二話 ダンジョンでの出会いは突然
三十層から三十一層へと降りていく。
三十層を超えれば初級冒険者から中級冒険者へとなれる。先程戦ったミノタウロスの魔石をギルドで見せれば昇格できる。ジャックは元々中級冒険者であるため、昇格はないのだが。
因みに六十層を突破すれば晴れて最前線の冒険者と同じ上級冒険者へとなれる。
今回俺の目的は三十七層にできる果物である黄金の林檎を採りに来た。王都の学者が今研究中でどうやら若返りの成分があるらしく、寿命を引き延ばせるのではないかという研究を行っているらしい。難しいことはわからないがとにかくその黄金の林檎を学者に渡すのが今回受注している依頼だ。そのためにあと七層も潜らなければならない。
三十層を超えると魔物の強さも急に強くなる。六十層も超えると同じことが起きるらしく、初級、中級、上級と冒険者を分ける理由はそこにある。
---≪ステルス≫---
ステルスは自分の姿が自分以外の対象に見えなくなるスキルだ。
魔物との戦闘をなるべく避けるために使えるし、戦闘でも使えるスキルだ。
匂いや音は消せないので嗅覚の鋭い魔物とかにはバレてしまうがそれでも戦闘をかなり回避できる。
俺は魔物にバレないように足音を殺して進む。前世で学んだ暗殺術が意外にも活きる。戦闘法もベースとなっているのは前世の暗殺術であり、対魔物ように更なる改良された暗殺術はスキルの効果もあり師匠いわく、かなり凶悪な戦闘法らしい。
そのせいで変な二つ名をつけられて周りからは距離置かれてるし。
ちなみに俺がパーティを組まない理由はそれとはまた別の理由である。決してぼっちだからとかそんな理由ではない。たぶん。
---≪サーチ≫---
草むらに身を潜め気配を絶ち≪ステルス≫から≪サーチ≫へとスキルを切り替える。
周りに危険な魔物、トラップが仕掛けてないか慎重に探る。ダンジョン内には様々なトラップがあり、場合によっては死に直結することもある。
辺りに危険がないことを確認してからスキルを≪サーチ≫から≪ステルス≫に切り替える。
物凄く地味な作業かもしれないがそういった地味なことにこそしっかりと丁寧におこなう必要がある。ちょっとした油断がダンジョンでは命取りだ。だからこそ地味な作業にも油断したり、焦りがでないようにゆっくりでもいいから丁寧にやれと師匠からの教えだった。
現状最前線で戦う最高峰の冒険者だ。その人の言葉なので間違いはなかろう。
今やったことの繰り返しで慎重にダンジョンを進んでいく。
俺は特にソロで潜っているから余計に気をつけねばならない。
ジャックはそのまま三十七層まで辿り着く。ジャックの最高到達点は四十九層である。そもそもダンジョンに一人で潜るものではないのだからジャックの強さが伺える。
とはいえ、上級冒険者であれば一人で四十九層なんて突破できるのだからおかしい。
ダンジョン内では単純な戦闘力だけでなく、荷物持ちや、サポート、回復、斥候などいろいろな人が必要となってくる。ジャックはメイン戦闘、斥候、荷物持ちなどの様々な役割を一人でこなしている。回復はできないが。
これらを一人でこなすとなるとかなり大変だ。
だから皆、仲間を集めパーティを組みダンジョンへと潜るのだ。
慎重に索敵しながら、進んでいき三十一層のフロアボスがいるところまで来ていた。
このフロアボスだけは避けて通れないフロアボスを倒さなければ次の層へといけないからだ。
---≪魔装≫---
状態異常耐性低下、出血、暗闇、麻痺、疲労、猛毒、衰弱、幻惑、窒息、損傷、恐怖、混乱、気絶、継続、貧血、倦怠、呪縛、沈黙付与
三十一層はオークキングと呼ばれるフロアボスだ。だがミノタウロス程の耐久力はない。≪魔装≫で状態異常を付与した一撃はオークキングを一分程で絶命させる。
状態異常を付与してから魔石になるまでジャックは一切気を抜かない。どんな時でも対象が確実に絶命するまで一切気を抜かない。これはもう癖のようなものだ。
ジャックはそのまま三十七層まで危なげなく突破していく。
目的の黄金の林檎を採りに行こうとする。黄金の林檎は三十七層の奥にある泉の付近にある大樹から実ができる。
そのため俺は三十七層の奥へと向かうがある異変を察知した。
遠目に見える魔物の大群。普通ではあり得ないその光景に思う。
モンスターハウスだと。
モンスターハウスとはダンジョン内にあるトラップの一種だ。際限なく魔物がある一定の場所に引き寄せられるように集まってくる。
誰かがダンジョン内のトラップに引っかかったのだろう。もう逃げ延びたかもしれないがもしかしたらまだあの中で冒険者が閉じ込められているかもしれない。
俺は魔物が引き寄せられている場所へと向かう。
「はあぁッ!」
人の声がする。この魔物の大群と戦っているのか。
(見てしまったものは仕方ないか。このまま見殺しにするのは後味悪いし)
ジャック自身前世の頃かなりの暗殺をおこなっており、人を殺すのも殺されるのも抵抗はないが依頼でやっていただけた。
道端で人が倒れていたら普通に助ける。
それでも自身が嵌められていないかの警戒はおこたらないが。
ーーー《閃光斬十連》ーーー
目にも止まらぬ電光石火の十連撃で魔物の急所を確実に斬っていく。
今の十連撃で十体の魔物は倒したであろう。
状態異常を付与するよりもこちらのほうが速く助けに入ることができる。
「あなたは……もしかて"白い死神"?」
白い死神。それは俺の二つ名だ。誰がつけたのかは知らないが俺の白い髪の毛とこの戦闘スタイルがまるで死神ようだと言われているらしい。そのせいで俺は周囲からは避けられることが多い。だからあまり好きな名ではない。
「……そうだ。偶然通りかかったから加勢しにきた。お前は一人か?」
「……そう。……だからあなたが来て助かった」
フードを深く被って顔はよく見えないが声と体型から女性であろう。
「二人でこの数は多いな……」
俺の言葉は彼女のスキルの発動によって遮られる。
ーーー《ライトニング》ーーー
バチバチと体中から電気の弾ける音が聞こえる。
「三分しか持たない……その後はよろしく」
そう言うと彼女の姿は消える。いや目で追えない程の速度で動いたのだろう。
まるで雷が落ちたかのような轟音が鳴る。
魔物が次々とやられていくその光景を見て、俺は戦慄する。こいつも上級冒険者の類いの奴だと。
この破壊力にこの速度は俺のような凡人ではいくら努力してもできない。本当に才能のある奴はこいつらのことを言うのだろう。
「すげーな。俺の加勢も必要無かったかもな」
俺も少しは手伝おうと、魔物に向かい走る。
ーーー《魔装・変》ーーー
状態異常耐性低下、出血、暗闇、麻痺、疲労、猛毒、衰弱、幻惑、窒息、損傷、恐怖、混乱、気絶、継続、貧血、倦怠、呪縛、沈黙付与
《魔装・変》は己に纏う魔力の形を変えるスキルだ。《魔装》は元々、己に魔力を纏いその魔力に効果を付与するスキルだ。俺は魔力に状態異常の効果を付与しているだけで火属性の魔力を付与すれば火が出る。
《魔装・変》で俺はナイフだけでなく、ナイフの先の何もない所まで伸ばす。伸ばした《魔装》を俺は横になぎ払う。その行為だけで五十を超える魔物に一斉に状態異常を付与する。
フロアボスでさえ何も出来ずに葬られるその状態異常攻撃に魔物たちは一斉に魔石となる。
この《魔装》の使い方も死神の鎌みたいと言われ二つ名の由来となっている。
雷のような轟音も止み、俺たちは二人で数百体もの魔物を倒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます