インスタントフィクション

きすけ(鳥)。

ありふれた消失

指パッチンをすると、人が消えるんですよ。

なんて言って信じてくれた人、今まで一人もいないんですがね、コレ本当なんです、本当なんですよ。

信じていただきたいので、私の体験談をお話ししましょうね。渋谷のスクランブル交差点、あるでしょ。私あそこをたまたま通る機会がありましてね、あの、こんな年齢で恥ずかしいんですが私、指パッチンが大好きでしてね、こう、パチパチ鳴らしながら歩いてたわけです、でスクランブル交差点というのは、自分のいる人間の列以外にも何本もこう、列が動いているじゃないですか、その一本におばあちゃんが歩いていたんです。こんなところに一人でおばあちゃん、大変だねえなんて思いながらパチパチ、パチパチです。そしたらおばあちゃん、私の前を歩いてた人と重なって死角に入っちゃって、おやと思ってパチ、パチ。そろそろ死角を抜けるぞ、パチ、パチ、パチ。

いなくなっていたんですね、どこにも。それが初めての経験でしたが、それを皮切りに何度も起こるわけです。何かにさえぎられて見えなくなった人間を、もいちど見るのがかなわない。実験もしました。指を鳴らさなければ消えないんです。鳴らせば消えるんです。

端的にお話ししましょう、私は怖い。この指一つにこんな力が宿ってしまったことが怖い。またどこかで、なにかの拍子にクセで鳴らしてしまったら、今日もどこかで、私のせいで人が消えるんです。とても怖いです。そして信じてもらえないのも怖い。あまりに荒唐無稽だ、めちゃくちゃだ、と。わかるんです、でも現に起きてることなんです、本当なんです。

でも、今一番私が怖いと感じていること、これだけは皆さんに伝えておかないといけないんです、私の力をしんじてもらえなくてもいい、でもこれだけは今すぐだれかにつたえておかなくてはならないんですもしこのちからが他の







私が初めて指パッチンを鳴らせた次の日、忽然と消えた友人の部屋のつけっぱなしのパソコンに書かれていたものです。

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