言いてえ。」

「お前の追放は、儂の妻たる前当主、つまりお前の祖母に当たる人間が決めたことだ。」

責任転嫁とも取れる言葉だが、その言葉に怒りを向ける者はいない。

表情こそ変化しているものの、彼の話を聞こうとしている。


「儂は、お前が生まれて喜んだ。なんせ初孫だからな。大切にしたいと思っておった。娘が亡くなってからその思いはいっそう強くなった。それは、お前に異能力がないと知っても変わらなかった。」

「でも奥さんはそうじゃなかったと。」

光の問いかけに近い言葉に巌は頷きをもって答える。

「ああ。妻は烈火の如く怒りを見せた。異能力の名家たる我が家の跡継ぎ候補が無能力だなんてとんでもない、とな。消えてもらうにしかるべき、とまで言い放った。」

「…そんな。」

思わず呟きが漏れるちとせ。

「その当時、儂には反論出来るだけの影響力はなかった。結果、お前たち父子の放逐は実行された。」

「儂は後悔した。故にお前とその父親の行方は捜し続けておった。といっても妻に勘付かれる訳にはいかんでな、なかなか進まんかった。」

「そんななか、妻が亡くなり必然的に当主は儂になった。」

「それと時を同じくして、お前を見つけることが出来た。生きていてくれて良かったと思うた。そしてお前を保護した神永に接触し、生活の為の資金提供を行う取り決めを結んだ。」

「ただ、罪の意識は消えなかった。儂にもっと力があれば、お前たち父子は追放などされなかったかもしれぬ。そう考えると、何かしないと気が済まなかった。」

「故に、異能力者の保護や支援を行うことにした。身寄りのない者や、差別・心ない言動に苦しめられている者に手を差し伸べ、居場所の提供や仕事への協力をする事業を開始した。儂らがお前にしたことは何をしても変わらぬ、消えぬ。だが、そのような扱いをされる者が少しでも減ればよいと思うた。」

「これが、全てだ。」


「許せとは言わぬ。儂ら泊家がお前を追放した事実は何を言おうとも変わらんのだからな。」

巌の告白が終わり、静まりかえる広間。

しばらく経って、真剣な目で口を切ったのは亮太だった。

「許すなんて言うつもりはねぇよ。それで人生が変わったのは事実だからな。でも…。」

そこで一度言葉を切り、真剣な眼差しのまま光とちとせに視線を移す。

「そうじゃなきゃこいつらには出逢えなかった。」

その顔には、非常に晴れやかな笑みが浮かんでいた。


「とりあえず、生活費の礼くらいはしねえとな。」

腰を上げ、悪戯っ子のような、愉快そうな笑みを浮かべた亮太に、巌が思わず問いかける。

「何をする気だ。」

「決まってんだろ。表でやってる抗争に首突っ込むのさ。」

それだけ言って、亮太は部屋の外へと飛び出していく。

「おい!」「ああもう……。」

周りを気にせずすっ飛んでいく亮太に呆れかえる光とちとせ。

「やれやれ、これだからあいつは……。」

「まぁ、泊くんらしいけどね。」

「仕方ねえ、俺たちも行くかぁ。」

「うん!」

「待て、お前たちにその義務はない。それでもやるというのか?」

「亮太のやつほっとく訳にもいかねえからな。んじゃ、一旦失礼するぜ!」

巌に返したその言葉を最後に、2人も部屋を飛び出していった。

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松ヶ崎町異能奇譚 夢幻 @gutchy

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