ダンジョンレスキュー!

山岡咲美

ダンジョンレスキュー!

 この物語はあるパーティーの終末をプロローグとして始まる……



◇◆◇◆



「ユミちゃん撤退するよ!」


「ツルギくん何って言ったの?!」


「コイツ等デカイ、ヤバイ、腰くらいある、ユミちゃん下がって! 撤退するよ!!」


「解ったツルギくん、でも最後に一本射ってから!」


「オノちゃんは僕と前を切り開く、僕のつるぎとそのデカイ戦斧せんぷで正面のオオハダカデバネズミをねじ伏せるよ! 群で囲まれる前に活路を作るんだ!!」


「解ったぜツルギ、食らえセクハラネズミーーーー!!」


「タテヤ君、タテヤ君はシンガリに着いてユミちゃんを守って!」


「ふざけるなチャラ剣士野郎、このままじゃ囲まれる、俺は逃げるぜ!」


「タテヤさん待って、まだ牽制が!」


「どけメンヘラ弓使い!!」


「待って! 待ってよタテヤさん! ワタシ今転んじゃって、つるが!!」


「おい! おっさん、ユミはどうした!!」


「アイツはもうおしまいだ弦が切れちまいやがったんだ! お前も邪魔だゴリマッチョ女!!」


「ふざけんなおっさん! ユミの所へ戻れ! 弓使いを護るのが盾持ち傭兵の役割だろ、何の為の盾とプレートアーマーだ! 料金分の仕事をしろ!!」


「オノちゃんもうダメだ! 僕等も逃げるよ!!」


「ふざけんなツルギ、ユミはどうするんだ、支援無しじゃアイツ!」


「……ごめん、ユミちゃん」


「ツルギてめえ!」


 その日私たちのパーティーは解散した、真っ先に3人を置いて逃げたタテヤさんだけでなく、リーダーのツルギくんも仲間を見捨てたとしてオノさんや他の冒険者達の信頼を失い、オノさんは私を置いて逃げた自責から冒険者を止めたらしい、イヤ……ダンジョンに置き去りにされた私の悲痛な叫びが、その恐怖が頭から離れなくなったんだと思う。



「待って! 待って! 待ってよ!! 置いてかないで! 弦が! 弦が切れたの! 切れちゃったの!! 張り直さなきゃ誰か支援を! ツルギくんオノさん待って! 私弦が切れちゃったんだから!! 待って! 待ってよ! 助けて! 助けて! 助けて! 助けて! 助けてよ!! ツルギくーーーーん! オノさーーーーん! 戻って! 戻って! 戻って来て!! 戻って来て助けてよーーーーーー!! 助けてーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 弓を失い孤立無援のダンジョンでオオハダカデネズミから逃げ回り叫び、声を枯らし疲れ果てた私は涙と鼻水混じりの顔で意味の無い言葉を呟いていた。


「ツルギくん、オノさん……タ、タテヤさん、お願いします……もどっ、戻って、戻って来て下さい…………………………」



◇◆◇◆



 崩れ行く遺跡世界の中で人々はダンジョン探索を糧として生きていた。


「ヤクそろそろ戻ろう、薬の材料も沢山採れたしイヤな予感がする」


 2人の男はダンジョンの中に居た、そこはチカテツダンジョンと呼ばれる場所でトンネルと呼ばれるカマボコ型の長い洞窟が延々と続く場所だった。


「ザイもう少し待ってくれ、ペニシリンゴケがもう少しあれば暫く潜らないで済む」


 ヤクの言うペニシリンゴケは細菌の細胞壁を壊す事で体内の細菌を殺す抗生薬の材料でこのチカテツダンジョンの深部、地下水が溜まり始めた場所で採取する事が出来るクスリヒカリゴケの一種だった。


「でもヤク、地下水が溜まりすぎだ、もう奴のテリトリーだよ」



 チチチ、チチチ、チチチ……



 男達は息をのんだ、エコーロケーション、それは真っ暗なチカテツダンジョンの中で獲物を探す魔獣達の音を使った目で有り、その音は冒険者にとって死へのカウントダウンにほかならなかった。



◇◆◇◆



 ダンジョンで仲間を置き去りにする行為はグズの所業である、皆が自分を見捨てないからこそ仲間を信じて危険なダンジョンへの道を進めるのだ。


「新入り起きろ!」


 ユミはチカテツダンジョン近くショウボウショ遺跡の2階でを抱えソファーで眠っていた、あの時と変わらないピンク色の2つのお下げ髪は少しのび、その分の時間が経った事を示していた、そしてそのユミは同じ槍を携えた背の低い男に槍の底で小突き起こされたのだ。


 古代遺物のビルディング、ショウボウショ遺跡を利用したその場所は救難ギルド、迷宮保険組合の宿舎と成っていた。


「何ですかフクスケ副隊長?」


 ユミは起き上がり槍に頬を付けながら半分寝たままその青髪あおがみを目や耳にかからない様に切り詰めた男の話を聞いた。


「出動だ」


「ダンジョン管理ギルドの依頼ですか?」


「ああ、回収依頼だそうだ」


 ユミは暫くただ前を見つめ、スクリと立ち上がり言った。


「私は必ず生きたまま救助します」


「…………ああ」


 ユミはそうは言いフクスケは「ああ」と答えたがったが可能性はほとんど無かった、ダンジョンでの遭難救助はスピードが命だ、素早く危機を切り抜け無ければ魔獣達に囲まれ救助が来る前にそのほとんどが喰われてしまう、つまりそれこそが「仲間を見棄ててはいけない」と言う大原則を冒険者にもたらした理由である。


「諦めたら、見捨てられたら、下で助けが来るかもと希望を持つ冒険者が居なくなってしまいます、そうなれば助かる人も助からなくなる」


 ユミは思い出す、あの暗いダンジョンの中をさ迷い魔獣から逃げ隠れた恐怖と絶望を、救助が来た時の喜びとダンジョンから出られた時の安堵を。


「私は誰も見捨てたりしません!」


 ユミはあの日誓ったのだ、助ける事を諦めたら全てが終わってしまうのだから。



「あっ! あと新入り言うの止めてくださいフクスケ副隊長」


「………………考えとくよ新入り」



◇◆◇◆



「要救助者は2人、薬の材料を求めて潜ったらしい、ダンジョン行動計画表にはペニシリンヒカリゴケの採取と書かれてて6時間で戻るとの記載があったけど、現在2日が過ぎているわ」

 このパーティーの隊長、スクイが状況を説明する、スクイはユミ達と同じ救難ギルドの槍を携えたスラッと背の高い女性で、その赤色の長い髪から赤姫あかひめと呼ばれていた。


「ダンジョン管理ギルドが救難ギルドへの保険料をけちった挙げに句個別依頼料惜しんで報告が遅れたらしい」

 このミッションにフクスケが嫌みを言う、まだ嫌みが言えるくらいには余裕が有るミッションと言う事だ、無茶が過ぎればこのフクスケは隊員の安全を考えミッションそのものに反対するのだ。


「本来あたし等は槍を使って担架を作るから、運び手4人護衛4人で行くところだが、残念な事に背負子しょいこ2人護衛2人で潜る事になったわ」

 スクイも解っている、応急措置をして背負子に背負えば4人体制でも前後の護衛2人を確保出来る、実際狭い場所ではこの方が都合の良い事もあり、交渉で文句良いながらこの体制に誘導したのかも知れない。


「オラが聞いた話だとダンジョン管理ギルドの連中、どうせ死んでっからって背負子は要らんだろって構えだったらしいぞユミっぺ」

 ベテラン背負子のセオイは金髪坊主頭をポリポリ掻きながらグチグチ言った、そしてグチグチ言ってても皆仕事をこなす、セオイに関しては1人で2人担げる程の大男で優秀な背負子としてパーティーに選ばれたのだ、ちなみ小柄なユミも今回背負子だが、新入りは背負子から始める為ベテランと組まされたと言ったところだろう。


「私達は貴重品回収業者じゃ無いですものね」

 冒険者の持つ装備は発掘された貴重な物が多いのだ、私だってグチグチ言う、救難ギルドの伝統らしい。



「グチは仲間にこぼせ、救難現場でのグチは救助者の生きる意思を摘み取る」



 助けに行っておいて救助者を死にたくさせるなって事だ。



◇◆◇◆



 ガチャリ


「もって来たのか?」


「スクイ隊長の許可は取ってますよ」


 ユミは背負子を背負いつつダンジョンの入り口でクロスボウを足で踏み込み、堅い弦を腰に掛けた滑車式弦引きベルトで力いっぱいに引き上げた。


「新入りは弓使いだったな」


 ユミはすぐクロスボウを射れる様に矢をはめ込み引き金に安全装置のピンを刺しクロスボウを腰から下げる、手には彼女の背丈より少し長い槍、ダンジョンに入るユミは常に臨戦態勢だった。


「ランタン点けろ!」


 スクイが鉄兜てつかぶとの先に有るランタンに明かりをともせと言う、このランタン鉄兜は遺跡から発掘されたものですごく明るく防水でとても便利な代物だった。


「失くすなよコレ高いんだからな」


 フクスケがランタンを人差し指で叩く。


「はい、フクスケ副隊長!」


 そしてとってもお高い。


「そして相変わらず不気味ですよね、スクイ隊長」


 それはチカテツダンジョンへの深い階段だった、今は殆ど人のいない巨大な街路の端に古代遺跡の階段が地下へと人を誘い込むようにポカリと口を開けていた。


「何度見ても変な所ですよね、沢山の高い廃墟と何もない広い道、突然空いてる地下通路って……ここにいると私異世界に来たって感じがします」


「なんだ知らねーかユミっぺ? オラ父ちゃんに聞いた事あんぞ」


「何ですか? セオイさん」


「オラ聞いたけどこの遺跡ダンジョン都市はその昔魔法の国でとんでもねえ数の人さ住んでたらしいぞ」


「魔法の国ですか」


「ああ、あたしも聞いたことが有るわ、あたし達が使ってる道具はその魔法の国の物らしいって」 

 スクイも魔法の国を信じる派だ。


「このランタン鉄兜みたいのが山ほど有ったんですかね、すごいですね」

 ユミは少し心が踊る、彼女はまだ冒険者なのだ。


「くだらん、そいつ等は滅んだ自分は生きてる、それだけだ」

 フクスケは身も蓋もない。


 そして私達は暗いチカテツダンジョンへと潜っていった……。



◇◆◇◆



「あまり気を張り過ぎるないでねユミっち」


 スクイが声をかけてくれる、確かに浅い層は小さな魔獣がいる程度で危険は少ない。


「はい解ってますスクイ隊長」


 微かに小さな魔獣の「コトコト」と言う足音と「チウチウ」と言う鳴き声が聞こえる。


「新入りは立派だよ、ここに戻って来たんだからな」


 フクスケ副隊長はツンデレです。


 チカテツダンジョンは結構広い、ランタン鉄兜の丸い灯りがチラチラとアチラコチラを照らす、天井は巨人でも住んでるのかって程高くまるで舞踏会でも開くのかって程のに広い空間を誇っていた。


「魔法の国の人は巨人ですかね」


「新入りはバカなのか? 扉を見てみろ自分等が使うのと同じサイズだ、巨人じゃ使えんだろ」


 ツンデレです。


「知ってます、私も元冒険者ですよ、なごませようと言ってみたんです!」


 ユミは実際初めて潜った時これを言って笑われた事があった。


「よしここからトンネル洞窟に降りるわよ」


 スクイはエキノホームと呼ばれる長い空間から落っこちる様に有るトンネル洞窟への道を槍を使い指し示す、ここからが本番、この先にはヤバイ魔獣が人を喰おうと待ち構えているのだ。



◇◆◇◆



「先手必勝です!」

 ユミはクロスボウの安全ピンを抜くやいなや1匹のオオハダカデバネズミの眉間を撃ち抜き更にもう1匹に槍を真っ直ぐ構え弾丸のごとく向かって行った。


「早い!!」

 フクスケは思わず声が出る、チカテツダンジョンに取り残された恐怖の記憶はユミの知覚を異常な程鋭敏にしトンネル洞窟の影から現れた2匹の魔獣オオハダカデバネズミを有無を言わさず殺すに至った。


「良いわよユミっち」


「ああ新入り、仲間を呼ばれたら厄介だったからな」


 スクイとフクスケは更にオオハダカデバネズミの首をかき切りトドメをさしているユミを見てそう言って誉めた。


「オラが思うにコイツ等がいるって事はこの辺りにエサがあるんじゃ無いかな?」


「エサ!?」


 ユミの目が厳しくセオイを睨む、普段こそ隠すがユミは強く魔獣を憎んでいた。


「す、すまねーだよユミっぺ……」


「ユミっち止めな! 仲間だよ!」


 セオイは謝りスクイはユミの感情を注意した、ここでは冷静さは何より大切だ。


「すいませんセオイさん……」


「オラこそだユミっぺ……」


「取りあえずこの近くを重点的に探そう、新入りを見つけた時みたいに、どこかの横穴に逃げ込んでるかも知れん」


 このトンネル洞窟には狭い道が並走しているのだが所々バリケードを作る為か崩され寸断されていた、それは幾人もの冒険者が魔獣に襲われ逃げ込んだ歴史を物語っていた。


「隊長! ここを」


「傷が新しいなフクっち」


 ガクン!


「扉が開かないわ、向こうから閉めてるみたい、居るかもかも知れないわ」


「隊長、ただひしゃげてるだけかも知れませんよ?」


 スクイとフクスケの会話の後ろ、ユミとセオイは小さな金属の扉の前で槍を構え回りを警戒している。


「ネズミから逃げるにはここしかないから……きっと居ると思うの私」


「ユミっぺもんな所に潜ってただか?」


「ええ、私はかなり深いとこだったから1週間はガリガリやられたわ」


 チカテツダンジョン深部から1人で逃げる事など出来る筈も無く、ただ喰われる恐怖に耐えていたのだ。


「おい! 救難ギルドだ、開けてくれ助けに来たんだ」


 フクスケが声をかけるも反応がない。


「…………ユミっち、来て」


 フクスケは下がりユミと警戒を代わる。


「お願いユミっち」


「……はい」


 ユミは静かに声をかける。


「聞こえますか? 私ユミって言います、救難ギルドの者です、助けに来ました、ネズミは殺したのでもういません、もしも幻聴だと思うなら私の声と名前に心当たり有るか思い返して下さい、知らない者は幻聴でも出て来ませんから」


 返事はない。


「隊長、ここは違うのかも?」


 フクスケが隊長に声をかける。


「……」


 隊長は口に人差し指を当て、静かにとフクスケに示す。


 …………


 ユミは少し考え更に言葉を紡ぐ。


「もしかして2人いますか? もしそうならあなた達は仲間を見棄てなかった勇気ある人です、勇気ある人ならもう一度その勇気を振り絞って下さい、ネズミは殺しました、扉を開ければ助かるんです」


 ………


 ………


 ………


 ………









「ネズミは……いないのか?」



 みんなの目付きが変わる、生きてる! 助けられる!


 スクイは駆け寄ろうとするフクスケとセオイを身振りだけで止め、2人はうなづき警戒に戻る


 スクイはアゴをクイッと動かしユミに続けろと促す。


 …………


 ユミは少し考えて言葉を続ける。


「はい、そうです、助けに来ました、扉の前は私達だけです、魔獣はいません、大丈夫です、必ず地上に連れて行きます」



 扉の向こう側で「ガリリ、ドスン」と音がした、扉を固定していた何かを外した音だった。



◇◆◇◆



 トンネル洞窟の非常口の奥、そこには怯えながらも勇気を振り絞り扉を開けた2人男達がいた。


「ヤクさんとザイさんですか?」


 ユミがそう聞くと2人は震えながらコクりとうなづき、そして2人の足を見て笑顔で続ける。


「もう大丈夫ですよ、必ず連れ帰りますから」


「セオイ、ユミ、2人を担いでちょうだい」


 スクイは静にそう言った。


「血は止まっているのか?」


 フクスケがそう言うと男2人は頷いた、1人は片足をスネから、もう1人は爪先をオオハダカデバネズミに喰われていた、既に2人で応急措置を済ませている。


「ユミっぺ背負子頼むだ」


 ユミはまずセオイの背負子に片足の男を座らせベルトで固定した。


「私もお願いします」


 今度はセオイがユミの背負子に爪先を失ったの男を座らせる。


「長居は禁物よ、帰るわフクっち」


 スクイがそう言うか言わないかの時だった。


 その背負子に固定された男達の顔がみるみる青くなる



 チチチ、チチチ、チチチ……



 ユミはその音を警戒し損ねた、聞きなれない音だった。


「奴だ」


「奴? この音が?」


 フクスケの言葉にユミは息をのむ。



 チチチ、チチチ、チチチ……



「セオイ、槍を貸せ」


 セオイはゆっくりフクスケに自分の槍を渡す。


チチチ、チチチ、チチチ、


「大きい……」


 私がそう言うか言わないかの刹那の時間、両手に槍を持った、フクスケは駆け出していた。


「このワニ野郎ーーーーーーー!!」


「               」


 叫び声をあげたあと一瞬で無言無音に成った、フクスケはそのワニのあごの下に誰の意識下にも気づかれること無く潜り込み一振の槍をワニの顎の骨の間、舌、上顎うああごの骨から鼻の上ま突き上げワニの口を一本の槍で縫い付けた。


「これがチカテツムカデワニ……」


 ユミは初めてそいつに遭遇した、人の背丈程も高さが有り16足もの足を持つ全長10メートルを超えるチカテツダンジョン最大の魔獣、チカテツムカデワニである。



 チチチ、チチチ、チチチ、



「エコーロケーション?」


「ええ、奴は目が無いから音の反射で見るのよ」


 スクイがそっとユミの口を押さえる。


 トン……


 セオイはユミ肩を叩き大丈夫、フクスケに任せろと指をさす、背負子の2人の男は震える手で自らの口を押さえていた。


 チチチ! チチチ! チチチ!


 チチチ! チチチ! チチチ!


 チチチ! チチチ! チチチ!


 チカテツムカデワニは槍で縫い付けられながらも咽を鳴らし鳴き続け敵を見つけようと暴れ回っていた、フクスケは一振残った槍をビリヤードのキューの様に構える。



 スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!



「死ね!」



 大きく息をすったフクスケは一言だけ言葉を吐き出す。



 チチチ?



 チカテツムカデワニはその言葉に反応しフクスケの方へ意識と頭を向けてしまう。




 狙って下さいって言ってるのか? ワニ公




 フクスケの狙い通り動きだった、フクスケはトンネル洞窟の丸い壁を駆け上がりチカテツムカデワニの頭上からその小さな脳のある頭と体を繋ぐ第一脊椎の間に槍を突き刺し見事に寸断した。


 チカテツムカデワニの体は頭からの指令を失い、その力をストンと無くした。


「フクスケ副隊長スゴいです♪」


 私は想わずそう言った、危ない、惚れる所だった……。



◇◆◇◆



 チ、チチ……



「フクっちどうしたの?」


 まだ頭だけて息をするチカテツムカデワニにフクスケは焦りもせずトドメとばかりその頭蓋に槍突き立て潜らせ更に掻き回した。


「あそこ見て下さい」


 フクスケはチカテツムカデワニの背を指差しスクイと話し始める。


「どうしたんですか? スクイ隊長、フクスケ副隊長」


 私が近づくと2人は複雑な顔を見せた。


「……タテヤさん?」


 そこにはオオハダカデバネズミに両足を喰われた私の元のパーティーメンバー、タテヤさんがしがみついていた。


「どうします隊長……」


「コイツの事は知ってるし、パーティーメンバーでも無ければ依頼の対象でも無い」


 2人の会話をタテヤさんは微動だにせず聞いている、どうやらタテヤさんはオオハダカデバネズミから逃れる為にチカテツムカデワニの背にずっとしがみついていたらしい。


「すいませんセオイさん2人いけますか?」


 私はセオイさんにそう言うと、セオイさんは何も言わず背負子の1つを片側の肩にかけ直してくれた、私は自分の背負子をセオイさんのもう一方の肩にかけその2つの背負子が揺れない様に自分の服を破り紐を作って2つの背負子を固定した。


「タテヤさん、私におぶさって下さい」


 それを聞いたスクイ隊長もフクスケ副隊長も何も言わずタテヤさんのプレートアーマーを剥がしを私の背に乗せてくれた、私は槍を使い筋肉ばかりで脂肪の殆ど無いタテヤさんのお尻の下を支え担ぎ上げた、タテヤさんは何も言わない……。



 ちなみにタテヤさん、茶髪お髭のワイルドイケメンでした……何か納得いかない。



◇◆◇◆



 誰1人話す事も無くチカテツダンジョンの来た道を戻って行く、タテヤさんは私の服をその青く成った手で強く握り絞めていた。


「ずっとワニ、掴んでたんですか?」


 私は沈黙を破る。


「その様子じゃ何日もでしょう?」


 仲間を見捨てた者はダンジョン行動計画表すら書かせて貰えない。


「……頑張ったんですねタテヤさん」


 タテヤさんは答えない。


「大丈夫、置いてったりしませんから」


 どうしてだろうか、私の言葉はタテヤさんを励ます物ばかりだった。


 …………


 …………


 …………


 …………


 …………


 そこに居る全員が何も言わずただ私の言葉を聞いている。


「俺は死ねなかったんだ……俺が稼がないとガキが死んじまうから」


 チカテツダンジョン入り口の光が見え大階段を登り始めた時、タテヤさんがそう小さく呟いた。


「………………………………………」


 私は一瞬体が固まりそうになる、そして私はソレを隠す様に槍を持ち直し何も言わずに登り続けた。


 タテヤさん事情は知っていた、タテヤさんはお父さんがその昔タテヤさんと同じように仲間を見捨て片足で帰って来たと言う、それでもタテヤさんを食べさせる為にダンジョンに潜り続けたそうだ、仲間も無く人に罵倒されながらもそうしてくれた「父ちゃん」、タテヤさんが酔った勢いでその話を私にしてくれた事を思い出す「父ちゃんと一緒で幸せだった」タテヤさんはそう言っていた、たぶんタテヤさんの子供も……


「……」

 先頭を行くスクイ隊長がギギリと歯を噛み締める、きっとそんなの理由にならないと私の変わりに怒ってくれているんだ。


「  」

 フクスケ副隊長は私の後ろで冷たくタテヤさんを見つめていたと言う。


「あのオラ……」

 セオイさんは何かを言いかけてやめた、その背中の2人の男は私の前でただ下を向いていた。



◇◆◇◆



「ユミ隊員、もしあの時1人だったらどうするつもりだった?」


 私達はショウボウショ遺跡に戻っていた、屋上でボーとしてるとフクスケ副隊長が話かけてきた。


 ユミ隊員? 


 フクスケ副隊長が言ったのは扉を閉じ立てこもったあの2人の男達の事だ、もしあの時中には1人しかおらず仲間を見捨てて逃げていたとしたら、その言葉は逆効果に成りかねないものだったからだ。


「その時はその時考えましたよ、フクスケ副隊長♪」


 あらやだ、フクスケ副隊長が鳩マメ顔だ。


「ウケる(笑)」


「何故笑う?」


「何ででしょう?」


 チッ!


 舌打ち可愛いなこの人


「例え何があっても私はダンジョンで誰も見捨てたりしないです、だってその人の苦しさも寂しさも怒りも痛みも孤独も絶望も身近にあった筈の優しさも愛もそこで生まれた狂気すらも、私には解るんですから……」



 チカテツダンジョンを登りきった私の背で、「はぁっ」と安堵の息を漏らしたタテヤさんの体が一瞬軽く成った事を私は忘れないだろう、この背に残った感覚が私が人の命を救った実感なのだから。

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ダンジョンレスキュー! 山岡咲美 @sakumi

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