四話 忘れかけてた依頼とスキル


「とりあえずこのままだと危ないから一度、四十層に行くか」

「四十層に何かあるの?」

「ああ、ダンジョン内にはセーフティエリアってのがあるんだけど十層ごとに一つのセーフティエリアがあるんだ。レイアもここに来る途中にあっただろ」

「あー、あの魔物が出てこない階層ね」

「そう、四十層も魔物が出てこなくて安全な階層になっているからとりあえずそこまで行こうか」


 レイアも俺の意見に了承してくれたみたいで首を縦にして頷く。


「あっ、その前にこの層にある黄金の林檎を採りに行きたいんだけどいいか?」

「いいわよ、手伝ってくれるならそのくらい」


 レイアの許可も得たので俺は依頼の黄金の林檎をレイアと一緒に採りに行く。


「そう言えば、さっきのスキルは初めて見たんだけどどうゆう効果なんだ?」

「《ライトニング》のこと?」

「そうそう。まあ言える範囲でいいんだけど、嫌なら言わなくても良いしさ」


 自分のスキルを開示するのを嫌がる冒険者も中にはいる。自分の弱点がバレたりするからだ。この世には善良な人もいれば悪人だっている。自分の身は自分で守るしかない世の中で他者に自分の弱点を晒すことはしない。

 師匠いわく服を脱げば脱ぐほど身体能力が上がる露出狂のようなパッシブスキルを持った冒険者がいるらしく自分の名誉のためにそのパッシブスキルだけは口外しないらしい。

 そういった変な理由で喋りたがらない人もいるそうだ。


「まあ、別に喋っても問題ないからいいわよ。《ライトニング》は自分の身体を一時的に雷化させることが出来るの」

「雷化?雷属性の魔力を纏うってこと?」

「ううん、付与とか身に纏うとかじゃなくて、なんて言えばいいんだろ。自分自身が雷になるっていうのが一番近いかな」


 雷になるってなんだ。よくわからん。


「私からしたらあなたのスキルの方がよくわからないんだけど……取り敢えず今のところは三分はもつのだけど三分がすぎると全身が筋肉痛みたいになってしばらく動けなくなるのよ」

「三分間は無敵状態だけど、その反動も大きいと」

「そう。私は教えたから次はあなたね」

「俺のは結構使ってる人多いぞ」


 冒険者で《魔装》を使っている人は結構いるからわざわざ聞かなくても調べればすぐにわかるようなものだ。


「私の知ってる《魔装》は付与できるの何か一種類だけなんだけど」

「俺も状態異常だけしか付与してないぞ」

「その状態異常の中身よ。あなたは何個も付与してたけどそんなのは普通あり得ないわよ」

「そうなのか……他の人とパーティ組んだことないから普通だと思ってた」


 そういや師匠も初めてこれ見せた時に変な顔してたな。あれはそういうことだったのか。


「そういえばあなた、そこまでの強さがあるのになんで一人で潜っているの?」

「……」

「……ごめんなさい。早く四十層を目指しましょう」


 なんで謝るんだ。何かを察した顔をするんじゃない。気を使うな。余計に精神的に来るだろう。俺が一人で潜るのは決して友達がいないだとかそんな理由ではない。


「着いたぞ」


 そこには大きな湖があった。そしてその奥には黄金に輝く大樹が聳え立つ。大樹には目当ての黄金の林檎が沢山実っている。


「綺麗……」


 思わずレイアもぽつりと独り言のように漏れてしまう。それ程に幻想的な光景だった。


「ちょっと待っててな」


 俺は大樹に登り黄金の林檎を採りにいく。軽々と登り、黄金の林檎を採った俺はレイアに声を掛ける。


「一個食べるか?」

「いいの?」

「これだけあるんだから一個ぐらいいいだろ」


 ほらと言ってレイアに向かって投げ渡す。


「これ体に害とかないよね?」

「ねーよ。こうやって丸かじりで食えるぞ」


 そう言って俺は先に食って毒見役をする。俺が食ったのを見て大丈夫と判断したのかレイアは服で拭いた後に一齧りする。


「美味しい」


 始めは怪しんでいたが最終的には全部食べてくれた。


「そうだろ、依頼分は残してあるからもう一個食べるか?」

「食べるわ」


 俺達は黄金の林檎を食べながら少し休憩にしているとレイアが疑問だったのかここまでのことを聞いてくる。


「そういえば、ここに来るまで魔物と出会わなかったけどあなたのスキルか何か?」

「ん?ああ≪サーチ≫っていうスキルで周囲の人や魔物、トラップの位置が分かるんだけどパーティに一人は持っている人いるようなスキルだよ」

「そうなのね。やっぱりそういう人が一人はいるのよね」

「そうだな。単純な戦闘力のみでここまで来たレイアはかなり凄いことをしてたんだよ」

「凄いと言われてもあまり実感はないのだけどね」


 実感はなくとも間違いなく凄いことをしている。この層に来るまで数々のトラップに引っかかっているはずだ。それでも力技でこの層まで冒険者になって一週間で来ていることが恐ろしい。これでちゃんとしたパーティに入ればすぐにでも最前線の人達に追いつくであろう。

 本人がその才能に気付くのはもっと後かもしれない。

 師匠が知ったら大喜びしそうだ。あの人はダンジョン攻略にかなり力を入れている人だから新しい戦力に喜ばないはずはない。


「それにしてもあなたの協力を得られたのは大きいわ。これだけダンジョン内を進むのが簡単になればすぐにでも五十層まですぐにでも行けそうだわ」

「まあ、レイアの戦闘力なら本当に行けそうだけど油断は禁物だ」

「油断はしないわよ。因みにあなたは何層まで行ったことがあるの?」

「俺は四十九層まで行ったことはあるけどフロアボスとは戦ったことはない」

「その下の層に今まで行かなかった理由は何かあるの?」

「四十九層のフロアボスは状態異常が殆ど効かないらしい。俺との相性も悪いし、下の層に行く必要もなかったからっていうのが理由かな。この層までは来れればお金に困ることもないし」


 中級冒険者にまでなると普通に生きていく分にはお金に困ることはない。直接指名で依頼が来ることもあるし四十層にある資源や物資、魔石を持ち帰れば普通に働くよりも金が入る。


「そうなのね。冒険者って皆ダンジョンの最奥部を目指している人ばっかりなのかと思ってたわ」

「特にそういった目標もなかったんだよな。レイアだって弟のためにダンジョンに潜っているんだし人それぞれだな」

「そう言われてみればそうね」


 俺は師匠に拾われなければ冒険者にはなっていない。冒険者になろうと思ってなったわけではないので他の冒険者と話が合わなかったりする。就職先がないゴロツキか、夢を見て冒険者となった奴らのニ択だ。俺みたいな奴はほとんどいない。

 だから距離置かれてるのかなと思いながらも動き出す。


「そろそろ、行こうか」

「そうね。私は回復したし、少し魔物と戦ってもいいからなるべく最短ルートで案内よろしくね」

「了解」


 頼もしいことで。


 俺とレイアはこのまま四十層にあるセーフティエリアまで向かう。その道中苦戦はすることはなかった。意外と相性が良いかと思いながら俺たちはダンジョンを攻略していった。

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