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静かにぎこちなく聞こえる息遣い。無音だった世界に音が戻る。小野はゆっくりと顔をあげて湊を気遣うように言った。
「…正直な気持ちが聞けて良かった」
小野は泣きそうになるのを堪えながら精一杯、湊に笑顔を向ける。
「また明日ね」
半歩後ろに下がって机を掻き分けながら自分の机に鞄を無造作に取り小野は足早に教室を出て行った。
小野を見送った湊は教室の廊下側の壁に視線を移すと呆れながらにこう言った。
「おい、出てこいよ」
廊下側の壁は大きな窓ガラスが4枚ほどあり開閉出来るようになっている。その窓ガラスに小野と二人で無言になっている間、人影が出来るのを湊は見逃さなかった。鞄を持って教室の出口へ向かう。
「あぁあ。良いとこ邪魔しちゃったかな。」
肩の高さで片手をヒラヒラさせて面白そうに姿を見せたのは担任の矢野だった。
「別にどうでもいい。何しに来たんだよ」
その問いに矢野は教室の鍵を湊の顔の前に差し出し教室の鍵閉めに来たんだよと言った。
その瞬間、矢野はトンっと片足を一歩軽快に踏み出し湊の耳に吐息がかかるほどの距離に顔を近づけた。
ーそれとも…-
矢野の唇がゆっくりスローモーションの如く動いた。
-何か、期待した?-
挑発するような言葉を囁いて素早く体を引き首を傾げながら再び湊をその鋭い眼球で捉えた。
二人の背格好はほぼ同じ。視線もちょうど同じ高さにある。その一連の動きはまるでドラマを観ているような錯覚を起こすくらいに美しすぎる身のこなしだった。
「ふざけるな」
湊自身、自然とその言葉に力が入るのを感じ、鞄を持つ掌に爪が食い込むほどに矢野の放った言葉にひどく苛立った。
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シンプル ショコラ @raspberrychocolat-
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