27
泊邸の近くまで駆けつけた3人だったが、そこは混戦状態となっていた。
「どうなってんだよこりゃ。」
「あ、おい鎌鼬!これ何が起こった!」
見つけた光の呼びかけに応じ、風と化してやってくる霧風。
「よう逆浪、それに爺さんの孫とその彼女。」
「孫言うな!そしてコイツは彼女じゃねえ!つーか状況を説明しろイタチ!」
「お前がイタチ言うな。仲良くない家とその取り巻きが攻撃してきた。」
「ふうん。今爺さんはどこにいる?」
「そんなの知ってどうする。」
「会ってくる。確かめたいことがある。」
「は?今?しかもこの状況でか?」
「俺にはそんなの関係ない。」
呆気にとられた霧風だが、亮太の固い意志を感じたのかため息をつく。
「…そうか、分かったよ。おい風巻!」
「何ですか先輩、こんな状況で。」
霧風の呼びかけに応じやって来たのは、二振りの日本刀を構え、クールな雰囲気を纏った高身長の青年だった。
「よほど重要な話ですか?」
「ああ。コイツらを爺さんのところに連れてってやれ。」
予想外の話だったらしく、青年の表情に困惑が見える。
「こんな状況で……、ひょっとして…爺さんのお孫さんとその仲間ですか?」
「ああ。話があるらしいからな。この場はオレたちに任せろ。漣に永瀬!問題ねえよなぁ?」
「おう,任せろっ!」「ええ、大丈夫よ。」
元気溢れる青年の声と冷たさを纏う女の声を聞き問題ないことを確認した、風巻と呼ばれた青年は3人に向き直る。
「分かりました。えっと皆さん、お名前は…。」
「泊亮太。」「逆浪光だ。」「高凪ちとせ。」
「ありがとうございます。あ、俺は風巻爽太です。では皆さん、着いてきて下さい。」
風巻爽太と名乗る青年の案内で、3人は巌の元へと向かった。
「なあ、鎌鼬がいるとはいえ、ほんとにあの場離れて良かったのか?」
逆浪のある意味当然の問いに、風巻爽太と名乗った青年は迷いなく答える。
「大丈夫ですよ、先輩は強いですし。あと漣さんも永瀬くんもいますから。」
そこには、彼らへの信頼が垣間見えた。
「君らも、祖父さんが面倒見てるのか?」
「まあ、そうなりますね。といっても、ここで暮らしてる人はそんなに多くなくて。有事のときに駆け付けて、後は時々顔を出すくらいの人がほとんどですけど。」
「ちなみに、ここってどういうところなの?」
「そうですね……あえて言うなら、『異能力者の集会所』というところでしょうか。」
「「「集会所???」」」
思わず首を傾げる3人。
「皆さんも分かると思うんですけど、異能力者ってどうにも普通の人からすると『得体の知れない奴ら』とか『化け物予備軍』とか心ない扱いされることが多いじゃないですか。」
「……まあな。」「それは、確かに……。」
「そういう人たちが集まる場所になってるんです、ここは。異能力者同士でコミュニケーションを取ったり、悩みや困り事を相談したり、仕事の斡旋を受けたり、異能力を鍛える稽古が出来たり。」
「凄いところだな。」
感心する逆浪。一方でちとせは今の話で新たな疑問が浮かび、それをぶつける。
「何でそんないいことやってるのに今攻撃されてるの?」
「冬天市のこの辺には、爺さんほどではないんですけど影響力を持ってる異能力者一族がいくつかあって。以前から泊家のことが気に入らなかったようなんですが、最近爺さんがそういう事業を始めて、ますますここの影響力が増すのが耐えられなくなった…っていうのが大方の予想ですね。」
「……最近?元々やってたわけじゃないのか?」
「はい。えっと……前の泊一族の当主、といっても爺さんの奥様ですけど…が亡くなって、爺さんが当主になった後だから、大体5、6年くらい前ですかね。」
「何でそのタイミングでそんなことを……?」
首をかしげながら、3人は屋敷の奥に向かっていった。
風巻に案内され、3人は巌がいるとされる奥の間の前に来ていた。風巻が襖越しに声をかける。
「爺さん、いますか?風巻です。」
『何だこんな時に。』
「お孫さんたちを連れてきました。話したいことがあるそうで。」
『……分かった。入れ。』
重々しい声が響いたと同時に、風巻が襖を開いた。
和室に置かれた長机の向かいに、巌が待っていた。
「それで、話したいこととはなんだ。」
口火を切った巌に、亮太は早々に切り出した。
「神永さんから聞いた。アンタ、俺の生活費を援助していたんだろ。」
「……それがどうした。」
「なんでそんなことを?異能力がなくて一族から捨てられた俺を援助する必要はなかった筈だ。」
「……それを聞いて何の意味がある。」
「俺はアンタを知りたい。アンタの心を知りたい。アンタが俺のことをどう思っていたのか、何を考えて生活費を援助したのか。……俺の追放に際して、何があったのか。」
「…………儂が何を言っても、言い訳程度にしか聞こえぬぞ。」
「それでもいい。祖父さんを知らずに恨むより、ちゃんと知ってから恨みたい。」
揺るがぬ意志を感じ取ったのか、巌は諦めを宿した顔で答えた。
「……分かった。嘘偽りなく話そう。」
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