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「じゃ、今日はこれで終わりな。各自気を付けて帰るように」
1日の授業が終わり矢野の言葉で皆一斉に帰り支度を始めそそくさと帰って行く。心なしか朝より元気だ。
「湊ーじゃぁな」
「おう。明日な」
湊の友達も陽気にさよならの言葉を交わす。
帰宅する者、バイトに精を出す者、部活に励む者それぞれだ。春の放課後は日が傾くには遅いけれど授業が終わった教室というのは人をセンチメンタルな気持ちにさせる不思議な力を持っていた。
次々と教室をあとにする中でポツンと一人だけ湊と同じ空間に残った者がいた。
色白で知的な雰囲気を漂わせており腰までのロングな黒い髪が印象的だ。スレンダーですらっとしているものの女性としての柔らかさも持っていて、とても可愛らしいクラスメイトの小野小夜(おのさよ)がそこにいた。
小野は照れ臭そうに湊に近づき、ある程度の距離を保って止まる。
「何?」
その気配に気付いた湊は帰ろうとした足を止めた。
「あの…」
小野は勇気を振り絞ってもその言葉を発するだけで足が震えた。胸の前で祈るように握り締める手からも緊張が伺える。
自分を奮い立たせ、きゅっと噛み締めていた唇を思いきり開いて想いを伝えた。
「わ、私。1年生の時から湊君のことが好きで……その……付き合って下さい」
時が止まる。この空気を何度味わっただろう。息が詰まるような息苦しいこの時間を。
「……今は部活に集中したいから君とは付き合えない……ごめん」
自分の気持ちと湊の気持ちが間違いでも交わらなかったことに俯いて落ち込む小野はぴくりとも動かなくなった。
そんな小野に参ったなとばかり眉を顰める。
ただ言い訳をさせてもらうとこうだ。
湊の所属する部活動は今、存続の危機に瀕していてこれは紛れもない事実であり概ね本心である。
それからわずか数秒の間が二人にとって、とてつもなく長く感じられた。
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