スノーマンのマスコット

星山藍華

読み切り

 とても寒くて、まるで夢のような町。窓際に飾られた星の飾りが夜を照らしています。メシュヴィツ家の長男ヘルゲは妹のエドラと一緒に、計画をたてています。

「エドラ、もうすぐクリスマスだな! 今年はパパとママに何かプレゼントをあげたいと思うんだ」

「とてもすてきだわ! でも、どこで買うの?」

「となり町に、この町よりも大きなマーケットがあるって友達に聞いたんだ。僕はそこに行きたいと思う」

 エドラは困っています。となり町までの道のりは、子どもの足ではとても行ける所ではありません。それに森を抜けなければなりません。

「でもお兄ちゃん、となり町はとても遠いわ。どうやっていくの?」

「それは……」

 ヘルゲはそこまで考えていなかったようです。そこに二人がいる部屋にドアをノックする音が聞こえました。

「ヘルゲ、エドラ、いますか?」

 お母さんのリーズベットが呼んでいます。

「はい、います」

 それにヘルゲが返事をします。厚手の羽織物を身につけています。リーズベットは最近、病気にかかってしまい、あまり外に出られません。

「明日、となり町のマーケットまで、お使いに行ってくれるかしら? お料理の材料が足りなくなっちゃって、私はこんな状態だし……」

「分かりました!」

 ヘルゲはとなり町まで行けることに大喜び。エドラもとてもわくわくしています。

「ありがとう。そしたら明日、メモを渡すわ。今日はもう遅いから、お休みなさい」

「はい! お休みなさい!」

「お休みなさい!」

 リーズベットが部屋を出ると、ヘルゲとエドラはすぐベッドに入りました。

「楽しみだね、エドラ」

「はい! となり町に行けるなんて、神様が許してくれたみたい!」

 二人は興奮して、ようやく寝たのは真夜中を過ぎてからでした。




 朝になると、二人は出かける支度をしてリーズベットの下に行きました。

「ママ! いつでも出られるよ! ほらエドラ早く!」

「待ってーお兄ちゃん」

 ヘルゲはエドラを急かして、今にも飛び出していきそうな様子です。

「じゃあこれ、買ってきてね」

 リーズベットは紙切れとお金とスノーマンのマスコット二人分を、ヘルゲに渡しました。

「これは?」

 スノーマンを見て首をかしげます。

「お守り。二人がケガをしないように。無事に帰ってきてくれますように。あの馬車に乗っていきなさい」

 リーズベットは窓から見える馬車を指さしました。

「ありがとうママ! じゃあ行ってきます!」

「行ってきまーす!」

 全部かばんに入れて外へ繰り出します。外は冷たい空気と暖かい日差しがあって、なんだか不思議な気分になります。すぐ近くには荷物を運ぶ馬車が停まっています。もうすぐ出発するようです。

「おじさん! となり町まで行くの?」

 ヘルゲは走っておじさんを引き止めます。

「おう、メシュヴィツさんとこの坊主と嬢ちゃんじゃないか。となり町に行きたいのか?」

「うん、お使いに行くの」

「そうかそうか、偉いな。乗ってきな!」

 二人はお礼を言って荷台に乗せてもらいました。となり町まで揺られて行く途中、森には小さなスノーマンがズラリと並んでいます。

「見てエドラ、あんなにたくさんのスノーマンが道案内してるみたいだ!」

「ほんとだー! まるでおとぎ話みたいですてき!」

 道に並んだスノーマンを見て、ヘルゲはさっきもらったマスコットをエドラに渡します。

「ママがお守りを作ってくれたんだ。これはエドラの分」

「かわいい! ありがとう、お兄ちゃん!」

 それをかばんにしまいます。

「おーい二人とも、着いたぞー」

 荷台から飛び降りると、出店はズラリと並んで、甘い匂いが漂っています。広場の中心には家よりも大きなモミの木があり、いろんなオーナメントが飾られています。

「おじさん、ありがとう!」

「ありがとう!」

 二人はもう我慢ができません。マーケットに向かって走ります。ジンジャークッキーやホットワイン、クリスマス飾りやいろんな形のキャンドル、その他にもクリスマスに関係したものがいっぱい売られています。

「お兄ちゃん、何を買っていけばいいの?」

「えーっと……」

 リーズベットからもらったメモを取り出しました。チョコレート、アーモンド、シナモン、パウダーシュガー、とありました。何を作ろうとしているのか、検討もつきません。

 二人はいろんなお店を回りながら、それらを買ってかばんにしまいます。時にはジンジャークッキーをもらったり、オーナメントをもらったりして、ますます楽しくなってきました。モミの木の下に出ると、何やら楽しそうな音楽が聞こえてきます。大人たちがいろんな楽器で音を出して、クリスマスを祝います。

「お、君たち、見ない顔だね、どこから来たんだい?」

 コントラバスを持った男の人が二人に近づきます。

「と、となり町からお使いに来ました」

 ヘルゲはいきなり声をかけられて少し戸惑います。エドラは人見知りで、ヘルゲの後ろに隠れました。

「そんなに怖がらなくて大丈夫。君たち、歌は好きかい?」

「大好き、です」

 ヘルゲがそう答えると、後ろのエドラも二回ほど小さく頷きました。

「じゃあ、『アチャ パチャ ノチャ』は歌えるかい?」

 男の人はポロポロ弾き始めると、クラリネット、次にアコーディオン、次はフルート、楽器を持った人たちは次々に演奏を始めます。二人は楽しくなって『アチャ パチャ ノチャ』を一緒に歌います。


 アチャパチャノーチャ

 アチャパチャノーチャ

 エーベサデベサ  ドラマサデ


 セタベラゲーチャ  パァチャ

 セタベラゲーチャ  パァチャ


 アチャパチャノーチャ

 アチャパチャノーチャ

 エーベサデベサ  ドラマサデ


 すると周りの人は腕を組んで踊りだします。夜の町はお祭り騒ぎで賑やかです!

「大変!」

 エドラが声をあげます。

「お兄ちゃん、もうこんな時間だよ!」

 エドラは時計を指さして言いました。もう夜の八時。ヘルゲは急いで馬車を探しますが、町の入り口は誰もいません。

「歩こう、エドラ。歩いて帰ろう」

「お兄ちゃん……」

 ヘルゲはしっかりエドラの手を握って、通ってきた道を歩きます。歩いても歩いても、森の景色は変わらず、スノーマンがひたすら流れていきます。エドラはたまに目を擦ります。

「エドラ、眠いのか?」

「うーん……」

 顔は明らかに眠そうにしていました。どのくらい歩いたか分かりません。ですがヘルゲは、このまま歩いてもたどり着かないような予感もしていました。

「エドラ、あそこの木の洞で休もう」

 二人は休憩をとることにしました。風はどんどん強くなり、やがて吹雪になりました。結局二人はそのまま寝てしまいました。




 朝になると、二人のところにざわざわと人が集まっていました。ヘルゲは上を見ると、木の枝や葉っぱがありません。確かに木の洞にいたはずです。なんと木は大きなスノーマンに変身していました。中はとても温かいです。

「ヘルゲ! エドラ!」

 その声は父のフレードリクでした。

「お父さん!」

「お父さん!」

 外へ飛び出ると、ヘルゲとエドラは安心したのか、フレードリクに飛びついて大泣きしました。傍にはリーズベットもいました。

「心配したぞ。お前たち。どうして帰れなくなった?」

 泣きながらヘルゲが答えます。

「ごめんなさい、となり町の人と一緒に、歌ったり、踊ったり、時間を忘れちゃいました」

 エドラはずっと、ごめんなさい、を言い続けています。フレードリクは二人を抱きしめながら、こう言いました。

「クリスマスはとても楽しいものだ。だけど時間を忘れちゃいけない。時には本当に帰れなくなってしまうかもしれないんだぞ。いいね?」

「ぐず……。はい」

 ヘルゲは泣き止んで返事をしましたが、エドラは安心して寝てしまいました。

「あなた、今日はここでクリスマスを楽しみましょう。この大きなスノーマンの中で」

「ああ。そうだな。でも一体誰が作ったんだ?」

 ヘルゲはふと気がつき、かばんの中を見ました。そこに入っていたはずのマスコットがありませんでした。ついでにエドラのかばんものぞくと、やっぱりありませんでした。きっとあのマスコットのおかげだろうと、ヘルゲはそう思いました。

 メシュヴィツ家のクリスマスは、忘れられない思い出になりました。

「お父さん、お母さん」

 ヘルゲは手を後ろに回して、何かを持っています。

「なーに、ヘルゲ」

「えへへ、これ、僕とエドラからのクリスマスプレゼント」

 照れくさそうにして、持ってるものを見せます。それは少し大きめの写真立てです。

「おお。写真立てだな。よし、早速一枚撮ろうじゃないか」

「今撮るんですか? あなた」

「いいじゃないか。膳は急げだよ」

「まあ」

 こうして、笑顔の絶えないクリスマスを迎え、メシュヴィツ家はより絆が深まりました。

 そうそう、ヘルゲとエドラへのクリスマスプレゼントは、何だったと思いますか? ポイントは、時間を忘れてはいけない、ですよ? もう、分かりますよね?

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