#34 Secret Archive :七星エリカの直談判
「で、話ってなんだよ、絵美莉ちゃん」
マジキャスの社長室で、わたし――神崎絵美莉は、奥平社長と向き合っていた。
マジキャスは、生まれて間もないベンチャー企業だ。
社長室といっても、デスクの前に家具のチェーン店で売ってるようなごくふつうのソファが置いてあるだけ。
ここは社長室兼応接室で、来客の際は社長は自室から追い出される運命にある。
わたしは、ソファの向かいの社長に言った。
「お願いがあるんです」
「ほう。珍しいな。それも、わざわざこっちまで来てとはな」
わたしは授業中にそのアイデアを思いつくと、いてもたってもいられなくなって、放課後すぐに電車に飛び乗り、事務所まで来てしまった。
アポすら取らずに訪ねてきたわたしを、社長は何も言わず社長室に通してくれた。
「まず、ごめんなさい」
「なんだよ、おまえが謝罪なんて。薄気味悪ぃな。キャラが壊れるからやめろ。っていうかなんの話だよ。思い当たることが多すぎてわからんわ」
「七星ルリナを勝手に出しちゃったことです」
「ああ、あれか……あれに関しちゃ、ルリナ本人から謝罪の電話をもらってるぜ」
「えっ、あいつが? でも、連絡先は?」
「まえ喫茶店で会ったときに、あいつに名刺を渡したからな」
「ああ、そうか。あいつ、わたしにはなにも言わないでそんなことを……」
「あいつは、自分のせいで七星エリカと事務所に溝ができるんじゃないかと気にしてたな。んなもん、うちみたいな小さな所帯じゃ心配いらねえって笑っておいた」
「……はぁ。敵わないな。わたし、最近になってようやく、あれはマズかったかな、って思いはじめたんですけど」
「最近なのかよ!? ははっ、いや、いいけどな。そのほうがおまえらしいや」
社長が苦笑いしてお茶を飲む。
「んじゃ、今日の『お願い』とやらも、あいつがらみってことか。お熱いねえ。裏で付き合うのは自由だが、配信でバレるようなことだけはしないでくれよ?」
「そ、そんなんじゃないです!」
わたしは力いっぱい首を振る。
「って、そう言うってことは、わたしのお願いにも察しがついてるってことですか?」
「おおまかには、な。だが、どのレベルの頼みなのかは見ものだと思ってる」
「悪趣味ですね」
「高尚な趣味の持ち主が、Vtuber事務所なんて立ち上げると思うか?」
けけけ、と笑って社長が言う。
そりゃそうね。
わたしは、覚悟を決めて、頭を下げた。
「七星ルリナを四期生に入れてください」
「……そうきたか」
「わたしが勝手にデビューさせたのはマズかったと思ってます。このままだとあいつの立場は宙ぶらりんです」
「そうだな。そいつはどうしようかと思ってた。
……って、頭は上げてくれ。俺はそういう空気は苦手なんだ」
「いえ、いいと言ってもらえるまで――」
「頭を上げません! なんてのもやめてくれよ? 気色悪ぃだろうが」
かぶせるように言われてしまう。
そこまで言われてはしょうがないので、顔を上げる。
「俺としても、いくつか腹案はあったんだが、エリカとルリナの覚悟のほどがわからんかったからな」
「ちなみに、どんな案だったんですか?」
「いちばんマイルドなのは、このままエリカの司会役としてだけ関わってもらう。逆に過激なのは、エリカが立て直せた時点ですぱっとやめてもらう」
「そ、それは……!」
「わかってるって。功労者を罰するような真似はしたくねえ。
しっかし、四期生として受け入れろときたか。そいつは考えてなかったな」
「だ、ダメでしょうか……?」
「んー、ダメではねえぞ。あいつ、会ったときはふわっとしてて自信なさげに見えたけど、いい声持ってるし、声マネもうまいし、エリカとの掛け合いは息が合ってた。熱心なリスナーだったおかげか、ライバーとしての心構えもできてる。やっちゃいけないラインなんかもよくわかってんな」
「な、なら……」
「待てって。それでも、他の四期の志願者たちは、自分の足で一歩を踏み出して、うちの門を叩いたんだ。でも、あいつはそうじゃねえ」
「それは……そうですけど……」
「あいつにその覚悟があるのか? いや、おまえ一人で頼みにきたんだ。これはおまえの独断だろ。ちがうか?」
「……そうです」
「筋としちゃあ、おまえがあいつ自身の意思を確かめて、あいつ自身がここに来るべきだってことになる」
ぐうの音も出なかった。
社長の言うことは正論だ。
社長の言い分への反論を必死に考えるが、半分白くなった頭では思いつかない。
「……ま、もう一度あいつとよく話し合ってだな……」
「……係ない」
「あん?」
「そんなの、関係ないです!」
「関係ないって、おまえ」
「あいつの意思なんて関係ないわ! わたしは、あいつもライバーになるべきだと思った! 七星エリカが必要だと思って抜擢した逸材なんだもの! 資格がないなんて言わせないわ!」
ソファから立ち上がって言ったわたしに、社長が言葉を失った。
「だ、だがな、本人の了承がないんじゃ、会社としては……」
「体裁を気にするほど立派な会社でもないじゃない!」
「なっ、おいっ! てめえなぁ! 事実でも言っていいことと悪いことがあるだろうが!」
社長ががたっと立ち上がって言ってくる。
わたしは、それを無視して言い募る。
「まえ、社長は言ったわね! わたしをオーディションで採ったのは、前に出る力を買ったからだって!」
「ああ、その通りだ。その点じゃ、七星ルリナは落第なんだよ。声もいいし芸もある。掛け合いもまあまあこなせる。なにより、じゃじゃ馬暴言王を馴らしちまった実績もある。ライバーとしての素質はあると思うが……」
「じゃあ、『前に出る力』以外は合格だってことじゃない!」
「そ、それはそうなんだが」
「それから、社長はわたしの『前に出る力』とやらを見込んでくれたわけだけど、正直言って思いちがいもいいところだったわ! Vtuberは人気商売なのよ!? 『前に出る力』だけあったって、受け入れてもらえなかったら一歩も前に進めないわ! わたしの経験から言わせてもらうけど、やみくもに前に出ても叩かれるばかりで、人気なんて出ようがないのよ!」
「お、おまえがそれを言うか!?」
「わたしだから言うんじゃない! 結局、わたしひとりじゃどうにもならなくなった! あいつがいなかったら、今頃わたしのチャンネル登録者数は確実に一万を割り込んでたでしょうね!」
実際は一万でもすごいんだとあいつは言っていた。
でも、人気Vtuber事務所マジキャス所属の公式ライバーってだけで、デビュー当初から数万の登録者がつく。
その中じゃ、のっけから右肩下りを続け、最近ようやく二万まで回復したばかりの七星エリカは落ちこぼれなのだ。
「あいつには、たしかに『前に出る力』はないわ! でも、ためらってためらってためらってるうちに、あいつはいろんなことを観察し、学習し、練習して、わたしにはない芸を身に付けてる! あいつがうじうじ悩んで一歩を踏み出せないでいた時間は、無駄な時間なんかじゃなかったのよ!」
「そ、そりゃそうかもしれないがな……せっかく溜め込んだもんだって、外に出さねえことには評価のされようがねえんだ。酷なようだが、そこはシビアに見るのが俺の方針で……」
「しかたないじゃない! あいつには『前に出る力』なんてない! ないものはないのよ! でも、その代わりに優れた部分がある! あいつに『前に出る力』が足りなんだったら、わたしの有り余ってる分を分けてあげるわ!」
言い切った。
いまさら引けなくなって、やりすぎた感は否めないけど。
後悔してもいまさらだ。ついでとばかりに、社長を思いっきり睨みつける。
社長はしばし、ぽかんとしてた。
口が半開きになって、頬の筋肉が緩んだ間の抜けた顔。いつもの強面も台無しだ。
そのまま、たっぷり十数秒は経ったと思う。
「ふっ……ははっ。がっはははっ!」
社長が、腹を抱えて笑いだした。
「ぎゃはははっ! そうか、そうだよな。ねえもんはねえや。で、そいつが七星エリカに有り余ってるんなら、妹に分けてやればいいわな」
「背中を蹴っ飛ばされるのが必要なやつだって世の中にはいるのよ」
ふん、と鼻息をついて、わたしは社長から顔をそらす。
あらためて言われてみると、まるでわたしが、責任を持ってあいつの面倒を見ると言ったようなものだ。
(それって、まるで……)
自分の顔が火照るのがわかった。
「……わかったよ。そんじゃ、おまえの熱い推薦と、本人の実力、七星エリカの立て直しに貢献してくれた実績を加味して、四期生にねじこもう」
「えっ……い、いいんですか、そんなことして」
「おまえが言い出したんだろうが。うちはよくも悪くもベンチャーだからな。『体裁を気にするようなご立派な会社』じゃねえ。俺がちいっとがんばって他の連中を説得すれば……ま、なんとかなるさ」
「それ、けっこう大変ってことなんじゃ……」
「正直、反対意見も出るだろうな。胃が痛いぜ」
社長がソファから立ち上がる。
「だがな、こうも思うんだよ。七星ルリナは、既に、事務所が認めるとか認めないとかいう段階じゃねえ。七星ルリナは、もう視聴者の中で生きてんだ。いまさら、あれはエリカが勝手にやったことだから知りません、なんてクソダセェ言い訳が通じるか。そいつは、ヴァーチャルアイドルを擁する事務所として、やっちゃいけねえことだわな」
「じ、じゃあ……!」
「坊主に言っとけ。うちのライバーに頭下げさせた以上は覚悟を決めろってな」
社長はそのまま部屋を出て行こうとする。
「じゃ、俺はさっそく調整してくる。もうこんな時間だ。高校生はとっとと家に帰れ」
「は、はい! ありがとうございます!」
社長は肩越しにひらひらと手を振って、扉の奥へと消えていった。
「で、話ってなんだよ、絵美莉ちゃん」
マジキャスの社長室で、わたし――神崎絵美莉は、奥平社長と向き合っていた。
マジキャスは、生まれて間もないベンチャー企業だ。
社長室といっても、デスクの前に家具のチェーン店で売ってるようなごくふつうのソファが置いてあるだけ。
ここは社長室兼応接室で、来客の際は社長は自室から追い出される運命にある。
わたしは、ソファの向かいの社長に言った。
「お願いがあるんです」
「ほう。珍しいな。それも、わざわざこっちまで来てとはな」
わたしは授業中にそのアイデアを思いつくと、いてもたってもいられなくなって、放課後すぐに電車に飛び乗り、事務所まで来てしまった。
アポすら取らずに訪ねてきたわたしを、社長は何も言わず社長室に通してくれた。
「まず、ごめんなさい」
「なんだよ、おまえが謝罪なんて。薄気味悪ぃな。キャラが壊れるからやめろ。っていうかなんの話だよ。思い当たることが多すぎてわからんわ」
「七星ルリナを勝手に出しちゃったことです」
「ああ、あれか……あれに関しちゃ、ルリナ本人から謝罪の電話をもらってるぜ」
「えっ、あいつが? でも、連絡先は?」
「まえ喫茶店で会ったときに、あいつに名刺を渡したからな」
「ああ、そうか。あいつ、わたしにはなにも言わないでそんなことを……」
「あいつは、自分のせいで七星エリカと事務所に溝ができるんじゃないかと気にしてたな。んなもん、うちみたいな小さな所帯じゃ心配いらねえって笑っておいた」
「……はぁ。敵わないな。わたし、最近になってようやく、あれはマズかったかな、って思いはじめたんですけど」
「最近なのかよ!? ははっ、いや、いいけどな。そのほうがおまえらしいや」
社長が苦笑いしてお茶を飲む。
「んじゃ、今日の『お願い』とやらも、あいつがらみってことか。お熱いねえ。裏で付き合うのは自由だが、配信でバレるようなことだけはしないでくれよ?」
「そ、そんなんじゃないです!」
わたしは力いっぱい首を振る。
「って、そう言うってことは、わたしのお願いにも察しがついてるってことですか?」
「おおまかには、な。だが、どのレベルの頼みなのかは見ものだと思ってる」
「悪趣味ですね」
「高尚な趣味の持ち主が、Vtuber事務所なんて立ち上げると思うか?」
けけけ、と笑って社長が言う。
そりゃそうね。
わたしは、覚悟を決めて、頭を下げた。
「七星ルリナを四期生に入れてください」
「……そうきたか」
「わたしが勝手にデビューさせたのはマズかったと思ってます。このままだとあいつの立場は宙ぶらりんです」
「そうだな。そいつはどうしようかと思ってた。
……って、頭は上げてくれ。俺はそういう空気は苦手なんだ」
「いえ、いいと言ってもらえるまで――」
「頭を上げません! なんてのもやめてくれよ? 気色悪ぃだろうが」
かぶせるように言われてしまう。
そこまで言われてはしょうがないので、顔を上げる。
「俺としても、いくつか腹案はあったんだが、エリカとルリナの覚悟のほどがわからんかったからな」
「ちなみに、どんな案だったんですか?」
「いちばんマイルドなのは、このままエリカの司会役としてだけ関わってもらう。逆に過激なのは、エリカが立て直せた時点ですぱっとやめてもらう」
「そ、それは……!」
「わかってるって。功労者を罰するような真似はしたくねえ。
しっかし、四期生として受け入れろときたか。そいつは考えてなかったな」
「だ、ダメでしょうか……?」
「んー、ダメではねえぞ。あいつ、会ったときはふわっとしてて自信なさげに見えたけど、いい声持ってるし、声マネもうまいし、エリカとの掛け合いは息が合ってた。熱心なリスナーだったおかげか、ライバーとしての心構えもできてる。やっちゃいけないラインなんかもよくわかってんな」
「な、なら……」
「待てって。それでも、他の四期の志願者たちは、自分の足で一歩を踏み出して、うちの門を叩いたんだ。でも、あいつはそうじゃねえ」
「それは……そうですけど……」
「あいつにその覚悟があるのか? いや、おまえ一人で頼みにきたんだ。これはおまえの独断だろ。ちがうか?」
「……そうです」
「筋としちゃあ、おまえがあいつ自身の意思を確かめて、あいつ自身がここに来るべきだってことになる」
ぐうの音も出なかった。
社長の言うことは正論だ。
社長の言い分への反論を必死に考えるが、半分白くなった頭では思いつかない。
「……ま、もう一度あいつとよく話し合ってだな……」
「……係ない」
「あん?」
「そんなの、関係ないです!」
「関係ないって、おまえ」
「あいつの意思なんて関係ないわ! わたしは、あいつもライバーになるべきだと思った! 七星エリカが必要だと思って抜擢した逸材なんだもの! 資格がないなんて言わせないわ!」
ソファから立ち上がって言ったわたしに、社長が言葉を失った。
「だ、だがな、本人の了承がないんじゃ、会社としては……」
「体裁を気にするほど立派な会社でもないじゃない!」
「なっ、おいっ! てめえなぁ! 事実でも言っていいことと悪いことがあるだろうが!」
社長ががたっと立ち上がって言ってくる。
わたしは、それを無視して言い募る。
「まえ、社長は言ったわね! わたしをオーディションで採ったのは、前に出る力を買ったからだって!」
「ああ、その通りだ。その点じゃ、七星ルリナは落第なんだよ。声もいいし芸もある。掛け合いもまあまあこなせる。なにより、じゃじゃ馬暴言王を馴らしちまった実績もある。ライバーとしての素質はあると思うが……」
「じゃあ、『前に出る力』以外は合格だってことじゃない!」
「そ、それはそうなんだが」
「それから、社長はわたしの『前に出る力』とやらを見込んでくれたわけだけど、正直言って思いちがいもいいところだったわ! Vtuberは人気商売なのよ!? 『前に出る力』だけあったって、受け入れてもらえなかったら一歩も前に進めないわ! わたしの経験から言わせてもらうけど、やみくもに前に出ても叩かれるばかりで、人気なんて出ようがないのよ!」
「お、おまえがそれを言うか!?」
「わたしだから言うんじゃない! 結局、わたしひとりじゃどうにもならなくなった! あいつがいなかったら、今頃わたしのチャンネル登録者数は確実に一万を割り込んでたでしょうね!」
実際は一万でもすごいんだとあいつは言っていた。
でも、人気Vtuber事務所マジキャス所属の公式ライバーってだけで、デビュー当初から数万の登録者がつく。
その中じゃ、のっけから右肩下りを続け、最近ようやく二万まで回復したばかりの七星エリカは落ちこぼれなのだ。
「あいつには、たしかに『前に出る力』はないわ! でも、ためらってためらってためらってるうちに、あいつはいろんなことを観察し、学習し、練習して、わたしにはない芸を身に付けてる! あいつがうじうじ悩んで一歩を踏み出せないでいた時間は、無駄な時間なんかじゃなかったのよ!」
「そ、そりゃそうかもしれないがな……せっかく溜め込んだもんだって、外に出さねえことには評価のされようがねえんだ。酷なようだが、そこはシビアに見るのが俺の方針で……」
「しかたないじゃない! あいつには『前に出る力』なんてない! ないものはないのよ! でも、その代わりに優れた部分がある! あいつに『前に出る力』が足りなんだったら、わたしの有り余ってる分を分けてあげるわ!」
言い切った。
いまさら引けなくなって、やりすぎた感は否めないけど。
後悔してもいまさらだ。ついでとばかりに、社長を思いっきり睨みつける。
社長はしばし、ぽかんとしてた。
口が半開きになって、頬の筋肉が緩んだ間の抜けた顔。いつもの強面も台無しだ。
そのまま、たっぷり十数秒は経ったと思う。
「ふっ……ははっ。がっはははっ!」
社長が、腹を抱えて笑いだした。
「ぎゃはははっ! そうか、そうだよな。ねえもんはねえや。で、そいつが七星エリカに有り余ってるんなら、妹に分けてやればいいわな」
「背中を蹴っ飛ばされるのが必要なやつだって世の中にはいるのよ」
ふん、と鼻息をついて、わたしは社長から顔をそらす。
あらためて言われてみると、まるでわたしが、責任を持ってあいつの面倒を見ると言ったようなものだ。
(それって、まるで……)
自分の顔が火照るのがわかった。
「……わかったよ。そんじゃ、おまえの熱い推薦と、本人の実力、七星エリカの立て直しに貢献してくれた実績を加味して、四期生にねじこもう」
「えっ……い、いいんですか、そんなことして」
「おまえが言い出したんだろうが。うちはよくも悪くもベンチャーだからな。『体裁を気にするようなご立派な会社』じゃねえ。俺がちいっとがんばって他の連中を説得すれば……ま、なんとかなるさ」
「それ、けっこう大変ってことなんじゃ……」
「正直、反対意見も出るだろうな。胃が痛いぜ」
社長がソファから立ち上がる。
「だがな、こうも思うんだよ。七星ルリナは、既に、事務所が認めるとか認めないとかいう段階じゃねえ。七星ルリナは、もう視聴者の中で生きてんだ。いまさら、あれはエリカが勝手にやったことだから知りません、なんてクソダセェ言い訳が通じるか。そいつは、ヴァーチャルアイドルを擁する事務所として、やっちゃいけねえことだわな」
「じ、じゃあ……!」
「坊主に言っとけ。うちのライバーに頭下げさせた以上は覚悟を決めろってな」
社長はそのまま部屋を出て行こうとする。
「じゃ、俺はさっそく調整してくる。もうこんな時間だ。高校生はとっとと家に帰れ」
「は、はい! ありがとうございます!」
社長は肩越しにひらひらと手を振って、扉の奥へと消えていった。
Vtuberだけどリスナーに暴言吐いてもいいですか? 天宮暁 @akira_amamiya
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