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おい、遅えぞ新入り! 他の奴らはもう向かってんだ、さっさと現場に行くぞ。工具と手順書持ってこい!


 よし、乗ったな。で、なんでお前は遅刻した。はぁ? 友人達とカラオケ徹夜ぁ? 現場仕事舐めてんのか阿呆が。


 今回の現場は分かっているな。……そっちじゃねえよ、神社だ神社。三ヶ月前に不審火が出た阿木津神社だ。一昨日あった居酒屋の火災とは、ひとり犠牲者が出たぐらいの共通点しかないだろうが。


 ……あ? 居酒屋は、死人が出てない? 中から人為的に放火されたのは確実だが、遺体は発見されてないって? なんだあそりゃ。情報が錯綜してんな。

 あの居酒屋だったか、小料理屋だったか。女将ひとりで経営してた割には妙に客の入りが良かった。俺も何回か知り合いを誘って食べに行ったことがある、燃えたのは寂しいよ。けどなあ。もう行けないってなると、普通は懐かしむもんだろ? でもな、俺を含めて知り合いはみんな同じ意見なんだよ。『割高のくせに美味しくなかった、どうしてあんなに繰り返し食べにいったのか分からない』と。……まあ、焼けちまったからにはもう訪れることはないんだけれどな。女将含めて怪我人が出なかったことだけが幸いだよ。


 ……ああ、現場は次の信号を左折してすぐだ。こっちの神社は、本当に死人が出ている。ホトケさんに手を合わせてから作業に臨めよ。



 全員揃ったな? こちらの現場の依頼主は、神主――じゃなかった、神主の弟さんだったな。見ての通り、三ヶ月前に不審火があった現場だ。依頼主は神社を再建するつもりはなく、更地にしてほしいとのご希望だ。事前の割り振り通り、ほぼ全焼した本殿の解体・搬出を行う班と敷地内の木を伐採する班に分かれろ。言うまでもないが、本殿組は土台を残さないよう地下もしっかり掘っておけ。以上だ。




 よお、新入り。作業には慣れたか? そうかそうか、怪我だけはするなよ。あっちの奴らにはもう言ったが、資材搬出のトラックが渋滞に巻き込まれて到着が遅れるらしい。着くまで昼休憩は延長だ。


 ……暇だな。おい、何か暇つぶしになるような面白い話でもしてみせろよ。この現場で一番若ぇ奴がお前なんだ。

 昨日のカラオケで聞いた噂? 何でもいい、どうせ時間はあるんだ。他の奴らも暇を持て余してる。聞かせろよ、その『ヤマギシさん』の話。



 なるほどな。ローカルな都市伝説か。にしても、地味だな。万引きやひったくりに手を染めた不良どもの前に現れて説教してくる二人組の警官の幽霊だぁ? 都市伝説っつうなら、もっとこう、口裂け女や人面犬みてぇな派手さがあってこそだろ。お前らもそう思うだろ?


 ……おっと。連絡が来た、もうじきトラックが到着するらしい。休憩は終わりだ、持ち場に戻って重機動かせ!



 ――呼んだか、新入り? 焼け跡を掘ってたら何か出たぁ? 分かった分かった、見てやるからお前はあっち行ってネコ車持ってこい。

 で、これか。……おい。なんだよ、これ。これじゃあまるで、人間の、……。


『ああ、それはそのままでいいんです』


 あ、ええ? いや、失礼。つい驚いてしまいまして。で、こんなところにお巡りさんが何の用です?


『そちらに見えているそれ、そのまま埋め戻してください』

『もう大丈夫です。しばらく眠らせてやってください』


 あ、ええ……。はい、そうおっしゃるならその通りにしますが。本当にいいんですね。


『はい。お願いいたします』

『私からも、よろしくお願いします。これでよかったんですね、ヤマギシさん』



 ああ、新入りか。悪い悪い、やっぱりネコ車は使わない。これ一緒に埋め戻してくれ。

 ――何も見てねえよ。人間の手指の骨が出てきたなんて、縁起でもねえことを言うな。さっき来た警官二人も、そのまま埋め戻せって言うんだよ。


 は? 俺のそばには誰も来てない? ふざけるなよ。俺はちゃんと見た。会話もしたんだ。そこに確かに二人立ってたんだよ、確かに、確かに――。

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ヤマギシさん 百舌鳥 @Usurai0000

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