25

「あんたが、俺の祖父‥。」

いきなり目の前に現れた自分の縁者に、言葉をなくす亮太。それを他所に、巌は話を続ける。

「わしはここいらの異能力者を取り纏めている。ここにいる霧風やさっき会った翡翠はわしのお抱え異能力者の1人、というわけだ。」

「それで冬香がここに‥。」

納得した様子のちとせ。そして、まだ言葉のない亮太に代わり、光が質問をぶつける。

「何で今更亮太に接触したんだよ?」

「お前に頼みがあってな。」

「頼み?」

首をかしげる亮太に、話の方向が分からず困惑している光とちとせ。

彼らを目に、巌はその「頼み」を明かした。

「わしの後を継いでほしい。」

「わしには後継者がおらんでな、縁者もいない。お前を除けば、な。だから、わしが今やっている仕事・使命をお前に引き継ぎたいのだ。お前の活躍は聞いている。引き継ぐには十分な力のはずだ。」

亮太は少し考え、躊躇いを見せながら言葉を発した。

「返事はする。だが、その前に一つ聞かせろ。俺は、どうして捨てられたんだ?」

「覚えておらん、と?」

「ああ、覚えていない。だから教えてくれ。返事をするのはその後だ。」

その目に必死さを携え、手を少し震わせながら質問する亮太。

「簡単なことだ。異能力を持っていなかったから放逐しただけのこと。」

「‥は?」

何でもないことのように語る巌に、再び言葉をなくす亮太。

彼を見た巌が語り出した話は、耳を疑うものであった。


「わしら夫婦には一人娘がいた。

強力な異能を持っておったが如何せん体が弱くてな。

そんな娘を、愛してくれた男がいた。泊の家を継ぐとまで言った。

わしらは喜んで、その男を泊一家に迎え入れた。

そして、娘はその男と結婚したのだ。

ここまでは良かった。

娘は孫の出産と引き換えに命を落としてしまった。

おまけに生まれた孫には異能力がないときた。

異能力者を纏める一家の主が、無能力者では困る。

だから、父親諸共放逐した。

その孫が、お前だ。」


「嘘、だろ‥。」

衝撃の内容に、言葉のない光とちとせ。

「これで理解したか?」

「ああ、十分理解したよ。アンタらが外道だってなぁ!」

一方、巌の話を聞いて完全にぶち切れていた亮太は、顔を真っ赤にしてまくし立てる。

「異能力を持ってないから一家から追い出した奴が、異能力を手に入れたと知れば手のひら返して迎え入れようって?ふざけんな!」

「悪いがアンタの申し出は断る。絶対に話は受けない!帰るぞ。」

そう言い残し、亮太は1人部屋を出て行った。


「おい巌さん、どうするんだ?」

亮太が去った部屋で、光がぽつりと告げた。

「どうするも何も、張本人に断られたからな。この話は終わりにするしかあるまい。」

「やれやれ、これで良かったのかよ爺さん?」

「構わん。こうなることは分かっていた。それに、いつかは知らねばならんことだからな。」

霧風の問いに、わかりきった顔で語る巌。どこか心残りがあるように見えたその表情はすぐに消え、光とちとせに向き直る。

「お前たち。逆浪光、それと高凪ちとせと言ったか。」

「ああ。」「はい、そうですが‥。」

「彼奴を、よろしく頼む。」

頭を下げた巌の目には、先程とは違う親の感情が宿っていた。

「これ以上、わしが彼奴に何を言っても彼奴は聞かんだろう。そのくらい彼奴は傷ついたはずだ。彼奴に寄り添ってやってくれ。」

「巌さん、あんた悪い人じゃなさそうだな。」

何かを察したような顔で語る光に、巌は自嘲気味に笑って言う。

「そうは思わぬ。孫を放逐している時点で、わしは悪人だ。さて霧風、2人を見送ってやれ。」

「あいよ。」

こうして、2人も部屋を出て行った。

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