26

巌と会った翌日の朝。

亮太は神永の元を訪ねていた。

「どうした亮太、深刻な顔して。」

「昨日、巌の爺さんに会った。」

「それは本当か?」

「ああ。後を継いでほしいって。」

「遂に、爺さんが接触したのか。」

その言い方に引っかかりを覚えた亮太は、すぐさまそれを追及する。

「その言い方、神永さんはあの爺さんが俺の祖父だって知ってたのか!?」

「ああ。そうだ。俺がお前を保護してすぐの頃に接触してきてな。」

「どうして教えてくれなかった!」

「爺さんに止められたんだよ。『自分の罪は自分で清算するから』って。」

「あのクソ野郎‥。」

憎悪を隠さぬ亮太に、神永は意外なことを告げる。

「おい待て、巌の爺さんはお前をずっと気にかけていたんだぞ。」

「んな訳あるか!」

「そうじゃなきゃ、俺の元に毎月20万振り込んでこねえよ。」

「は‥?」

「お前の生活にかかるお金は、全部そこから支払っていたんだ。」

「マジでか‥?」

「俺がこの状況で嘘をつくようなヤツだったか?」

「それはそうだけどさ‥。」

昨日から抱えていた感情に行き場がなくなり、困惑を隠せない亮太。

「なんでそれを言ってくれなかったんだよ爺さん‥。」

「何を言おうが言い訳にしか取られないと思ったんじゃねえか?」

「……俺を追放したことを、か?」

「そらそうだろ。理由がなんであれお前の人生を変えたことには変わらんからな。」

その言い回しに、どこか違和感を覚えた亮太だった。


「おい亮太、来たぞ。」「泊君?」

「あの爺さん、なんだかわかんなくなった。」

亮太の元を訪れた2人に、早速語り出す。

「ただのクソ野郎だと思ってたのに、神永さんとこに生活費振り込んでたんだと。」

困惑した表情で亮太が告げた内容を聞き、2人は昨日、別れ際の巌の言葉を思い出す。

「それでか。あの爺さん、お前が帰ったあとに俺らに『彼奴に寄り添ってやれ』って言ってたんだ。『彼奴を追放している時点で、わしは悪人だ』ともな。」

「だからさ、あの人、本当は態と悪人になったんじゃないかなって思うの。自分がやったことは許されることじゃないから。」

自分の知らない話を聞き、その内容に更に困惑する亮太。

「あの祖父さん、どういう人なのか調べた方がいい気がして来た。俺はどこまで信じていいのか分からねえよ。」

「お前がそうしたいなら、俺は構わないぞ。異能力者には何人か知り合いいるし、そこから爺さんを知る人にたどり着けばいい。」


それから。

3人は光の知り合いの異能力者たち(光曰く自分の師匠とその仲間らしい)や、神永さんの知り合いの警察官たちに泊巌について聞いて回った。


「結果、あの爺さんは悪い人ではなさそうだな。」

それが、3人が調べた末の結論だった。

彼は身寄りのない異能力者や一般人を保護し生活の面倒を見ていたり、異能力を仕事に利用する人々への協力・支援などを行っていたりと、多くの活動をしていた。

また、実際に顔を合わせた人々は口を揃えて「こちらへの気遣いを欠かさない、物腰の柔らかい人」と答えた。

昨日、泊亮太に与えた印象とは真逆に近いその行動に彼は首を捻る。

「爺さんの本質がアレなら、何で俺にあんなに冷たく当たったんだ…?」

一方、光とちとせは確信に近いものを得たようだった。

「やっぱりアレだろ、お前を追放したことに罪の意識があるからだろ。」

「私も、そう思う。」

「神永さんも、そういう言い回ししてたんだよなあ。理由がなんであれ、って。」

1つため息をつき、亮太は覚悟を決めた。

「もうこれ、直接本人に聞くのが早いよな。」

「行くのか?」

「ああ。その方が手っ取り早い。」


そうして、巌のいる屋敷に向かっていた3人だったが、亮太が真っ先に異変に気づいた。

「おい、何か向こう騒がしくねえか?」

光は顔見知りの異能力者を見つけ、何があったのか聞いてみるととんでもない答えが返ってきた。

「何があった?」

「泊の爺さんの屋敷辺りで、諍いが起こってやがる!」

「嘘っ?!」

「このタイミングでかよ…。」

驚くちとせと、タイミングの悪さに天を仰ぐ亮太。

「おい亮太、お前どうする。」

「んなもん、放っておけるわけないだろ。」

そういうと、亮太は2人を待たずに駆け出していった。

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