第83話 プレゼント交換

 クリスマスイブ当日。

 俺と陽佑はツリーを飾り付けたり、ウォールステッカーを貼って室内を飾り付ける。

 その間に沖田さんと香月さんはキッチンでフライドチキンやミートローフ、パスタなどを作ってくれていた。


 100円ショップで飾っただけの部屋でも色鮮やかな料理が並ぶとそれなりにクリスマス感が出る。


「おー、いいじゃん! いいじゃん!」


 沖田さんはスマホで写真や動画を撮っている。


「俺も写してくれよ」


 トナカイのカチューシャを着けた陽佑が沖田さんのカメラにフレームインしていく。


「ちょっと、陽佑。可愛いもの撮ってるんだから不気味なものは入らないで」

「は? 可愛いし! トナカイだぞ? ほら、トナカイらしく赤鼻まで用意したんだから」

「トナカイの鼻は赤くないそうですよ。白か黒が多いそうです」

「え? そうなの!?」


 香月さんの冷静な指摘に陽佑は驚いて目を剥く。


「料理も揃ったし、シャンメリー開けるよ」

「あ、俺もやる!」


 クリスマスといえばやはりこれだ。

 ぶっちゃけコーラとかサイダーの方が美味しいけど、雰囲気が出るのはシャンメリーだろう。


「ちょっ! 陽佑、私に向けないでよ!」

「そんなことするわけないだろ」


 ちゃんとタオルを被せて栓をしっかり握って回しながら開ける。

 それなのに香月さんはぎゅっと目を閉じ、耳に指を入れて縮こまっていた。

 まるで爆弾が爆発する寸前みたいな格好だ。


「香月さん、怯えすぎでしょ。ていうか耳なんて塞がなくても爆音とか鳴らないから」

「そうですけど……なんか怖くて」


 怖がりなのがいかにも香月さんらしくて可愛い。


「いくよー!」


 ポンッ!

 ポンッ!


「ひうっ!」


 栓の抜ける軽やかな音と香月さんの小さな悲鳴でクリスマスパーティーがスタートした。


「おお、このライスコロッケうまいな!」

「へへー。それ、私が作ったんだよ」


 沖田さんが得意気に笑う。


「マジで!? 沖田、料理上手くなったな!」

「まぁね。って香月さんからコツを色々教わったんだけどね」


 俺も食べてみたが、確かに美味しかった。

 チーズリゾットのようなトロトロさで、表面はカリッと揚がっている。

 かけられたトマトソースも酸っぱすぎず、ちょうどいい。


 食事が終わってからプレゼントの交換を行った。

 指輪を見た香月さんは大喜びだった。


「つけてあげる」

「うん」


 細い指にリングをはめると、ぴったりのサイズだった。


「きれい……」


 自らの指を部屋のライトに翳し、香月さんは目を細めて見詰めていた。


「ありがとう。大切にするね」

「どういたしまして」

「いいなー、香月さん」


 沖田さんが羨ましそうに呟く。


「沖田には俺があげるだろ」

「どうせ陽佑のプレゼントは陸上に使えるシューズとかでしょ?」

「バカ。ナメんな」


 そう言って陽佑は指輪を見せる。


「えっ……指輪?」

「はめてやるよ」

「どうして……? 指のサイズとか知らないでしょ?」

「沖田が寝ている隙に測ったんだよ。ビックリしただろ?」


 陽佑が『してやったり』的な顔をすると、突然沖田さんの目から涙がこぼれ落ちた。


「え? な、なんで泣くんだよ!?」

「泣いてないし!」

「泣いてるだろ!」

「うっさい! 早くつけてよ!」


 沖田さんは手を付き出して陽佑を急かす。

 予想外のプレゼントで嬉しかったのだろう。

 指輪をはめてもらった沖田さんは誇らしげな表情でその手を眺めていた。


「ありがとう、陽佑」

「お、おう。よく似合ってるぞ」

「ほんと?」


 いつもふざけてばかりの陽佑だからきっと沖田さんの前でも同じなんだろう。

 それで沖田さんも不安だったのかもしれない。

 でもこれだけ喜ぶ沖田さんを見れば、この二人は大丈夫だろう。


 百人いれば百人とも違う。

 その違う人がまた違う人と付き合うのだから、恋人同士の事情はもっと複雑だ。

 人と人の巡り合わせというのは実に不思議なものだとつくづく感じた。


 香月さんからはラルフローレンのベルトをもらった。

 スポーティーだけど品のいい、香月さんらしいセンスのあるものだ。

 そして陽佑は──


「なんで俺のクリスマスプレゼントが弁当箱なんだよ!」

「ごめん。だって陽佑、絶対ウケ狙いみたいなふざけたものだと思ったんだもん!」

「は? そんなことするかよ!」

「だからごめんって! 今度ちゃんと買い直すから!」

「クリスマスプレゼントはクリスマスに渡すから意味あるんだろ!」


 相変わらずのやり取りだ。

 やはりこの二人はこんな掛け合いの方がしっくりくる。


 プレゼントを交換したあとはゲームをした。

 相変わらず不馴れな香月さんは敗けが続いてちょっと不機嫌になる。


 そして時刻が夜九時近くになり、俺たちは家を出た。

 今日はこれからもうひとつ、イベントがあるからだ。



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マッサージをするとなぜか顔を真っ赤にさせて身悶える美少女に、ものすごく懐かれてます 鹿ノ倉いるか @kanokura

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