三択問題の必勝法
ぎざ
三択問題の必勝法
姉には敵わない。
それは弟である僕の宿命だ。
とは言いつつも、僕にだって姉に勝つ方法はいくつかある。
僕は三択問題の必勝法を知っている。
「姉ちゃん、クイズでも、どう?」
「よかろう」
ソファに深く腰を下ろし、どことなく偉そうな姉はそう応えた。床に座っている僕は自然と姉を見上げる形になる。
そう構えていられるのも今のうちだ。
「小説投稿サイト『カクヨム』は、キャッチコピー作成機能などの多彩な機能がある。次のうち、他の小説投稿サイトとは異なるカクヨムの特色はどれ?」
『1. イラスト投稿機能』
『2.イラスト投稿機能の不実装 』
『3. 挿絵挿入機能』
「ふーん」姉は考えている。
カクヨムのキャッチコピー作成機能は、書き手にも読み手にも楽しい機能のひとつ。カクヨムに投稿されている小説を読む人にとって、タイトルの次に目が止まる大事な要素が、キャッチコピーだ。
本屋さんに置いてある小説の帯に書いてある、短くまとまった、それでいてキャッチーなうたい文句を自分で作れるというのだから、書き手側にとってもとてもやりがいのある機能であることには誰も否定しないだろう。
話は戻るが、三択問題は、要は正解は一つだけ。他二つの選択肢は不正解である。ということは、三つの選択肢の中で仲間はずれこそが正解だということだ。
この問題を例にとってみよう。
1番の『イラスト投稿機能』と3番の『挿絵挿入機能』は、どちらも『イラスト・絵を投稿する』という意味の選択肢だ。
一方、2番の『イラスト投稿機能の不実装』は1番と3番の選択肢を否定する選択肢。
1番の『イラスト投稿機能』が正解だとすると、3番『挿絵挿入機能』も正解になってしまう。正解は一つだけなのだから、正解が二つになってしまう1番と3番の選択肢は不正解であると判断できる。
この問題は仲間はずれの2番、『イラスト投稿機能の不実装』が正解。
カクヨムは、イラスト投稿機能の不実装について、このように説明している。
『文字という最小単位のみで表現された「小説」を、まずは思う存分楽しんでもらいたいと考えたからです。 様々に装飾できるWebの世界ではありますが、絵がないからこそ掻き立てられる想像もあります。 作者の方も読者の方も、まずはそこに集中いただければと思っております。』
(カクヨムのホームページからの引用)
何か機能が『ある』だけではなく、他にはない『無い』機能があるというのも、カクヨムの強みだ。
カクヨムの話は置いておいて、僕の提唱する『必勝法』とは、選択肢の中で仲間はずれを見つけること。そして、それぞれの選択肢を否定し合うものがあれば、そのどちらかが正解だということだ。
知識がなくても、この考え方を実行していけば、正解は自ずと現れる。これが僕の考えついた、『三択問題の必勝法』!!
姉がこのカラクリを知っていれば、カクヨムのことをあまり知らなくてもこのクイズの答えが導き出せるのだが……、小説は一切読まない姉にこの問題が解けるかな?
「イラストは投稿できるでしょ。1番!」
「ぶっぶー! 不正解! 正解は2番でしたー!」
よっしゃ! 僕は小さくガッツポーズをした。姉に勝つには、姉の弱点を攻める。これしかない。
僕は姉に、『三択問題の必勝法』を話して聞かせた。
かくかくしかじか。
「だから、お
「なるほどねー。必勝法か。すごいすごい」
全然すごいと思っていない、平坦な声で姉は続ける。
「じゃあ私からも問題を出すわ。必勝法があるなら、どんな問題でも簡単に解けるわよねぇ?」
姉は不敵な笑みを浮かべる。その笑顔を僕は何度も見たことがあった。姉が勝利を確信している顔だ。
大丈夫。僕には『必勝法』がある。かるーく問題を解いて、悔しがる姉に、僕の笑顔を見せつけてやるんだ!
「私たちの身体に流れている血は赤い。その血から作り出されているものは、次のうち、どれ?」
『1.涙』
『2.汗』
『3.母乳』
「えぇ?」
血から作り出されているもの? 全然わからない。
飲んだスポーツドリンクとか、麦茶とかの水分から作り出されているものだと思っていた。汗は、麦茶飲むとたくさん出てくるじゃないか? わざわざ血を経由して作られるだろうか? 涙だってそうだ。
三つの選択肢。何か違いを見いだせるか? 共通点を探すんだ。涙と汗の色は透明。母乳は牛乳と同じ色の白かな?
血も涙もない、という言葉がある。血は涙なのか?
汗と涙の結晶、って表現もあるから、汗と涙が仲間なら、仲間はずれの『母乳』が正解か?
いや、母乳は白。血は赤。色が全然違う。血の色はヘモグロビンという赤血球の色だという。そのヘモグロビンがなくなれば、透明になるのでは? だとすると、汗と涙のどっちかだろうか。
僕は首をぶんぶんと振った。姉の策略に引っかかるところだった。知識で解こうとするな! 僕には三択問題の必勝法があるんだ! 僕は自分の『必勝法』にすがりついた。
汗と涙は透明。母乳は白。仲間はずれは3番の『 母乳』!
「僕の答えは、3番の母乳!」
息も絶え絶え、僕は答えを絞り出した。
「本当にその答えでいいのね?」
「えぇっ!?」
姉のその余裕の笑みは、決して揺るがなかった。
「はい、じゃあ正解を発表しまーす」
僕は必勝法を信じるしかなかった。唾を飲み込み、姉の言葉の先を待つ。
「正解は1番! 涙はね、元々血なのよ。詳しくは自分で調べてみなさい」
「な、なんだって……!」
正解は、1番だったのか!
負けた。僕は、勝負に負けたのだ。
勝って、勝ち誇った笑みを浮かべた姉は続けた。
「ちなみに、2番の汗も正解。汗はね、元々血なのよ。詳しくは自分で調べてみなさい」
「ななな、なんだって……!!」
ん? なんだかおかしくないか?
「で、3番も正解。母乳はね、元々血なのよ。詳しくは自分で……」
「ちょっと! お姉!! それって!!」
「そう。正解は1、2、3番、全部でした」
「ず、ずるい!!」
テレビ番組でよくある問題。三択問題と見せかけて、実は全部が正解でした! というものだ。僕の必勝法はあてにならない。選択肢のそれぞれが否定し合っていても、それが答えの範囲内なら正解になってしまう。
「ずるくないわよ。あなたが勝手に『三択問題』って決めつけていたでしょ? 私はちゃんと言ったわよ。『次のうち、正解はどれ?』って。『正解はひとつ』だなんて一言も言ってないわ」
「ぐ、ぐぬぬ……!!」
そうだ。僕は三択問題の必勝法を自慢げに姉に話した。その後姉が問題を出してきたから、思わず三択問題だと決めつけていた。姉が出してきたのは、三択の多答問題だったのだ。
「必勝法、破れたり」
姉はまた、笑った。とても嬉しそうに。とても楽しそうに笑う。
「いいことを教えてあげるわ、弟よ」
「何? 僕のよりもっとすごい、必勝法のこと?」
「そんなつまらない事じゃないの」
姉は、必勝法なんてつまらない。と言い切った。
「人生におけるすべての問題に『コレ』って決まった必勝法なんてないの。ただ、『どうやったら勝てるか』をその都度考えに考え抜く。それが私にとっての必勝法。うーんと考え抜いて、勝った時って、すっごい気持ちがいいのよ」
姉は僕を出し抜いて、とっても嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、僕はやっぱり同じ考えに行きついた。
姉には敵わない。それが弟である宿命なのだと。
それでも、さっきまでの僕とは違う。
今度こそ、勝ってやるんだ。
姉直伝の『最強の必勝法』を胸に、僕は頭の中で新たな問題を作り始めていた。
三択問題の必勝法 ぎざ @gizazig
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