勝手にボイス台本

アキラシンヤ

神様と初日の出

起きろ。起きろって。まったく、いつまで寝ているつもりだ?

まだ暗いって? 当たり前だろう。

一緒に海で初日の出を拝もうって、昨日約束したじゃないか。

新しい年の始まりだぞ。ほら、さっさと顔を洗ってこい。

我は先に出ているぞ。ぐずぐずしてたら置いてっちゃうからな?


おはよう。今日は随分と早く支度できたじゃないか。

本当に置いていかれると思ったって? ふふ、かわいいやつだ。

そんな訳ないだろう。さ、行くぞ。


…今朝はなかなかに冷えるな。【吐息】(はーっ) ほら、息が真っ白だ。

しかし、このきりっとした寒さが心地いいな。夜明け前の澄んだ空気が心を清めてくれる気がする。

どうした、震えているのか? まったく情けないなお前は。

ほら、マフラーを巻いてやろう。ふふん。こんな事もあろうかと一番長いマフラーにしておいたんだ。

照れるな照れるな。くっついている方があったかいだろう? ふふふ。


実はな、もうお雑煮の準備も済ませてあるんだ。我ながら今年のは自信作なんだ。帰ったら一緒に食べよう。

食べたら初詣に行こうな。有名なところでなくていい、近くでいい。混みだす前に済ませておきたいからな。

…神も初詣に行くのかって? 当たり前だろう。何を言ってるんだお前は。

旧年に感謝しよき新年を神に願うのが初詣なんだ。自分に願っても仕方ないだろう?

つまり、我の初詣についてこいということだ。

だって、お前の初詣は我なのだからな。ふふふ。お前の大事な初めてを貰ってしまうな。


おいおい、道すがらに願うやつがあるか。やめろやめろ。

形式にはこだわらんが、真面目に願わんのなら聞いてやらんぞ?

大切なのは心なんだ。何事もな。心を込めて願えば、きっと届く。そういうものだ。

二人で迎える初めての新年だ。いい年に、なるといいな。


見ろ、海だぞ。いつの間にか明るくなっていたが…日の出にはまだ余裕があるな。

【深呼吸】やはり潮の香りはいいな。潮騒も安らかだし、空も広い。

海に来るとな、生かされているのを感じるんだ。

小さな自分、すべての命が、優しく強く生かされているのを感じられて、とても嬉しい。

我がまだ人間だった頃はこんなふうに思えなかったな。

神になったからという訳でもないだろうが…なぜだろうな。

長く神を続けていたら、いつか分かるのかな。


よし、せっかくだから波打ち際まで歩こう。ほら。…ほら。

どんくさいな、手を繋ぐんだよ。砂に足が取られたら危ないだろう? はい、これで大丈夫。

…お前の手、こんなに大きかったか。それに、とってもあったかい。

我の手、冷たくないか? …そうか。ならよかった。

ふふふ。手を繋ぐのっていいな。一緒に生きてるって感じがする。

照れるな照れるな。まったく、かわいいやつだな。

我はお前のそういうところが、大好きだぞ。


だめだな。今のは我まで照れてしまった。ふふふ。


ああ、日だ。日が昇ったぞ。きれいな日の出だ。初日の出だぞ。

きらきらと輝いて…美しいな。日の出とはこんなにも美しかったか…。

ああ、手を合わせるのは待ってくれ。

まだ手を離さないでくれ。



明けましておめでとう。

今年もいい年になりますように。

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