三話 白い死神と鬼族の生き残り
轟音が鳴り止み、彼女はその場に倒れ込む。
どうしたのかと思い近くに寄り、声をかけると疲れたと言われた。
「スキルの反動でしばらく動けない」
そういや三分しかもたないって言ってたな。確かにさっきのは凄かった。実際に魔物の大半を倒したのは彼女だ。
「そういや、名前はなんて言うんだ?」
「レイア・スウィルブ。レイアでいいよ」
「そっか、知ってるかもしれないが俺はジャック・ナイフだ。ジャックでいい、よろしくな」
これだけの強さなら名前の通った冒険者かと思ったけど知らない名前だった。
「あなた噂で聞くよりもいい人なのね」
「どんな噂か知らないけど、別にいい人でもねーよ」
「でも魔物に囲まれた私を助けたり、倒れている私の代わりに今も周囲の警戒を怠ってないじゃない」
(……バレてるか)
「だから私から見た今のあなたの印象はいい人よ」
「そうかよ」
(前世では殺しばっかやってたからいい人なんて始めて言われたな。村は救っても英雄ではなく化物扱いされてたし……)
彼女は倒れたまま器用に回復ポーションを飲む。体力を回復させる。傷とか外傷は殆どなかったが先程のスキルでかなり疲労しているのだろう。
「大丈夫か?」
俺は手を差しだすとレイアは俺の手を見てからしばらく動かない。
心配になった俺は声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「ありがとう。けど大丈夫だから」
レイナは先程飲んだ回復ポーションで体力が戻ったのか、俺の手を使わずに一人で起き上がる。
(潔癖症なのか。……えっ、まさか生理的に無理だからとかそういう理由か?)
少しショックを受けているジャックにレイアが声をかけてくる。
「ごめんなさい。悪気があったわけではないのだけど……」
そう言ってレイアは頭に被っているフードを取る。
「私、鬼族なの」
フードを取ると薄紅がかった腰ぐらいまである白髪があらわになる。整った容姿と紅玉のような透き通る鮮やかな色の大きな瞳は思わず見入ってしまう程だ。額には鬼族の証である二本の角が出ている。
「それで小さい頃に悪い人に捕まりそうになったことがあってそれからトラウマなの。だからあなたから手を差し伸べられた時に戸惑ってしまったのよ」
今はそんなことはないが鬼族は昔、王国内で迫害にあっており鬼族の生き残りはあまり多くない。そのため鬼族という種族の希少価値は高い。レイアは恐らく人身売買を行なっている悪意のある人間に捕まりかけたのだろう。そのようなことがあればフードを被って自身の種族がバレないようにするだろう。
俺は知らなかったとはいえ、不快にさせたかと思い謝罪する。
「すまん、不快にさせたな」
「ううん。そんなことないよ、ただ少し驚いただけ」
俺はそういえばと疑問に思ったことを聞いてみる。
「俺も人のこと言えないけどなんで一人で潜ってるんだ?それだけ強いなら他のパーティから勧誘でも着そうだけど」
「私、王都に来てまだ一週間ぐらいなの。冒険者になったばかりで同じような人と一緒に潜ったけれど、私について来れないのよ。強そうな人はだいたい集団で動いてるし、その集団でダンジョンに潜るから入る隙もないから私は仕方なく一人で潜ってるの」
「一週間っ!?」
俺が三十層のミノタウロスを倒せるようになったのが三年前だ。今年十六歳になるから当時十三歳のころだ。十二歳で師匠に連れられて冒険者となり一年がたったころにようやく三十層を突破することが出来た。
それを一週間か。俺の体がまだ子供だったからというのもあるかもしれないがそれにしても早い。早すぎる。それじゃあ名前も知らないわけだよ。
「すごいな。冒険者になってから一週間でここまで来れればレイアはすぐにでも有名になるよ。そうすればいろんなところから勧誘が来るし、どこか良さそうなところに入ればいいじゃない?」
「……それじゃ遅いのよ」
「遅いって何か急ぎでダンジョンに潜る理由でもあるのか?」
俺は手伝えることがあれば手伝うぞと言うとレイアは俺の顔を見て一瞬だけ驚いた顔をして答えてくれる。
「私には弟がいるのだけれどつい最近、病にかかって寝たきりなの」
「病っていうのは?」
「魔癌。発症したが最後一ヶ月以内に死んでしまう鬼族特有の病気のことよ」
「一ヶ月以内……」
冒険者になったのが一週間前。どこに住んでいたか知らないが王都に来る時間も合わせれば魔癌が発症してからもう結構経つのではないか。
「でも治療薬はあるのよ。ただその治療薬の素材となるのがダンジョンの五十層にあるのよね」
五十層。俺の最高到達点が四十九層でありまだ行ったことのない階層だ。
「それでか……そういや上級冒険者達は今最下層に行ってたな」
ダンジョンの最奥部を目指し潜り続ける上級冒険者達。ダンジョンは奥に行くほど魔物は強くなり、一層の広さも大きくなってくるという。最前線の人達は潜ってから数ヶ月は帰ってこないことはざらである。
そして上級冒険者達は先月、最前線の到達点を更新しに総出でダンジョンに潜ったばかりだ。間に合わない。
「そう、それで私は一人で潜っているの」
そう言って切ない表情をする彼女に少し同情するし、次の一言で俺は言葉を失う。
「弟のために。たった一人の家族だから」
彼女が前世の俺と重なって見えた。俺も弟のために頑張り最終的には死んでしまった。このままでは彼女も死んでしまうのではないかと思もってしまう。
「これでも手伝ってくれる?」
俺はどうしても彼女を放ってはおけない。前世で俺が死んで弟は恐らく悲しんだであろう。自分は助かっても唯一の家族に死なれたらそれはどれだけ悲しいことなのか。
レイアの弟もそのようにしたくはない。
「やっぱり嫌だよね……」
「手伝うよ」
「えっ?」
レイアは先程よりも驚いた顔をして俺の顔を見る。
「いいの?」
「ああ、今の話を聞いて放っておける程、俺は心のない人間じゃない」
「……ありがとう。あなたはやっぱりいい人よ」
俺はこれから彼女とダンジョンに潜り五十層を目指すことを決意した。
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