五話 セーフティエリアでの休憩
四十層に到着した俺とレイアは腰を地面へと下ろしていた。
見渡す限りの大自然。森林に囲まれた湖の付近でゆっくりと休憩しているところだ。
「じゃあ、休憩がてらにこの後のダンジョン攻略の作戦会議をしようか」
「うん、わかったわ」
作戦会議と言ってもここまで来たようにすればすぐにでも四十九層まで行けるだろう。俺一人でもそこまでは行ったことあるしな。問題はフロアボスだな。
「強い人が一人増えるだけでここまで楽に進めるとは正直思わなかった。このまま行けば遅くとも数日の内に四十層に辿り付けるだろう」
「私もここまで進むのが早いのは初めてだわ。ジャックのおかげよ」
「そこでだ、俺も四十九層までは行ったことがあるんだけど四十九層のフロアボスはまだ倒したことがないんだ。そこだけが心配なんだよな」
「なるほどね。警戒するのはいいことだけれど慎重になりすぎるのも問題よ」
「そうだな……」
確かにレイアと組んだことで戦闘は驚く程に安定化した。純粋な攻撃役であるレイアの高い火力は魔物に警戒される。魔物だって生きているし、本能のようなものも存在してる。目の前に脅威を感じる存在がいたらそっちに意識は集中する。レイアに意識を向けた魔物に俺が不意打ちをすることで早く、そして楽に戦闘をこなしていける。
レイアの言う通り問題はなさそうではある。
「まあ、しいて言うなら四十九層のフロアボスが状態異常にならないみたいだから俺はほとんど役に立てないことだな」
「えっ、そうなの?」
「ああ、聞いた話だから本当に食らわないかわからないけどそういう話だ」
「そっか……それなら作戦は必要かもね」
レイアは口元に手を当てて思考を巡らせる。
「俺が囮になるよ。俺が相手の注意を引き付けるからその隙に倒してくれ」
「うーん。でもそれだとジャックの持ち味が活かせられないわよ。私が敵の注意を引き付けてジャックが一撃必殺のヒットアンドアウェイのスタイルでやっているからここまで戦闘が安定している。それの逆にするとなると……」
「俺は逆でもいけるぞ。それにレイアは攻撃にのみ集中できるからそれはそれで利点もある」
「そう言われるとそうね。ジャックに敵の注意を引かせて後は≪ライトニング≫で倒すしかなさそうね」
「そうだな、使うタイミングさえ間違えなければそれで倒せるだろうな」
≪ライトニング≫さえあればどんな敵でも倒せそうな気分になるから慢心しないように注意が必要だな。
鬼族特有の身体能力の高さに加えて本物の雷のような速度で攻撃してるから凄い威力になる。素の状態でもかなりの威力だしな。
「そのスキルを持ってるくらいだからわかっていると思うけど慢心だけはしないようにな」
「その辺はわきまえているわよ。それにダンジョン内ではジャックの前でしか使ったことないわよ」
「えっ、そうなのか?」
「そうよ。ジャック以外の人とパーティを組んだ時は他が頼りなくて使ったことないわよ。あのスキル使った後って無防備になるのよ」
「そうだけど俺と初対面の時に使ったじゃないか……ってあの時は緊急事態だから仕方ないか」
確かにここに来るまでに≪ライトニング≫は使ってない。というかレイアはスキルを使ってない。素の能力だけでもここまで強ければもう実力は上級冒険者に近いのかもしれない。
「緊急事態だったのもあるし、ジャックの場合はあった瞬間に強いっていうのが分かったからっていうのもあるかも」
「見ただけで?」
そういうスキルか何かか。確かそれに似たスキルを持った冒険者もいたな。≪真眼≫っていうスキルで対象を見ただけでその対象の情報が分かるっていうスキルだ。それに類似したスキルか。
俺がスキルかなと思っているとレイアはスキルじゃないという。
「ジャックはあれだけの数の魔物を見ても全く動じてなかったわ。人って感情が変化したり動揺したりすると目の中にある瞳孔の大きさが変化するのだけどジャックは全く変化なかったわ。そういう人はそれ以上の修羅場を経験している猛者か機械だけよ」
「それで俺が強いと思ったのか」
「少なくとも今まで一緒にパーティを組んだ人よりは間違いなく強いと思ったわ。現に強かったしダンジョン内についても詳しいからパーティを組んで正解だったわ」
確かにあまり動揺する方じゃないけどな。瞳孔か今度、上級冒険者の人のも見てみるか。
「そういえば、今日はここで泊まろうと思うんだけどいいよな?」
「えっ、まあいいけど……大丈夫なの?」
「何が?」
「その寝ているとこを……」
「ああ、周りに気配がしたら俺はすぐに起きれるから大丈夫だよ」
「そ、そうなの……」
寝ている時でも人が近づいたら絶対に気付く。そういうのは前世で叩きこまれた。レイアがちょっと引いている気もするけど。
「……いや、まあ、そうじゃなくて……私これでも女なのよ」
そっちか。そういや冒険者やってる人ってそういうの気にしない人多かったから気付かなかった。前世の年も合わせると俺はもういい年いってる。性欲も落ち着いてきているのも原因だ。というかそういうこと言われるとこっちまで意識してきてしまう。
「悪い、俺の配慮が足らなかった」
「私も何か近づいてきたら起きれるから、寝る時は少し離れたとこにしようね」
「そうだな」
レイアも鬼族の生き残りなわけだし過酷な生活をしてきたのだろう。俺もそうだが他人の気配には敏感であったりするから離れていても大丈夫だろう。
「じゃ、寝る場所作るか」
「うん」
俺とレイアは少し離れた所に寝る場所を作り、今日は寝て明日からのダンジョン攻略に備えることにした。
白い死神 千手 幸村 @kaizin
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