第3話 争いの中の【私】
すべからく競争というものが苦手でした。小学生の頃のマラソン大会で、【私】は最後から十番目ぐらいを走っていて、途端隣を走っていたひとが転んで膝をすりむいてしまい、彼は「大丈夫だから」と走り続けることを決心しましたが、その速さは歩くよりも遅かったのを覚えています。【私】は彼に並んでゆっくり走りました、それこそ歩いてしまうと彼に悪いような気がして。
そうして我々の最後尾争いで、彼を優先さしてゴオルしました。長い長い戦いが、終わったのです。
担任の先生が肩を弾ませる我々のもとへやってきて、こう言いました。
「なにふざけているの。もっと早くゴオルできたでしょう」
「先生、〇〇君はけがをしています」
「それは彼が途中リタイアするか、それこそリタイアしなかったのなら、まだ勝負は続いていたはずです。――それなのに、あんな譲るような真似……」
当時の【私】は年相応に、怒られたことにたいそうしょげてしまって、何も言い返せず、赤白帽子のゴムを噛んでいました。汗がいっぱいに染み込んでいて、しょっぱかったです。
あるとき【私】は陸上部のひとに話を訊きました。
「マラソンって何が楽しいのでしょうね。走ることなんて、辛いばかりでしょうに」
「ええと、まあ走るのが好きっていう人もいるかもしれないけど、僕の場合は記録を更新することが楽しかったかな。ほら、己の限界を……ってね」
「勝負事ではないのですか」
「まあ確かに強豪校とかに勝つと嬉しいかもね。でもさ、あんまり違うな。他人との勝敗というのは副産物みたいなもので、本筋は自分やチーム全体が自分たちと戦っているんだ」
だとしたら、当時の【私】は相当な大勝利だったでしょうね。ピイス。
疑いばっかり 羽衣石ゐお @tomoyo1567
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